48 百聞回廊
ほぼセドリックとローナの独壇場だった一日目の作戦会議は終わった。
終了間際、「俺が連れていく」と果敢に言ってのけたセドリックに、おお、と沸いた私僕たちが拍手まで送ってしまったせいで、半ば強制的に終わらされた。
昨夜以上に、ぎこちない就寝の挨拶をクローディアと交わしたセドリックは、ローレンスとオーウェンを連れて自らの居棟に戻るが、その際、ローレンスとオーウェンは図書室から持ち出した多数の本を抱えていた。
百聞回廊に関する文献や参考書をローナがすでに見繕っており、図書室ばかりか地下の大書庫からも選りすぐって来たようで、かなりの重量と化している。
セドリックは、ひとまず小書斎と寝室の両方に運ぶように命じ、自身は軽い湯浴びを済ませてから、小書斎か寝室の気が向いた方を選び、寝室へと入る。
ベッドに入って運ばせた本を読み出すが、半分もいかないうちに睡魔に襲われたようだった。本人は徹夜でもする気だったのだろう。少しだけ横になるとローレンスに言づけてから眠りにつくが、一昼夜あれだけ眠ったのに結局朝まで起きなかった。
朝、ほどよい時間に起きられたセドリックは、クローディアと朝食をとる。
この家が五十年の不能から復旧したのち、はじめて男主人と女主人――夫婦が揃って食卓を囲む快挙を達成した屋敷私僕たちは、二人の視線が合うたび、会話を切り出そうとするたび、手元の作業を止めてしまいながらも、なるべく空気として振舞い、見守った。
しかし、両主人の会話はまったく弾まない。
空気になり切れない私僕たちのせいもあるだろうが、食事の席に合うような談笑を今の二人に期待するのが、そもそも時期尚早であるため、ローレンスは一度に求めすぎないよう、自分を含めた皆を厳しく戒める。
二日目は、午前から作戦会議がはじまった。
前日に大筋の固まった、段取りの確度をさらに上げていくため、急所の補完や、細部の具体化を詰めていく話し合いになった。
煮詰めていく内に、いつの間にか男主人と侍女、女主人と家令と家内業務を兼ねる従僕と家女中と料理番のグループに分かれていたが、ひとつの目的を目指して分かれた作業であるため、最終的にまたひとつの一団に戻り、その日の会議は終了した。
そして、朝食同様、昼食と夕食の新たな快挙もその日の内に達成する。
三日目。
煮詰めて練られた作戦を、事前に確認し合う作業に終始しつつ、決行日の明朝に備えて早めの就寝を取ることになった。
ほんの少しだけ慣れてきたように思われる、おやすみなさいの挨拶を交わす両主人だったが、互いの居棟に引き上げる前に、クローディアがセドリックに何か言いたそうな顔を向けていた。
「……なに?」
クローディアの訴えかけるような眼差しに、セドリックが先に音を上げる。
その場にいた誰もが少なくない緊張感に包まれながら、クローディアの返答を待ったが、彼女は目を伏せて首を横に振ると、「おやすみなさい」と二度目の言葉を繰り返した。
男主人に続いて女主人の謎行動に、ローレンスはローナを見たが、彼女もあずかり知らないことなのか、それとなく探っておくと目で合図され、ローナは背を向ける女主人の後を付いていった。
少々気がかりなことはありつつも、一夜は明けて、作戦決行日当日が訪れる。
朝早く出かけるため、両主人は朝食を一緒に取ることはせず、両者の準備が出来しだい、玄関先の車寄せまで集合することになった。
明けやらない空の下、先に外へ出ていたセドリックの後に、クローディアが現れる。
ローレンスが着付けたセドリックは、洗濯女中をかねるマーガレットの献身的な手当によって、度重なる不可抗力から奇跡の復活を遂げた魔導士のローブ姿だったが、ローナが着付けたクローディアもまた、目立たせないためだろう、ローブに似たクロークを羽織っていた。
