No.5
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舞姫は更に続けて、
「うわあ!会えて嬉しい!サインもらえる!?」
まさかとは思うが、舞姫さんはどうやらTryShot時代の僕を知っているようだ。
凍りついたGC内で、唐突に彼らは喋り始めた。
「えっ!?Ta910君人気なの!?良いな~俺もモテたいなあ!」
「へい!童貞は黙ってな!」
漫才コンビのようにも思えるハイデンさんと鈴木さんの会話。確かに人気だったかもしれない。あの頃は。TryShotで世界を相手に暴れていたあの頃は。
「Ta910って言ったら、TryShotっていうFPSじゃ世界でも有明な人だよ!最近プラエディを引退したってTryShotで噂になってたけど、本当なんだ...」
舞姫さんは相当僕の事を知っているようで少し焦った。
そしてGC内がまた凍りついたようだ。
確かに僕がTryShotを引退する2週間前まで、僕はクラン「PlasticEdit」、他のプレイヤーからは略して「プラエディ」と呼ばれていて、そこに所属していた。
クラン結成当時から僕はそこに所属していたいわゆる古参メンバーと言えるだろう。結成と同時にMiyoとも知り合って同じクランで戦っていた。
クランの人数は多くはないものの、8割の人数がアクティブで活動しているという少数精鋭なクランだった。プレイしている時はいつもGCを立ち上げて、メンバーと連携を取りながら試合に勝利してきた。
ある時、年に1度開催されるクランメンバー5人形式で参加する大規模な大会に参加した。その時には彼、セフィラもいた。連携、プレイスキル、それぞれが最高の状態を保って戦った結果、当時大会のダークホースと呼ばれた僕たちプラエディは初参加にも関わらずに優勝した。
大会で優勝、と同時に僕たちは世界への挑戦権を手にした。それは、大会の半年後にフランスで行われる世界12カ国、それぞれの国の代表1チームずつが参加するトーナメント形式のTryShot最大級の大会「WorldTryShip」の参加権だ。
そして、僕達には最大の目的が出来た。それは勿論、世界大会での優勝。そしてプラエディの名を世界中に轟かせることだ。
そして、あの時高校生3年生だった僕は冬休みを利用して出されてた課題など忘れてフランスへ飛んだ。当然、参加するクランメンバーとは顔も合わせた。セフィラ、そしてMiyoとも。あの時、空港で見た彼女は少し暗く、やはり無口で怯えていた。僕は彼女を安心させるために、「頑張ろうな」と言っていた。
会場はまるでサッカースタジアムのような歓声で賑わっていた。流石にあの時は緊張した。中にはわざわざ日本から来た観客もいた。当然、ネットでは生放送もされていた。
前と変わらず僕らは試合前に最高の状態を保って皆が「頑張ろう。絶対勝つぞ。」と言い合っていた。初めて世界を相手にする僕ら、結果は残したかった。
試合のルールは、先に敵を全滅させたチームが1点を得ることができ、5点先取で試合の勝敗が決まるというシンプルな内容だった。
僕らは戦った。全力を尽くして。
そして負けた。全力が燃え尽きて。
相手はフランスのチーム。結果は0-5で初戦敗退だった。
格が、次元が違いすぎた。動き、連携、全てが。
僕らは何も言わなかった。僕らは何も言えなかった。この時僕らは初めて世界の"切れ味"を知った。僕らは為す術も無かった。僕らは負けた。
その後、去るのがどうしても悔しくて僕らは各国の試合の様子を見た。やはり、全てが違かった。
無口な彼女もこの時は流石に落ち込んでいるのがわかった。
だが僕らはこれを1つの敗北と同時に、1つのチャンスとした。
それは、僕達が更に強くなれるチャンス。世界を相手にどう戦えばいいのか、僕らは帰国したと同時にカフェで何時間も話し合った。疲労など忘れて、時間など忘れて。その時の彼女だけは流石に疲れていて半分寝ていたのを覚えている。
