表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/66

21 中庭での集い会い


 「…………お茶会、ですか?」

 「ええ、いかがでしょう」


 お菓子を包む包装紙とリボンを切り分けていたクローディアに、侍女のローナがそう微笑んだ。


 クローディアとローナはいま、小間(ブドワール)にいた。


 『女主人の小部屋』とも呼ばれるこの部屋は、女主人にとって特別プライベートな私室であり、隠し部屋や逃げ込み部屋といった方が部屋の用途には即している。


 内装は女主人の好み、たとえば、淡い青や淡いピンクで塗装された羽目板――化粧板を基調として、角という角が削り取られた丸い縁飾りや、色とりどりなベルベットのクッション、デコレーション菓子のような小物を多用した、家具調度を詰め込んだり、


 反対に、木蝋で磨かれた羽目板――鏡板を基調として、古艶のきいたロッキングチェアやガラスシェードの卓上ランプ、季節のドライフラワーを配して、くつろいだ雰囲気を演出したりするなど、その人の趣味趣向が如実にあらわれる場所でもある。


 多くの場合、読書や刺繍など趣味に没頭する部屋として使われるが、クローディアも多分に漏れず、自分の趣味趣向が大いに反映された小間(ブドワール)を作り上げていた。


 磨かれた鏡板を基調としているが、置かれている家具は、はじめからローナが用意した椅子とソファ、テーブルとキャビネットだけで、二年前から変わっていないが、テーブルには、筆記類や手作りの図面が置かれ、キャビネットには、大小様々な定規やはさみ、裁断ナイフ、接着剤が入っており、部屋の片隅にはボール紙とリボンの巻束が何巻もたてかけられている。


 それらは、お菓子を入れる箱や、ラッピング用の包装紙を作るための工作道具だった。


 中でも、部屋の一角を占めるのは、すでに組み立てられた紙箱で、少量のお菓子を入れるための小箱がほとんどだが、丸や平らの箱もうずたかく積み上がっている。


 ラッピングの見本として置かれているカラフルな箱もあるが、だいたいは接着剤のにおいが取れるまで、数ヶ月のあいだ放置してある無地の箱たち。


 そんなクローディアの小部屋で、いつものように孤児院を訪問するための下準備をしていた時、ローナが切り出した。


 「そうですね……今度のお天気の良い日に、中庭(ガーデン)で、小さなお茶会をしてみませんか?」


 そんなことを言い出すのは初めてで、どういうことかとクローディアが首を傾げると、ローナは同じようにリボンを切り分けながら口にした。


 「来週、緑の園で月に一度のお誕生会があると伺っております。奥様は、その時もケーキなど焼き菓子を作られますが、プレゼントなどは用意されておりませんね」


 「…はい」


 せっかくのお誕生会なのだから、子供たちそれぞれが欲しがっているものを贈りたい気持ちはあったが、毎月毎月、人数分のプレゼントを用意することはためらわれた。


 そうした理由もあって、クローディアは少し前まで誕生会には参加せず、孤児院の中庭で行われるそれを別室から眺めるにとどまっていた。


 だが最近は、子供たちと仲良く遊んでもらっている。だから誕生会にも、何度かお呼ばれされているが、やはり、プレゼントまでは用意できていなかった。


 「奥様が気にされているのは、きっと金銭的な面だと思います。ですから、お金をかけずに趣向を凝らしてみてはいかがでしょう」


 「趣向……」


 「ええ。たとえば、本や詩集などの読み聞かせです。これなら本一冊でも、皆さまへのプレゼントとして成り立ちますし、本自体は孤児院に寄付すれば、ひと月に本一冊の出費で済みますよ」


 本一冊で読み聞かせ。

 そんなプレゼント方法など、クローディアは考えてもみなかった。


 「そこで、先ほどの話に戻るのですが、お誕生会が中庭で催されるのなら、まずは我が家の中庭で練習してみてはどうかと。どうせならお茶会という形で、僭越ながら私どもを子供たちに見立てていただいて。ためしに一度、やってみませんか?」