まずセドリックが馬車に乗り込んで、クローディアが後に続くが、腰かけた座席は彼の隣ではなく、一番距離の離れた斜め前の席だった。
一瞬おかしな空気が流れたが、ローレンスとローナは互いにフェレットと銀細工のチョウに化けて、互いの主人へと身を潜めると、御者のハーマンに車を出すよう言いつける。
無言がちになる車内でも、百聞回廊の突破と、突破後の老君との交渉手段の確認を両主人に促して、これ以上おかしな空気にならないよう努めた。
実は、昨夜の女主人の謎行動、それとなく聞いておくと目くばせしたローナは、当日の内に実行して謎行動の理由をきちんと聞き出していたのだ。
必然とローレンスにも筒抜けになり、謎行動の答えをローナと相談し合った結果、優先すべき事柄が終わるまで、今はそっとしておくのがいいとの結論に至った。
やがて、王立学院へと到着し、錬鉄製の大門をとおって学林館の車寄せで下車すると、百聞回廊を一気に目指した。
朝も早いため人気はない。各学舎や遊歩道にいる永久公僕たちの視線を感じるが、セドリックとその連れが呼び止められることはなく、百聞回廊の古めかしい外観を前にする。
鏡板の廊下と四つ辻の列柱廊を繰り返す百聞回廊だが、屋敷私僕が相手では意味はなく、一度たりとも道を間違えることなく、目的の列柱廊へとたどり着いた。
列柱廊の方庭には、二つに折れた石柱が寄りかかるように倒れ込んでいた。
かの有名な『尋ね石』である。
よほどの新参者でもなければ、あの石の用途を誰でも知っているだろう。
誰もが使い方を知っていながら、誰も使わなくなってしまった尋ね人の道。
男主人と女主人が、方庭に足を踏み入れようとした途端、女の声がかかった。
「お待ちください」
かつん、と床をたたく音に振り返れば、かしこまった制服と木杖を携えた人工精霊が一体、列柱廊の向かい側に立っていた。
「永久公僕、百聞回廊の警士でございます。どのような目的あって、その地に踏み入れますのか。無用でしたら、倒壊の恐れがありますので直ちにお下がりください」
そうやって牽制すれば、面白半分で近づく人間は、たいてい引き下がるのだろう。
セドリックは、聞かれた目的を正直に答えてみせた。
「…百聞回廊を抜けに来た」
警士と名乗った公僕がわずかに瞠目した。だが、すぐに持ち直す。
「――では、お進みを」
言われた通り、セドリックはクローディアを連れて中庭中央の折れた石柱まで足を進めて行き、ためらいなく『尋ね石』に触れた。
石柱の表面がわずかに発光する。
長い間眠りから覚めるように、ほのかな光が一か所へと集約されていき、少々仰々しい演出とともに、警士の制服と木杖姿とは違う、厳かなガウン姿の人工精霊が現れる。
「よくぞ参られました。わたくしは百聞回廊の学窓を案内する神祇官にございます」
言いながら、男性の神祇官は一礼すると、『尋ね石』に触れた意図を問うでもなく踵を返し、率先して歩き出す。
「こちらへ」
神祇官に先導されて、両主人は百聞回廊の方庭を右手にそれて列柱廊へと戻り、廊下を進んでいく。
廊下の角を曲がり、また進んで、また曲がる。
途中、 助手や講師の永久公僕たちと出くわし、神祇官の姿を見止めるなり好奇の目を両主人にも向けてくる。これから二人が何をするつもりなのか公僕たちの間で広まるだろうが、彼らが部外者に吹聴することは無いため、放っておいていいだろう。
厄介なのは、見咎めるのが人間だった場合だが、幸い誰とも出くわすことなく、やがて深い古色に磨き込まれた木製の両扉の前で止まった。
ここが、神祇官の言う、百聞回廊の学窓なのだろう。
彼はわざわざ取っ手に手をやって扉を開けると、そこは講堂のような大広間だった。