だが、僕は帰って世界の切れ味を知ったと同時に僕はネットの理不尽さを知った。
いつも通り、ゲームを起動すると多くの知らないプレイヤーからドンドンこんなことを言われた。
「雑魚が。」
「日本プレイヤーの恥。辞めたら?このゲーム。」
「ボロボロに負けといて、何帰って来てんの??」
「ちょっと日本弱すぎない?」
これには流石に怒りを感じた。その時のメンバーもやはり同じ様だった。この時、同じ誹謗中傷のコメントに耐えかねたセフィラは、TryShotを引退してしまった。僕は引き止めたが彼は聞かなかった。
確かに僕はこの時だけは引退しそうになったが、彼女だけはそんなことを気にせず、いつもと変わらずプレイしていた。
セフィラの代わりに一人メンバーを加えて落ち込んでた僕らは立ち上がった。戦うため、そして勝つため。僕らは立ち上がった。
見直すべき点や課題は多かった。ほぼ全てと言っていいほどに。
第一、僕らはフィールドを頼りにしていない。と僕らはあの時の試合の録画を見て気付いた。様々なオブジェクトがあるにも関わらずそれを利用せずに、ただ相手に突っ込んでいく。敵から見たら「死にたいのかこいつは」と思っていたのだろう。
第二、敵の情報の報告が欠けていた。情報があまりにも少なすぎて、いざ衝突するときに何が有効なのか、何が不利なのか、どれくらい体力が減っているのかがわからなくて、撃ち合いに負けてしまうのが多々あった。
他にも様々な問題があったが、一番重要なことに僕らは気付いた。
第十七、僕らは楽しんでいない。焦っていて、どこか余裕が無くて、画面を睨んでいて、他のチームとは全く違う、このゲームを楽しむという意識がまるで無かった。
何故これに気づかなかったのか?僕らは唖然としていた。その日から、僕らプラエディは一転して戦い続けた。ゲームを楽しんで僕らは更に強くなった。
一年後、再び「WorldTryShip」の戦場に戻ってきた。何と今年の会場は東京に決まった。あの時の悔しさをバネに戦う。戦う為に楽しみ、勝つ為に楽しむ。その時の彼女はいつも通り無口だったが、少し笑ってるようにも見えた。
一回戦の相手は前回と同じくフランス。一年前の試合の後にわかったことだが、フランスは優勝候補のチームだったとのことだ。全く、情報が欠けている。
一年前と変わった僕らは第一にゲームを楽しむ事を意識してフランスのチームと戦いを楽しんだ。やはり世界、次元が違う。だが、次元を捻じ曲げたは僕達だ。
僕らは楽しんだ。全力を尽くして。
そして、勝った。ギリギリだったが。
5-4というとてもギリギリな勝負だったが何とか勝った。その時の観客は驚きと喜びで会場と選手を包んでいた。
「日本が勝った!?あんな最弱な国が!?」
「日本強すぎンゴwwww」
「これ優勝ワンチャンあるで!」
後々見た生放送では日本に期待を寄せるコメントが多かった。そりゃそうだ、優勝候補とも言われるフランスのチームを倒したこともだし、二回戦へ進むこと自体、世界中のプレイヤーが驚いた。
そして、二回戦、三回戦もギリギリな試合を迫られたものの何とか勝利して遂に決勝まで立った。
決勝の相手、前年度の優勝国、そして世界最強とも呼ばれているスウェーデンだ。
僕らは試合が始まる前に言った。「この試合、楽しもう。」と。
そして試合が始まった。開始数秒後、味方一人が早速やられた。焦りを抑えつつ、Miyoと共に挟みこむように周ってダブルで敵を倒した。そして、他の味方が三人を倒してくれたようで、一本目は取れた。
二本目、三本目は焦りが大きくなって相手を一人程度しか倒せずに取られてしまった。
四本目、何とMiyoが会心のトリプルキル。これには会場が最大限に盛り上がった。高校生の少女が世界最強のチームのプレイヤーを三人連続でぶっ倒してるのだからそりゃ驚くだろう。彼女のプレイもあって僕らは落ち着きを取り戻した。