 「…………」


 いったいどうしたのだろうと、思う。


 今までは、クローディアから何か言わなければ、孤児院や街の散歩などプライベートな部分に踏み込んで来るようなことは、あまりなかった。


 ただ、今までにないローナの行動を奇妙に思いこそすれ、彼女たちがクローディアの不利益になる事をするはずがないのは確かである。


 そうして、クローディアなりに彼女の提案を考慮した結果、子供たちにプレゼントをしてみたいという気持ちが、圧倒的な大差を付けて勝利した。







 「魔導士のリスト、ですか?」


 「そう。この間、老君に提案したヤツ。でも、性悪共の腰が地面に張り付いているせいで、返事待ちだろ。だったら、その間にリストを作る方法を考えようかと思って」


 「それは、それは……」

 「……何だよ」


 セドリックは、含みのある言い方をするローレンスに目をやる。


 「とても良いことだと思います」


 言葉を濁されるかと思いきや、返ってきたのは予想外の賛辞だった。

 やたら屈託のない笑みを浮かべるローレンスに、セドリックは憮然として押し黙る。


 大書斎での一件で、色々と受け入れがたい一面を突きつけられたが、ひとまず、例の仕事をさっさと終わらせれば、それだけ人工精霊の濫用も防げるという論法を打ち立てることで、とりあえず自分を納得させた。


 だから今日は、手が空いたこともあって、もっと効率的な方法を練ろうと、日浴室(サンルーム)にあるティーテーブルの上でペンを執っていた。


 その傍らで、ローレンスがこともなげにお茶を用意しだす。

 多少思うところはあったが、セドリックもそれ以上の言及を避けることにした。


 紅茶が注がれたカップとソーサーをテーブルに置いたローレンスは、一面ガラス張りの窓際へと歩いていくと、中庭へ続く大窓を開けはじめた。


 空気の入れ換えでもするのかと思いきや、日浴室だというのにわざわざカーテンのレースを引き、窓際全体を覆っていった。


 やや明度を落とした室内に、開いたままの窓からそよ風が吹き込む。カーテンレースが風を孕んでふわりと揺れていく。


 どうにも不可解な行動を、セドリックは問いただそうとしたが、それより早く中庭から声が聞こえてきた。


 『今日は、良い天気に恵まれましたね。ほら、庭園の花々がとても鮮やかに』


 『あ。奥様、こちらですよ。こちらの東屋(ガゼポ)です』

 『ちょっと、アリッサ。そんなに急いではダメよ。埃が立ってしまうわ』


 聞こえてきた女たちの声に、セドリックはローレンスを見ていた。


 「実は、今日の昼頃、つまり今から、奥様が中庭でお茶会をなさるそうです」

 「……おい?」


 ふてぶてしいまでの露骨な行為(たいど)に、セドリックの口角が引きつる。

 それにも構わず、笑顔のローレンスは続けた。


 「旦那様。私は、旦那様の精神衛生上に良いことがあるなら、何だっていたします。それは、皆も気持ちを同じくするところ。ですので我々は、お猫さまにも誠心誠意お仕えする覚悟は、とうに出来ております」