部屋の広さの割に低い格子天井と、入ってきた扉と全く同じつくりの両扉が向かい側にあるが、窓のたぐいは一切なく、大広間には椅子だけがあった。
椅子が一脚だけという意味ではない。
小椅子、背もたれ椅子、肘掛け椅子、安楽椅子、大きなものは長椅子や寝椅子まで。ひとつとして同じものはなく、革張りや布張り、様式や意匠も異なる椅子たちが、広間に整然と居並んでいる。
「では、ヘインズ様、ヘインズ夫人。これに並ぶ、意にかなった椅子を十お選びください。お選びいただけましたら、椅子に座したる十体の永久公僕と十の言葉を交わしていただきます」
どうやら、我が家にあった文献に記載されていた内容に大きな変化はないようで、ローレンスは胸をなでおろす。
あたった文書のいくつにかは、同様の内容が書かれてあり、百聞回廊の突破条件は、十体の永久公僕による十の問に答えることであると、だいたいの見当はつけていた。
選ぶ椅子は、永久公僕たちの職場で実際に使用された椅子であり、椅子の選び方次第で言葉を交わす公僕をある程度しぼることも可能だと言う。
セドリックとクローディアは、自分たちにとって有利になる公僕を選ぶため、神祇官に言われた通り椅子を選びはじめた。
数ある椅子の中から、見た目だけで見分けていくが、広間には本当に様々な職種の椅子が揃えられてあり、そこに刻まれた歴史までが読み取れるようだった。
工房か倉庫で踏み台にされていたのか、ぼろぼろに使い込まれた粗末な小椅子。玉座のように意匠の凝らされた椅子もあるが、本物であるはずがないので、劇場などで使用されてたものかもしれない。
貴婦人の休息用だろうか、豪奢なクッションの付いたベルベットの寝椅子。用途は見たまま、鉄枷や拘束ベルトを装着した角材のような肘掛け椅子。憩いの場や養生の場を想起させる、ゆっくり時を揺らすためのロッキングチェア。雨風に晒される状況にあったのか、塗装の剥落が激しい木のベンチ。
じっくりと選びたいところだが、あまり時間はない。
セドリックとクローディアは、ローレンスとローナに覚えのある椅子を耳打ちされながら、十の椅子を選んでいった。
選ばれた十の椅子は、神祇官によって広間奥に運ばれていく。
「これにて十です。よろしいですか?」
神祇官の最終確認に両主人が頷くと、十の椅子が運ばれ行った先に置かれた、三人掛けの長椅子を勧められた。
平織の長椅子に腰かけると、一脚の椅子が両主人の前に運ばれる。
装飾性が極力抑えられた簡素な椅子だった。書類作業や机仕事に向いた布張りの肘掛け椅子であり、セドリックが一番最初に選んだ椅子である。
「ご健闘を」
神祇官が一礼して下がると、肘掛椅子に座した人影が浮かび上がる。
かしこまった制服を着た男は、はっきりと姿を現するなり、ぱちんと手を打った。
「何十年ぶりでしょう、この語らい。過ぎたる昔、興味本位でまったく通過する気のない方がこられて、後でこっぴどく怒られてしまってから、臨む者はぱたりと途絶えて」
「始めてもらっていいか。こっちは急いでいる」
「これは、つれない。ヘインズ様もおなじみの顔ではないですか。しかし、貴方ほどの方がどうしてまた百聞回廊の突破を目論見ますのか。やや、そちらにおられるのはヘインズ夫人。はじめまして。もしや、貴女が」
「早くしろ」
「はいはい。私は、永久公僕、特別研究館北棟の助手エイベルです。ヘインズ様とは、魔法及び臨界現象研究室にて懇意にさせていただいております」
エイベルと名乗った公僕は、女主人に向かって自己紹介するので、クローディアも彼に倣ってお辞儀を返す。
研究室の助手というセドリックの知り合いを、いきなり引き当てたのは偶然ではない。ローレンスが研究室で使われている事務椅子と同様の椅子を覚えていたのだ。
百聞回廊の席では、私僕の力を借りても構わなかった。