2-2で迎えた五本目、相手五人を前に味方が僕とMiyoだけにしまった。焦った僕を隣にして彼女は「...楽しんで」と言っていた気がする。それが消火となったのか、今度は僕が会心のトリプルキルをして、Miyoも相変わらずのプレイでダブルキルをかまして三点目を取った。
僕はこの時思った。彼女とならどんな状況でも勝てると。六本目、Miyoと僕が裏から回りこんでそれぞれダブルキル。そして近くの味方が撃ち合いで倒して4-2となった。
しかし、七本目、八本目はMiyoが開始数秒後に倒されてしまって、チームのバランスが崩れてしまい二本取られて4-4、同点だ。
九本目。この勝負で全てが決まる。世界中のプレイヤーが見ている中、僕はこの時に限って焦りが頂点に達してマウスを握る右手が震えていた。味方が一人、二人と倒されていく中で僕はあまり動けていなかったらしい。
相手が四人に減ったところで、味方は僕とMiyoだけしかいなかった。更に焦っていた僕を彼女は僕の右手を試合中にも関わらず握って言った。
「...焦らないで。二人で...勝てないわけないでしょ...?」
引退した今でも思い出す彼女のこの言葉。
僕からしたら彼女の言葉はあまりにも意外だった。だが同じことを少し前に僕は思っていたのだ。
「そうだね...!二人なら、勝てるか!」
僕は自然と笑っていた。彼女と共に勝ちたい気持ちと、楽しみたい気持ち。
それらの気持ちが合わさって、手の震えはいつの間にか消えていた。
「それじゃあ、行こう。」
敵の視界には僕とMiyoが写っていない。敵は常に固まって周りを警戒しながら前進している。だったら敵に見つからないように一気に放火すれば勝てる。先程もそうだった。
Miyoと目を合わせ、カウントする。
これはゲームだ。そして楽しむものだ。
それを認識し、5、4、3、2、1。
「O!」
と同時にMiyoと僕は敵の後ろに駈け出して一人目を倒す。敵がそれに気付いて、Miyoを撃ってくる。それを見逃さずに撃ってる敵を撃つ。2vs2、数はこれで同じになった。
フィールドを頼りにする。僕らが前年度、負けて問題にしてたこれを今は最大限に意識して、オブジェクトに隠れながら撃つ。
「よし、あと一人だ!」
叫びに近かった声を上げて、最後の一人と撃ち合いをする。Miyoも考えて隠れながら後ろに回り込む。
「こっち向いてるから撃って!」
二人なら勝てる。迷いなどない。弾が切れたアサルトライフルを捨て、ハンドガンに持ち替える。
「行っけえええぇぇぇぇぇ!!!!」
Miyoと同時に撃った弾は、敵の頭を貫いた。
最後の弾丸は静寂に等しかった。
最後の敵が倒れたと同時に、会場も静まり返った。
しかし数秒後、大きな歓声が会場を再び包み込んだ。
僕らは戦った。全力を尽くして。
そして、勝った。全てを楽しんで。
「僕ら...勝ったみたいだよ。」
歓声で盛り上がってる中で僕は言って、
「そう...」
「そう...っておい...」
適当というか、無関心な口調でMiyoは言った。
あの大会で優勝して以来、僕ら「PlasticEdit」の名は世界中のTryShotのプレイヤーに知れ渡った。
特に僕とMiyoは大会のMVPとなり「最強の二人」とまで呼ばれた。流石にこれは色んな意味で恥ずかしかった。それに対し、彼女は特に何も言わなかった。やはり無口である。
それから一年経った現在、特に大きな出来事も無くTryShotを引退して今に至るというわけだ。
「あれ、そういえばMiyoはこのゲーム来るの?」
セフィラは僕にこう問いかけた。
「まあゲーム自体はインストール終ったらしいですが、クランがどうとかはまだ彼女には言ってないです。」
「なるほどねえ。まあどうせTa910がいるんだし来るんだろ!最強のお二人さん!」
「懐かしい名前で呼ばないでくださいよ...」
やはりこの名で呼ばれると恥ずかしい。
「それで、どうしてTryShot辞めちゃったの?何かあったのかな?」
遠慮もせずに舞姫さんは聞いてきた。
(やはり、そこを聞かれるか...)