 ―――開き直ったっ。

 呆気に取られるあまり、声になって出てこない。


 この間の一件が、よほどの動機付けになってしまったのか、猫二十匹のペナルティーがペナルティーとして意味を成さなくなった。


 「ここの窓は開けておきますね。閉めるかどうかは、旦那様のお好きになさってください。では、私は一端下がらせていだだきます。御用の際は、いつでも申し付けください」


 そう言って、部屋から退室するローレンスを見送りながら、セドリックは額を抑える。


 身体のリズムを整えるためだと言われて、いつもの小書斎ではなく、この日浴室に来ていたが、それが意図的な誘導だったことにようやく気付いた。


 しかし、意味を成さなくなったとはいえ、このまま放っていいわけがなく、どうするべきか頭を悩ませる。


 まず、猫はいちおう手に入れるべきかを考えるが、そもそも猫はどこで手に入れればいいのか、根本的な問題に突き当たった。


 子供の頃は、出かけた先で野良猫を何度か見かけていたが、最近はまったく見ておらず、あれは店頭で売っているものなのかも良く知らない。


 売ってなければどう手に入れるか。野良猫の捕獲作戦が頭の中で展開されていくが、そうやって猫の工面ばかりを考えている内に、中庭では賑やかな会話が交わされていた。


 『お聞きになりました?ゴードンがこの日のために、特製のハーブティー用意したとか』

 『あら、私だって木苺を摘むの手伝ったわ。今日の特製ジャムですよ』


 『それを言うなら、私なんて一年前にコケモモのシロップ漬けを手伝ってるわよ。ほら、このフルーツサンドです』


 『あ、私もオレンジの皮を砂糖漬けにして、今日のオランジェットに』

 『はいはい、もういいでしょ。奥様が困ってらっしゃるわ』


 『気になさらず、お好きなものを召し上がってくださいね。ちなみに、こちらのスコーンは新レシピで、私がレシピを入手いたしました』


 『ええ、ずるいですよ』


 何人かが密やかに笑う声がして、それから、聞こえてきた。


 『ありがとうございます。ひとつずつ、いただきます』


 クローディアの声を聞いたのは、九年――いや、二年ぶりだった。

 先日、小書斎に呼び出した時は、彼女は一言も口を利かなかった。


 子供の頃とやはり違うが、懐かしい響きがそこにはあった。


 セドリックは、猫のことも仕事のことも忘れて、中庭から聞こえてくる遣り取りに聞き耳をてていた。


 しばらくそうしていたが、聞こえてくるのは屋敷私僕たちの取り留めのない会話と、ティーセットが動かされる音ばかりで、クローディアはほとんど口を開かない。


 やっと声が発せられても、一言二言の返事ばかりで、かなり聞き取りにくかった。


 何のお茶会かは知らないが、このまま聞いていても彼女が積極的に話し出すとは思えず、セドリックが小さく嘆息した時だった。


 屋敷私僕――おそらく侍女のローナが、見計らったように切り出す。


 『奥様、ではそろそろ、メインイベントを始めましょうか』

 『…はい』


 すると、小さな歓声と拍手がまばらに起こった。


 どうやら、何が始まるらしい。

 カーテンレースが揺れる窓を見つめたが、予想に反して中庭は静まりかえった。


 紙が捲られるような音がした。


 その直後、クローディアの声がするすると言葉を紡ぎ出す。

 レースの音すら聞こえそうな静寂の中で、彼女の声が中庭から流れ込んできた。


 それは、“むかしむかし”から始まる物語だった。


 童話なのか、児童書なのかは分からない。

 ただ、クローディアが喋っていた。淀みのほとんどない声で。


 本を読んでいるのか、だとしたら文字列をなぞっているだけかもしれない。それでも、きちんと流れに沿った言葉を話している。


 つぎはぎだらけの子供時代を知っているセドリックには、それが妙に胸に迫った。


 思い返せば、二年前も彼女はきちんと話していた。だが、思い出されるのは、何かを必死に伝えようとしていた彼女の言葉を、自分がまともに取り合わなかったことばかり。


 自己嫌悪にかられて、セドリックはティーテーブルに突っ伏した。

 それでも彼女の声は塞ぎがたくて、両腕に顔を埋めながら耳を澄ます。


 きっと、自分ではない誰かと、たくさん言葉を交わしてきたのだろう。そうして、少しずつ話し方を学んでいった。


 もう、どこにも可笑しな部分はないと言ってやりたいところだったが、やはり、お世辞にも抑揚があるとは言えなくて、一貫して淡々とした語り口に少しだけ笑ってしまう。


 ―――あ、噛んだ。


 やや焦りながらもクローディアはどうにか持ち直し、淡泊な朗読会を続ける。


 その後も、ところどころ支えたりするので、セドリックは飽きることなく聞いていられたが、十分もしない内に、声だけで紡がれる物語は終わってしまった。


 そうして二人は末永く幸せに暮らしました、という申し分のないハッピーエンドの一言で締めくくられると、もう一度、拍手が起こる。


 『お疲れ様でした。はじめての読み聞かせなのに、とても良く声を出されていたと思いますよ』


 ローナが、感想として当たり障りのない言葉を贈る。


 『これでしたら、もう少し練習すれば、子供たちの前でもきっと披露できるはずです』


 子供たち、というフレーズで、今日のお茶会が何のために開かれていたのか、セドリックはだいたい理解した。


 『ただ、読み上げる本は、もっと選んだ方が良いかもしれませんね。察するところ、恋愛を題材にした物語だと思うのですが……奥様は、どう思われます?』


 『…………』


 質問の意味が分からない、というような間があいた。


 たった今、クローディアが読み上げた本は、二人の若い男女がひょんなことから出会い、紆余曲折を経て結ばれるという内容が、オブラートな表現で書かれてあるものだった。


 最後には、結婚して末永く幸せに暮らしましたと締めくくられているのに、恋愛を題材にした物語だったのかどうかを質問されて、戸惑うクローディアの心境が手に取るように分かった。