問う側もそれを考慮して問いかけるし、答える側がどうやって答えるかも判断基準に入る。何より屋敷私僕を連れられる人間ならば、すでに一定の水準を満たした教養と立場にあるため、禁じるほどの理由がないのだろう。
「さてと。ヘインズ様、最近は老君からの頼み事にかまけてましたからな。学問は常に日進月歩。私めが繰り出したる、最新鋭の叡知に付いてこられますかな」
エイベルは不適に笑いながら肘掛に椅子にもたれかかり、両手の指を合わせた。
彼の口が切り出したのは、正導学分野における魔法現象と臨界現象の対称性に基づく、変化の相互作用についてだった。
「――よって、二者のつながりから、本来期待された魔法現象へと反転し返すことは可能か。可能な場合、これを探求し運用させる実利はあるか」
「反転の反転は理論上可能。だが、これまでの検証と同様に、同条件下での臨界現象の再現は極めて稀で、臨界に至る原因の解明がなされない限り空論の域を出ない。しかし、探求の実利はある。もし、反転の反転をあらかじめ導体構成図へと組み込められるなら、研究室の悲願である、臨界現象の永続的な克服につながる」
ほとんど間を置かずにセドリックは答えた。
エイベルは正否を告げなかったが、まだまだ序の口だと言いたげに出題を続ける。
けれど、問うたび問うたびセドリックはほぼ即答してみせた。まるで答えを最初から知っていたかのように答えていき、実にあっさりと全問回答を成し遂げてしまう。
正否を告げないまま手で顔を覆うエイベルに、セドリックはため息交じりに言う。
「…あのな。お前たちが、いちいち研究報告や論文の写しを送ってくるのに読んでないと思うのか」
ぐっと、エイベルは低く呻いた。
「――感激っ」
最後の一言を残して、エイベルは事務椅子から姿を消した。
神祇官が、淡々と用の済んだ椅子を片付けて、新たに椅子を持ってくる。
エイベルの椅子と似通ったデザインの椅子に現れたのは、女性の永久公僕で、学林館講堂の講師を名乗った。
彼女の問い掛けは、嵌合体理論の応用性についてだった。
古い物の素体と素体を接ぎ合わせた体の魔法道具における適合確率。魔法装置、とりわけ人工精霊に適用された場合の成功確率。旧家のナンバリング回路が嵌合体理論の起点である論拠。寄木理論との差異をもとめた論考などが発問された。
彼女の問いにも無難に答えいき、セドリックが十個目の問いに答え終わると、講師は拍手を鳴らしながら嬉しそうに帰っていった。
次の公僕は、学生科の教師だった。
化粧板構法を生み出した人物の名前。額縁の部材法が確立された年代。導体構成図の模試など、学生科の教師とはいえ一般試験レベルの出題だったが、単純に基礎知識を問いたかったのかもしれない。
引き続き、セドリックにとって有利な永久公僕が呼び出されていくが、中には、椅子から立ち上がって、うろうろしながら話すせいで、中継ぎである椅子の実体化範囲から外れて危うく消えかける公僕や、十問以上を問い掛けて、あわよくば居座ろうとする公僕もいて、神祇官に止められていた。
椅子に着席する永久公僕は、どれもこれも明確な答えのある問いばかりするが、選ぶ椅子によっては、もっと存在論や感性論といった観念的なものを論じる公僕もあるという。
時間があれば、ローレンスの主人は彼らにも興味を持っただろうが、今の二人に悠長に過ごしている暇はないため、主人の得意分野から攻略する他ない。
細工の彫りや古艶も十の色を見せる事務椅子が次々と入れ替わっていき、結局、二時間近くかかった十体十問の答弁も残りひとつとなった時、不測の事態が起きた。
前の九つと同様に、両主人の前に肘掛椅子が置かれたが、公僕がいっこうに席につかない。