はっきり言って他の人には言いたくないのである。個人的な事情だが。
「まあ色々あったんだろうよ。俺もあったしなあ。」
「そうですよ!色々!」
(セフィラさんナイス!)
心のなかで彼に拍手をする。
「そいで、最初からずっと気になってたんだが、Ta910君の着けてるそのネックレス何?今までやって来たけど、見たこと無いんだけど。」
唐突にハイデンは聞いてきた。そういえばプラエディ時代のことを思い出していてて、ネックレスのような謎のアイテムのことを完全に忘れていた
「答える前に、僕からも質問があります。勿論、このアイテムの事に関係することです。」
そう言って、僕はネックレスの詳細をスクリーンショットした画像をGC内に送り、話を続ける。
「ほんの数時間前に僕は初心者狩りに出くわしました。レベル上げの手伝いと言ってガイア大陸に飛んで、狩りの途中に襲われそうになりました。」
「また、東の奴か...懲りねえなあ。」
呆れた口調でセフィラは言った。
「そこで僕はXnosというプレイヤーに助けてもらって、このアイテムを譲ってもらいました。」
「これ、名前ねえじゃん!ステータスも特に表示されてないし。これもうわかんねえなぁ...」
鈴木さんでさえこのアイテムを詳しく知らないらしい。GCでは他に口を開く者がいないので恐らく誰もこのアイテムの事を知らないのだろう。
「唯一『星の地にて、この首飾りはやがて真価を見せるだろう。』と書いてあるのですが、星の地ってどこのことについて言ってるんでしょうか?」
謎は多い。だが、星の地にという場所に行けば必ず謎がわかる。レベル上げも大事だが、それよりもアイテムの謎を明かす事が一番重要なのかもしれない。
「多分、それ『星の龍』がいるとこじゃね?何だっけ、『星の墓場』ってとこだっけ。」
「星の龍とか懐かしいなあ。あれランダムの時間で湧くようになったんだっけ。どっかのクランが狩りまくった為にね!本当何処の誰なんだろうね!」
「それが俺たちなんだよなあ。」
ハイデン、鈴木、4ritoが次々と口を開く。『星の墓場』、ここが恐らくアイテムの謎を解く一番重要な場所なのだろう。
「そこに連れてってもらえますか!?」
「良いけどレベルがなあ...」
わりと重要な部分を鈴木に指摘された。そういえばまだ10にも到達してないのだった。僕でも何となくわかってるが少し焦ってた。
「最低でもLv20無いと行けないだろうし、まず今から行ったとして別の奴に狩られてたんじゃ意味がないんだよね。」
「えっ、モンスターって倒したらまた湧くんじゃないんですか?」
「普通のモンスターは。だけどね。あれ、もしかしてMMOこのゲームが初めてなの?」
「はい...」
「ウッソだろお前!しょうがねえなあ...」
彼、鈴木は説明してくれた。MMORPGには通常のモンスターとNM(NamedMonsterの略)と呼ばれる、フィールドに1体しか存在しないモンスターがいると言う。RPGで言われる、「ボス」とは違う存在らしい。
NMは倒すと一定時間湧かない。つまり、倒しても通常のモンスターのように数秒後には復活しない。NMを倒すと、レアアイテムまたは強力な武具、更には騎乗ペットまで落とすこともあり、倒す旨味はどのNMにもあるとのことだ。
Kronos・EyesにはNMにランクが付けられている。ランクCからランクS。2週間前のアップデートではSより上の「クロノス級」が追加されて、詳しいモンスターの名前やステータスはまだ確認されていないとのことだ。