 『ああ、申し訳ありません。私たち屋敷私僕は、俗に言う恋愛感情というものを持ち得ませんから、そうした男女の関係には疎くて』


 「…………」


 また間があいた。しかし、今度はセドリックも眉をひそめていた。


 ローナの言葉には違和感があった。

 疑似人格によって、豊富といえる感情を備えている屋敷私僕だが、主従関係に支障をきす恋愛感情だけは確かに持ち得ていない。


 だが、惹かれ合う男女のプロセスが理解できないほど、無知でないはずである。

 ローナの言い様に、何か良からぬもの感じてセドリックは知らず身体を起こしていた。


 『ところで、奥様は恋をされたことがおありですか?』

 「――!」


 ぐきっと、テーブルの上で肘が滑り、あやうく大きな音を立てるところだった。


 『いえ、私たちはしようにも出来ませんし、でも、素敵なお話だけは沢山うかがっておりますから、何となく気になって』


 何となくで、なんという質問をしようとしているのか。


 絶対に何となくでは有り得ない話運びに、けれど、セドリックは何もすることが出来ず、自分の心臓が不規則に脈打つのを、ただ感じるばかりだった。


 そして、どれほどの時間が経ったのか、


 『――――……あります』


 と、小さな声で、クローディアが答えた。


 『まあ…っ、まあ、素敵』


 もれそうになった感嘆を、抑えたようなローナの声。


 セドリックは、形容しがたい情動のゆらぎに襲われるが、ローナはお構いなしにたたみ掛ける。


 『それは、どのような恋だったのか、お聞きしても?』


 もはや、縛り付けられたように動けなくなっていた。

 このまま決定的な事柄に触れてしまうのではと、不規則に動くカーテンレースに視線を釘付けにされる。


 その時、日浴室の窓が勝手に閉まりだした。


 ガラス窓を押しやるほど、強い風など吹いていない。それなのに、一定の速度でゆっくりと閉まっていく。


 「…………」


 ふと、思った。

 今この状況が、自分の精神衛生上に良いとは、とてもじゃないが言えない。

 つまり、ローナのあの言動は、事前の打ち合わせ(・・・・・・・・)になかったのではないかと。


 「……閉めるのか?」


 誰に言うでもなく呟けば、『窓』がびくりと震えた気がした。


 迷うような、とぼけるような開閉を繰り返したあと、『窓』は自分を開けておくことにしたらしい。


 そうして、日浴室の窓は開いたままにされていたが、結局、いくら待ってもクローディアがローナの質問に答えることはなかった。








 クローディアは、孤児院『緑の園』で行われる月一度の誕生会に無事参加した。


 ローナから提案された本を読み聞かせるプレゼントも、特にしくじることはなく、どうにか披露し終えた。


 ただ、この日のために選んだ本は、ローナと相談して練習に使った恋愛ものではなく、一般的によく知られた冒険奇譚ものに変更していた。


 クローディアは、自分の口調にどうしても起伏ができないことを自覚していたから、冒険奇譚ものを読み上げるのに不安があったが、そんな心配は目の前にいる()によって、杞憂だったことを教えられた。


 「いや、だって、あれは…卑怯だろ……」


