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クロノス・アイズ  作者: farthest(ふぁーぜすと)
プロローグ -始まりの合図-
3/6

No.3

■ 



 10分ぐらい経っただろうか。はっきり言って疲れた。やめる気はないが。

 基本的な動作や攻撃の仕方、パーティーの組み方、乗り物の扱い方などなど、とにかくチュートリアルにしては長すぎると思うほど色々な操作があった。

 幾つもの説明を終えて、やっと一人でゲームを始めることが出来た。


 画面がフェードインして拓人は目の前の景色に息を呑んだ。

 目の前にはグラフィックエンジン「HyperDrive」によって描かれた世界が広がっていた。

 足元と触れ合っている水たまりはまるで現実に存在するかのように描写されている。

 「うわあ...すげえ...」

 と、拓人は目を細めながら言った。


  マップを見ると、「空の村」と表示されている。建物といい、景色といい、とにかく白い。近くの崖の下を見下ろしてみると、思わず吸い込まれてしまいそうな幾つもの雲が意味もなく1つの方向へ向かっている。このエリアはかなり、高い位置に存在するみたいだ。


 周りにはNPC(non player characterの略。プレイヤーの管理下にないキャラクターのことである。)しかいなくて、プレイヤーらしき姿は見えない。新規サーバーだし、2、3人はいるかと思ったが、そうでもなかったみたいだ。


 Kronos・EyesはPvPでの経験値が主流らしいが、もちろん他のやり方でレベル上げも出来る。例えば今、目の前にいるNPCから「近くの丘で、ゴブリンを倒してきて欲しい!頼む!」と頼まれた。多分これはクエストだろう。NPCから一度のみ受託できるという「通常クエスト」だ、とサイトに載っていた。


 クエストの報酬には必ず少しの金貨と経験値が与えられる。稀に装備アイテムや消費アイテムなどが貰える。意外と美味しいという。こうして、レベルを上げるという手もある。サイト曰く、レベル20まではクエストを続けようとのことだ。仕方なく空の村から西にある「ゴブリンの丘」に行く。


 戦闘については特に言うことはないが、意外と近接は楽しい。ゴブリンをスラスラ倒せてしまう。ソルジャーを選んで正解だったと画面の前であくびしながら拓人は思った。

 どうやら達成したクエストは自動的に終わり、経験値と金貨を入手出来るようだ。



 空の村の周辺でクエストを続けること20分、Ta910のレベルは現在5になっていた。何というか、割と早くレベルは上がるのだとわかった。だが問題が1つ、MPの枯渇が速い。敵を6体倒した時点で満タンだったMPは10%しか残っていなかった。幸い、クエストで得た「MPポーション」で回復はしているが、流石にキツイ。

どうやらソルジャーは攻撃力が高いもののMPの消費が激しいらしい。


「後で、MPポーション買い占めしとかなきゃなあ...」

MPまたはHPポーションは村の雑貨屋に売ってると、チュートリアルで聞いたので早速買いに村に戻ろうとした、その時。目の前に一人、いやよく見ると二人のプレイヤーがTa910を通せんぼするかのように立っていた。目の前の身長が高くて茶髪のプレイヤーの職業は「ソルジャー」と「ウォール」で、その右にいる身長が低くて黒髪のプレイヤーの職業「メイジ」と「ファントム」だ。レベルは二人とも同じで43だ。そして二人共、軽そうな装備を身に纏っている。


 (こんな新規ユーザーぐらいしかいないところでレベル43が二人...?おかしいだろ...無視して行くか...)と、二人の横を通ろうとしたら急に、


「君、新規のユーザー??良かったらアドバイスしよっか?」

 チャット欄にはこう表示されている。茶髪のプレイヤーが打ったのだろう。それに続いて、

「俺たちが、良い経験値の稼ぎ方教えてあげるよ!付いて来て!」

 と、チャット欄に表示された。


 画面の前の拓人は不思議に思いながらも、そのプレイヤーに付いて行くことにした。特に急いでる訳でもないので多少の寄り道は構わないだろう。


 すると、茶髪のプレイヤーはよくわからない呪文を詠唱してよくわからない扉らしきものを開いた。茶髪のプレイヤーは、「んじゃ扉入ってー」と言った。よくわからないが、この扉に入れば良いのだろう。

僕は恐る恐るその扉の中へ入った。


 扉を越えた先には殺風景極まりない景色が広がっていた。周りは紫色の霧がかかっていて視界が悪い。グラフィックエンジンのおかげで周りのオブジェクトがリアルすぎてむしろ怖い。僕は少し嫌な予感がした。