先程言っていた、「星の龍」はKronos・Eyesサービス開始当初から存在していたらしく、ランクはS。当初はどのプレイヤーが束になっても倒せなかった最強のモンスターだったと言う。
「ところがどっこい!それを俺らが全サーバーで初めて倒しちゃったわけですよ!ほんでそれ以降俺達が独占して独占しまくった結果、全てのNMがランダムの時間で湧くように仕様変更されちゃったんですよ!そのおかげで、俺達はもう星の龍狩りは当分やめるようにしてるんですよねえ!あー!困った!」
「ん?ランダムで湧くようになったんだったら、定期的に様子を見に行って出現してたら狩っちゃえばいいんじゃないんですか?」
鈴木は自慢気に話しているが、おかしい話だ。NMがランダムで出現するのだったら定期的にNMの様子を見ればいいものの。それだったら他の者に独占されず、ずっとNMを狩れるのでは?と僕は考える。
「うん確かにそうなんだけど、仮に様子見に行って、俺らと同じNMを狩ろうとする連中が同じく様子見にその場に来ていたらどうする?」
「...ぶっ倒す...?」
「それじゃダメなんだよ。NMを狩ろうと監視している連中に見つかったらその時点でお終い。何故かというと、他の連中が俺らの監視役を見つけたら『こいつらNM狩る気だな』と絶対思ってしまうからだよ。すると、どうなるか。クランに報告して全力で狩りの妨害に来る。NMが存在する場所ってのは常に中立区域だから、狩りに参加してる奴を容赦無くぶっ倒してく。そして狩りが失敗する。俺らにとっちゃNMの狩りの失敗は結構な大損害なんだよ。だから、当分NM狩りはやめてる。勿論、他の連中に狩らせない為にも。」
言われてみれば確かにそうだ。他の監視に見つかったら5分もしない内にクランメンバーが大勢来て他の連中に狩らすまいと襲いに来て下手したら、NMの狩りまで始めてしまうだろう。
「いかに隠密にNMを狩るか。それが独占してた私達に押し付けられた課題なの。」
唖然としてる僕にきるしぇは言った。その声は少し寂しげだ。
「あれ、前にいたサーバーでは妨害は来てたんですか?」
「あの時は時間固定で湧いてたからね。最初は来てたよ。ざっと70人程度。でも次第に来なくなった。」
疑問が多すぎて頭の上に?マークがズシリと乗っかている僕に4ritoは答えた。
「何故かというと!」
「俺たち!」
「「強いんだよなあ~!」」
双子のようにも思えるハイデンと鈴木のコンビネーションにむしろ強さを感じる。ふざけて言ってるようだが、70人ほどいても妨害が来なくなった辺り、恐らく力でねじ伏せて「これ以上妨害しても無駄だ。諦めよう。」と思わせたに違いない。入ったばかりだが底が知れない。
「まあ少しキツく言ったけど。運営側は『ランダムに出現する』とは言ってたけど、実はそうじゃないことに最近気付いたんだよね。ちょっとした法則に。」
「そうそう。六日前かな、皆で暇だから試しにKronos・Eyesで一番人気の無いC級NMの『アインゴースト』を倒しに行ったわけよ。その時は運良く湧いててさ、まあ人気無いし監視してるやつもいないし難なく狩れたんだよ。そして後日もう一回狩りに見に来たら湧いてた。その次の日も。最初に狩った時は夜の8時で、二度目は夜十時。三度目は一回、夜十時に来たけどまだ湧いてなくて、二時間後の十二時に再度来たら湧いていた。」
4ritoの話を聞いて見る限り、そのNMは狩ってから26時間後に湧くということなのだろう。
「あれ?ランダム湧きなのでは?」