 引きつった声で言いながら、ノエルはテーブルに突っ伏している。


 クローディアが読み聞かせのプレゼントを披露した時から、ノエルはずっと笑いっぱなしだった。


 誕生日会の後、クローディアとノエルは、いつものように別室で顔を合わせた。

 もちろん、誕生日会は子供の姿で参加していたが、今は元の姿に戻っている。


 「……面白かった?」


 「最高だった。先生たちが、これまで積み上げてきた話のイメージを、あそこまで破壊されたら、もう笑うしかない」


 ノエルからの大賛辞に、クローディアはローナの言っていた通りだと、どこか達成感のようなものを感じて、大きく頷いた。


 クローディアの朗読は、ノエルをはじめ子供たちに大いにうけた。


 どうやら、情感あふれた修道女(モナカ)たちの冒険奇譚を聞き慣れた彼らには、クローディアの一本調子は、逆に笑いを誘われるものだったらしい。


 「来月もやってやるといいよ。絶対ウケるから」


 それは、とても嬉しいお誘いで、クローディアはしっかりと頷いた。


 それから、ノエルの笑いが収まるまで、シスターの淹れてくれたお茶を飲みながら、テーブルの上で震える肩と金色の髪を眺めていた。


 「はあー。笑った、笑った……で、何だっけ」


 ようやく起き上がってきたノエルは、若干疲れた様子だった。


 「ああ、そうだ。例の有蓋の記憶(アーバー・レコード)な」


 視線をクローディアの胸元にある懐中時計にやりながら、彼は肘で頬杖を突く。


 「うーん……それがさ、やっぱり見習いの俺が見られる文献とかじゃ限界があってさ……それでなんだけど、思い切って専門家に聞いてみるのはどう?」


 「…専門家?」


 「そう。それにそれ、できれば売ろうと思ってるんだろ。だとしたら、やっぱりきちんと価値を理解できる人を通した方がいいだろうし……それで、それの価値を鑑定できそうで、売却にも協力してくれそうな人が一人いるんだけど」


 「その人に頼んだら、何とかなるの?」

 「たぶん、な。……その人、十人委員会の一人だから」


 「…………」


 十人委員会。老君プリンケプスの推挙によって選ばれる、老君の話し相手十人。その一人には、クローディアの夫であるセドリックも数えられている。


 クローディアの驚きを察したのだろう、ノエルはためらいがちに続けた。


 「まあ、なんだ。そっちには色々と事情があるだろ。だから先に、そっちの事情というか、諸々をあらかじめ承知していてもらいたいと言うか……」


 「……何?」


 「…うん。まあ、端的に言うと、その懐中時計ってアンタが触っていないと回路すら開けないだろ。だから、その人に頼んで調べてもらうにしても、まずアンタの方から直接会いに行ってもらわないといけなくなると思う」


 それはつまり、どういうことかを考えて、クローディアは気付いた。


 十人委員の一人に会いに行くということは、魔導士たちの最高学府である王立学院へ足を踏み入れなくてはいけないということだ。


 「それで――どうする?」


 ノエルの青い目が、クローディアをうかがうように覗き込んでいた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