 マップを見ると、東大陸「ガイア大陸」の「霧の沼」と表示されている。どうやら東大陸までワープしてきたらしい。一瞬帰りのことを心配したが、そこの二人に言えば帰らせてもらえるだろう。多分。


 周りのオブジェクトを数秒眺めていると、茶髪のプレイヤーは

 「そこのモンスターを倒して、経験値を得るんだよ!」

 と言った。よく見ると、茶髪のプレイヤーは「Hydle」と表示されている。黒髪のプレイヤーは「風舞。」と表示されている。見づらい位置に名前を表示させたものだ、とTa910は思った。

 

 すると、Hydleさんは近くの「ソウルゾンビ」(レベル35)を攻撃して

「ターゲットは俺が持つから、Ta910さんと風舞。は攻撃して!」

 とHydleさんは言った。ソウルゾンビの攻撃は移動速度を落とす効果があるようだ。構わず攻撃したがソウルゾンビの体力は驚くほどの速さで減っていった。風舞。の攻撃力が相当高いらしく、あっという間にゾンビは倒れた。すると、一瞬にしてレベルが1上がった。

 「おお...」と画面の前で拓人は言った。


「レベル上がりました!ありがとうございます!」と、Ta910はチャットでそう言った。

「美味いだろ?ここの狩場、結構人気なんだよねえ:)」 と、Hydleさんはチャットでそう言った。

 久しぶりにゲームがより楽しく感じた。やっぱりネトゲというのはいつの時代でも楽しい物だ。

 

 だが、どうも嫌な予感は消えない。FPSをやってた時にも似たような感じがあった。すぐ近くに敵が存在するような感じ。いつ牙を剥いて襲ってくるかわからない状況。だがその瞬間はすぐ訪れる。敵はいつ...


(敵...?)


ふと、僕は思った。周りを見渡す。近くにはHydleさんと風舞。さん。そして、ソウルゾンビというレベル35の"敵"。特に変わったところはない。だが、この嫌な予感は何だろう。


 そして、Kronos・Eyesを加速させた最大のコンテンツが何かを思い出したその時、Hydleは

「おい、雑魚。それで満足したか?」と剣をこちらに向け、そう言った。


「"何が"でしょうか?それとも"何に"満足したのでしょうか?」

 Ta910はそうチャットに打ち込んだ。よく見ると、風舞。さんもこちらに杖を向けている。

 

 僕は嫌な予感の正体にやっと気が付いた。

(まさか、いや間違いない。こいつら"初心者狩り"だ...!)

 やはり、どのゲームにもこういう連中は存在するらしい。

 気付いたものの、不思議とあまり動揺はしなかった。


(気付くの流石に遅すぎたかあ...やっぱ断っとくべきだったなあ...)

と殺伐としたこのフィールドでTa910はそう思った。事を回避出来なかった時はいつもこうして自分を責めてしまう。僕の一番悪いクセだ。

 

 それよりも、初心者狩りとわかったならどうすればいいか。恐らく、戦っても勝てない。RPGの主人公ならここで覚醒とかしそうだけどあいにく僕はRPGの主人公ではない。逃げようとしても確実に追いかけられて倒されるだろう。いや待てよ。さっきソウルゾンビの攻撃はHydleさんの移動速度を遅くした。見たところ持続時間は10秒ぐらいだったか。もしかしたらその効果を利用したら逃げれるのではないか?モンスターは基本プレイヤーを見かけたら容赦無く襲ってくる。成功するかはわからない。が取り敢えず、戦闘の準備はしておく。

 

「おいおいwその雑魚装備で戦おうってのかぁ?w無理無理ww」

 Hydleさん、いや敵はチャットでそう言う。雑魚しか言えねえのかこいつは。と、チャットで言おうとしたが、それは余計に相手を刺激するので止めておくことにした。


 落ち着いて、周りを見渡す。僕の後ろにはソウルゾンビが3体。敵の後ろにも同じく3体。次にマップを見る。後ろのゾンビ3体を巻き込んで最大30秒、移動速度が低下する。自分がいる場所から南に行くと「霧の村」という場所がある。距離もそう遠くはない。


 ジリジリと詰め寄ってくる敵。すかさずTa910はゾンビのいる方へ後ずさる。心の中でカウントをする。


 これはゲームだ。


 それを認識し、5、4、3、2、1。


(...0!)

