10 二人で修行!!
「いくぞ!!ユキ!!」
「おっ…おぅ!こい!!」
クリスと和解してから数日後。
俺たちは4日後に迫ったフィールとの決闘に備えて、城から離れたとある地下闘技場で修行を行っていた。
…つっても、修行をするのは俺の方だけどな…。
この地下闘技場は、派手な戦いができる特別な施設で、しかも受けたダメージは無効化されるように設定することができる。
いつもは興行目的のイベントなんかで、魔物同士のバトルが行われるが、魔王という特権を使って貸しきり状態だ。
興行主も少し不満げだったが、相手がクリスと知ってからは手のひら返して快く快諾してくれた…と思う。
フィールや他の魔物に気づかれないように、出来るだけ目立たぬよう修行をするならここがベストだと思ったが…大丈夫かな…。
バレなきゃいいけど…。
「はぁぁぁぁ!!」
…ヒュン!ヒュン!ヒュン!
…ドドドドドドド!!!
クリスから放たれた無数の光弾が迫ってくる…。
って!
ヤル気満々じゃねぇか!!
「ちょっ!まっ!うぉぉぉぉ!!!?」
俺はとにかく走り回って避けることに徹したが…さすがにキツイ!
何発撃ってんだよ!
右に左に蛇行しながら全速力で駆け巡る…。
こんな闘いかたって…カッコ悪っ!
「どうした!そんな動きかたでは私の攻撃は避けきれんぞ!回避行動に移れ!!」
クリスは攻撃の手を緩めることなく、俺にアドバイスをしてくる…。
…できればもうちょい攻撃のペース下げて…。
「くそっ!うぉりゃぁぁ!!」
俺は走りながら真横に飛び出したり、回転したりして回避行動を行う。
…これ…けっこう体力いるぞ…。
「よし!今度はさらに2倍のペースで打ち込むぞ!」
「えっ!!いや!それはヤバ…」
ドドドドドドド!!!
「うげぇぇぇ!!!?」
あまりの早さに俺は回避するまでもなく、無数の光弾を受けてしまう…。
ダメージは受けないものの、俺はそのまま後ろに飛ばされてしまい、観客席のなかへ背中でダイブ…。
ドンガラガッシャァァァン!!!
「おい!ユキ!大丈夫か!?」
…大丈夫じゃないです…。
一
…
『…そうですか…。まぁ、仕方ないでしょう…。この前まで戦闘の「せ」の字もわからなかったのですから…。』
「メーラ…そんな言い方しないでくれよ…へこむ…」
『事実ですから…』
「事実だけどっ!オブラートにしてっ!まじでっ!」
『…全く…これだから愚民様は…』
修行の合間を縫って、俺は遠距離通話アイテム「ミモルン」を使って、メーラと連絡を取っていた。
「ミモルン」
このアイテムを使うと、遠く離れたプレイヤーと連絡を取ることができる。1つにつき15分まで。携帯電話みたいなもの。
「…にしても…ここまでだと…もっと修行しなきゃなぁ…」
『…間に合いそうですか?』
「…うーん。自信ねぇわ…」
果たして、俺の計画通りになるだろうか…。
―
特訓をすることになるちょっと前…
「…さて、クリス様とも和解できたことですし…さっそく本題に移りましょう…。これからどうされるおつもりですか?」
クリスと仲直りしたあと、改めて3人で集まり、今後の対策について話し合うことになった…。
皆真剣な眼差しで俺の考えを聞こうとしている…。
俺の考えに全てがかかっているわけだ…。
「…あぁ…もう決まってる…」
そう…フィール戦に備えて、俺はある程度の策は考えていた…。
聞くがよい!
影の軍師の力を!
「レベル上げ!」
「当たり前ですね」
「回復ポーションの調達!」
「当たり前ですね」
「ドーピングの調達!」
「当たり前ですね」
「罠の調達!」
「当たり前ですね」
「必殺技の修得!」
「中二病ですね」
「コラッ!メーラ!さりげなくバカにすんなっ!これでもしっかりした計画だろうが!」
「ですが…当たり前すぎて何とも…。相手はあのフィールですよ?そんなものだけではどうすることもできないでしょう…」
ぐっ…!
こんなに言われるなんて…。
「…わかったよ!そんなに言うなら…しっかりした策もここで言ってやるよ!最後にこのスキルを使って勝負を決める!どうだ!」
俺はどや顔で自分の持つスキル一覧の中から、1つのスキルを2人に見せる!
…が
「…こんなもの…役に立つのですか?」
「…ユキ…これは…あまりにもひどいだろう…」
オゥッ!シット!
この策だけはものすごく自信あったのに…。
ここまで落胆されると…へこむ…。
「ユキ様…そもそもこのスキルはギルド戦やチームで戦うときに力を発揮しますが…一対一のサシ勝負では使えないのでは…」
「そうだぞ…こんなものでは…フィールを追い詰めるには…少し物足りないというか…。別の策はないのか?」
…おっ?
どうやらお二人とも俺の作戦の真意には気づいてないみたいだぞ?
確かにこのスキルはサシ勝負では使いもんにならん、へなちょこスキルだが…今回に限ってはちがう!
よし!
説明してやるか!
「チッチッチッ!このスキルを使った策に関しては裏があってだな…まぁ聞いてくれよ…」
…
一
…
「…とまぁ、こんな具合にこのスキルを使って、フィールを追い詰めるわけだ。…ってどうした?」
せっかく懇切丁寧に説明してやったのに、二人とも口を小さく開けただけでリアクションが薄い…。
えっ…もしかして…ダメなの?
なんて思ったら…
「…なるほど…確かにその策なら…フィールを追い詰めるには充分…ですね…」
「すごいぞ!ユキ!これならなんとかなりそうだな!」
さっきまでの雰囲気は何処へやら…。
俺の策をべた褒めして、クリスなんかは笑顔で俺に抱きついてきた…。
ここまで喜ぶとは…。
だが、メーラは浮かない顔をしながら、この作戦の気になる点を指摘する。
「…しかしユキ様…そうなると…」
「まぁな…確実に長期戦になる。フィールが一気に勝負を仕掛けてくると、かなりしんどい…」
「そのためのレベル上げ、回復ポーションとドーピングと罠の調達、必殺技の修得…というわけですか…」
「そゆこと」
そう…この作戦を実行に移すには、気の遠くなりそうな準備や、長期戦に耐えれるだけの力が必要になってくる…。
ここが問題なんだよなぁ…。
どうしよう…。
なんて考えていると
…ガダッ!
…とメーラが突然立ち上がって、俺の方をみつめてきた。
どした?突然…。
「わかりました…このメーラ…今回の作戦に全力でサポートいたしましょう…」
おっ?
いつになく真剣だ…。
「回復ポーション、ドーピング、罠の調達は私が担当いたします…。資金については蓄えがいくらかあるので、大丈夫です」
「えっ!?いや…回復ポーションはいいとして…ドーピングと罠は高価だろ?しかも、数も限られてるし…」
「ご安心を…ユキ様のためならどんな無理難題も解決できます…。こちらの心配はご無用です」
…珍しいな…。
ここまで俺に協力してくれるメーラは初めてだ…。
「よし!ならユキのレベルアップと必殺技の修得は私がやろう!!戦闘の指導なら私が適任だろ!」
おぉ…今度はクリスまで協力してくれるとは…。
本人はヤル気一杯だ…。
でも、魔王との訓練って…めっちゃこわい…。
「よ…よし!なら時間も残り少ないし…早めに行動に移そう!それじゃみんな…マジでよろしく!あと…ありがとっ!」
こうして、俺のための特訓が始まった…。