「――申し訳ありません。こちらの椅子に設置されていた者はもういないようです。最後のひとつを改めてお選びください」
ぬけぬけと言ってのける神祇官の言葉に、ローレンスは反発した。
そちらの不手際だろうと咎めようとしたが、時間が惜しいとセドリックに止められる。
大人しく椅子を選びなおすが、男主人の得意分野はだいたい選び終えてしまっている。
学院構内の事務椅子は他に多数置かれるが、残っている椅子はまったくの専門外か、決められた答えが存在しない哲学的な問答がほとんどだろう。
他には、千人広場の議事堂や憲兵の詰所といった官庁舎の事務椅子があるようだが、ローレンスの主人は現場経験がほとんどないため、どんな投げかけが飛び出すか分からない椅子は選び辛い。
セドリック本人と相談しながら、ひとまず取り損ねた得意分野の椅子はないかしらみつぶしにする作業に長い時間を取られていると、同じように椅子を選んでいた女主人からローナを通して連絡が入る。
ローナの話を聞いて、ローレンスは彼女からの言葉をセドリックに伝えると、彼は少しだけ迷ってから、クローディアの提案を受け入れた。
三人掛けの長椅子に両主人が腰かけると、最後に選ばれた椅子が神祇官によって運ばれて、二人の前に据えられる。
ほどなくして、クローディアが選んだ肘掛椅子に一体の公僕が着席した。
「……わたくしは、孤児院の永久公僕、緑の園の修道女ファビオラです」
彼女は、美しくたおやかな微笑みを、クローディアへと向ける。
「ヘインズ様、お久しぶりです。先週はお姿が見られなかったので、皆が寂しくしておりました」
「…はい。あの……はい。また行きます。すぐに」
色々あったことは伏せて答える彼女に、ファビオラは視線をゆっくりとセドリックに移したが、すぐにまたクローディアへと戻す。
「つもり話もございますが、ひとまずは、ここに呼ばれた役目を果たしましょう」
「…お願いします」
「わたくどもの院が、ここ十年で何人の人間を職員として雇ったか、ご存じでしょうか」
「…………一人も、いません」
女主人は少し間を置きながら答えたが、ファビオラはひとつ頷くと先を続けた。
ファビオラの問いは、孤児院に関することがほとんどで、院生たちが卒院する年齢や教室の絵本の表題、庭に咲く花の種類など、クローディアにも答えやすい質問をわざわざ選んでくれている気配があった。
間違えることなく彼女が十問答えきると、ファビオラは「心に止め置いてもらえて嬉しい」と一言添えて、最後は、お辞儀をしながら座した椅子から消えていく。
「おめでとうございます。百問達成です」
神祇官が、これまでで最も深い最敬礼をセドリックとクローディアの二人に送る。
「貴方がたは見事、百聞回廊の学窓を制覇されました。これより先に待つ一番地ルイナへとお進みください」
言うなり、入ってきた両扉の向かいにあった、全く同じつくりをした深い古色の両扉が静かに口を開いていく。
両主人は互いに顔を見合わせ、息をつくような笑みとともに立ち上がると、開かれた両扉へと向かった。
女主人の機転によって、いたずらに時間を浪費せずに済んだが、十の椅子選びも入れると、百聞回廊を突破するのにすでに二時間以上はかかっている。
学院内で寝起きする人間たちが、そろそろ朝支度を終えた頃だろう。
いずれ誰かが、百聞回廊の異変に気づくかもしれない。
ローレンスはセドリックのフードから、クローディアの横顔を見つめた。
彼女にとっての本番は、これからである。
だが、我が家の女主人には、彼女の侍女と男主人、そして家令を筆頭にした屋敷私僕がついている。必ずや成し遂げてくれるだろう。
ローレンスが、主人たちとともに古色の両扉を抜けると、一瞬、屋外に出てしまったのかと錯覚するほど、天井の高い場所に出た。