「そう。表向きではランダムで湧くとは言ってるものの、裏では『倒してから一定時間に再出現』という仕様になっているということに本当最近気付いた。」
「じゃあ――」
「言いたいことはわかるよ。もしこれが本当だったら一度星の龍を誰かに狩らせる必要がある。」
僕の言いたかったことを察して、そして敢えて遮って4ritoは言った。
「だから俺たちも監視が云々と言ったものの、NMを狩りたいっていう気持ちは勿論ある。そして最近、星の龍を狩るっていう目標も掲げている。」
やはりこのクランは何か計り知れない力を持っている。それを感じているせいで開いた口が中々閉じない。
「だけど、星の龍を狩ろうとしているクランは最近いるのがわかったんだけど、中々狩ってくれないんだよねえ。これぞ本当の意味での焦らしプ―」
「黙ってろ。」
酔った人っていうのは普通の人より何を言ってくるかわからない。それをわかっているであろう4ritoが即鈴木を止めに掛かった。
「...もしかして、狩ろうとしてるのは『クロス・ロード』ってクランですか...?」
「そう。さっきの領土戦の結果を見る限り、前のサーバーの俺達と同じ戦力は持ってるに違いないんだよね。厄介と言っちゃ厄介。そこで、俺達が掲げているもう一つの目標があるわけよ。」
何となく察しは付いて来た。僕がクランに誘われたのも、恐らくその目標の為なのであろう。
「人数が集まり次第にね、近い内に俺たちは『クロス・ロード』に宣戦布告をするつもり。ウラノス大陸でどこが最強のクランなのか思い知らせるためにね!あと、NMを奴らに渡さないためにも!」
「まあ俺たちなら余裕だろ!あんな初心者狩りにも似たような領土戦、見てたこっちが辛かったぜ。」
「ほんで、あと一人をTa910君が連れてくるんだっけ?いやー楽しみだなあ!」
僕の言おうとしてた事は先を越されたが、その前に僕はわりと重要なことを忘れていた。
「CVCって...Lv35以上じゃないと出来ないんですよね...?」
それを口にした瞬間、皆して、
「「「あっ」」」
再び、GC内が凍りついた。
「あっそっかぁ...完全に忘れてたぞ。」
「ハイデンさん頼むって...」
「そういう鈴木も忘れてたじゃねえか!」
「仕方ねえだろ!俺たち初心者じゃねえんだからそりゃ忘れてるわ!」
この3人、トリオで漫才したら絶対面白いだろうと半分困惑しながら思った。
「まあまあ。取り敢えず、人数については問題無いということで。それでまず第一にタクトと新しく入ってくるMiyoのレベル上げ。あと、そのついでに星の龍を狩るってのも有りだと思う。さっき言ってたアイテムの事も含めてね。実質、Lv20のキャラを入れても狩れたんだし。」
簡潔に話をまとめてくれたセフィラに誰も口を開かなかった。しかし数秒置いて漫才トリオは、
「「「ウイッス...」」」
と落ち込んでるような口調で言った。
「今日は取り敢えず寝ます...お疲れ様でした...」
恐る恐る空気を変えようと言ったが、空気は変わらず、
「「「ウイッス...」」」
「おつかれ~」
「また明日ね~」
「お疲れ様!」
トリオ、セフィラ、舞姫、きるしぇが僕に対して次々に言ってくれた。
懐かしい感覚が纏わり付く中で、拓人は起動しているGCとKronos・Eyesをそっと閉じた。
色々な気持ちが交差するが、取り敢えず僕はベッドに潜り込む。
冒険初日は意外な出会いが僕の想いをくすぐって今、"ログアウト"した。
FPSのフラグムービーと呼ばれる動画を見ていると、「こいつ化物か」っていうぐらい上手い人が居ますよね。思わず見惚れます。