 2週間前まではFPSプレイヤーだった者は心の中でそう呟き、後ろのゾンビがいる方へダッシュする。1体目のゾンビとの距離を6mに縮めたところで、後ろに回り込むようにゾンビの横を通り過ぎる。モンスターがプレイヤーを敵として襲ってくる距離は半径5m以内だ。ゾンビとの距離、ギリギリ6mを保ちながら後ろに回り込む。ゾンビの後ろを真っ直ぐ走る。どうやら敵二人もこちらへ走ってきたようだ。


(1体目はクリア。多分掛かってくれるはず...)


 すると、たった今後ろへ回りこんだソウルゾンビは敵1人目のHydleを目がけて襲ってくる。先程と同じくゾンビの攻撃と同時にHydleが遠ざかっていく。思った通り引っかかってくれたようだ。


 2体目のゾンビが目の前に迫る。同じく6mの距離を保ちつつ、ゾンビの横を通り過ぎる。迷わない。後ろへ回り込む。大丈夫。ゾンビの後ろを真っ直ぐ走る。行ける。Hydleはどうやらゾンビに苦戦してるようだ。


 よく見ると、杖を持った黒髪のプレイヤー、風舞。がこちらへ向かってくるのがわかる。仲間は助けないらしい。これはちょっと予想外だったが、どうやら風舞。もゾンビの攻撃に引っかかってくれたようだ。

敵二人が遠ざかっていく。そして、最後のゾンビが視界に入ってくる。


 同じく6mの距離を保ちつつ、ゾンビの横を通り過ぎる。後ろへ回り込む。これで逃げきれる。少しだけ安心したその瞬間、Ta910は動かなくなった。いや、身動きが取れなくなった。それに気付いた時には既に、足元にうっすらと見える紫の手らしき物に足を掴まれていた。


(何だこれ!?ゾンビこんなスキル使うのかよ!?)

だが、ゾンビは僕を襲っていない。距離は12mも離れている。意味がわからなくて画面に目をウロウロさせる。するとステータス画面には、見たこともないアイコンが表示されていた。アイコンにカーソルを当ててみる。


 ファントムハンド

「ファントムハンドを発動された相手はハンド状態になり20秒間、身動きが取れなくなります。攻撃をすると、ハンド状態が解除されます。」

と、書かれていた。

 

 ファントムハンド。名前からして「ファントム」が職業のプレイヤーが使うスキルなのだろう。ファントムを持つプレイヤー。恐らく風舞。が仕掛けたスキルだ。


(は!?20秒間とかチートかよ!?ふざけんなあ!?)

怒りよりも驚きが拓人を覆っていた。敵二人がこっちへ向かってくるのがわかる。どうやらゾンビは既に倒されていた。こんなこと言うつもりはないが、経験値美味しいです。ありがとうございます!


 手前のHydleとの距離が20mに縮まる。解除まであと7秒と表示されている。どう考えても間に合うわけがない。あぁ...これ終ったやつだ...


 「もう少し僕が強かったら」などとは"今は"思わない。こういう連中はどのゲームにもいるものだ。FPSを始めたばかりの頃もこういう連中にはしょっちゅうゲーム内で倒されたものだ。


(諦めるか...別にペナルティも無いだろうし...)

 敵との距離が10mに縮まる。覚悟を決める。それは諦め。


 これはゲームだ。改めて認識する。


 慣れてるものの、自分が作ったキャラが殺されるのはあまり見たくないので拓人は目を閉じる。


 視界は、唐突に黒くなる。今頃は、もう攻撃されて倒されているところだろう。ゲーム内の音でそれは、はっきりと理解できる。1秒経った後に、物を爆発させたような音が聞こえてきた。


(おいおい...こいつらLv6相手に全力すぎるだろ...)

 初心者狩りでもゲームは全力でやるようだ。

 半笑いしながら目を開けてみる。


 そこには思いがけない光景が拓人の目を無理やり細くさせた。

 Ta910というソルジャーは生きている。そして、Lv43のプレイヤー2人はTa910の前で倒れている。HPは無い。同じくソウルゾンビも倒れている。こんなこと言うつもりはないが、経験値美味しいです。

彼らは何も言わない。


 何が起きたのか拓人には全く理解出来なかった。

 そして、自分の背後の"存在"に気付く。


 どうやらプレイヤーのようだ。僕を助けてくれたらしい。目を閉じていた時に聞こえたあの爆発のような音はこのプレイヤーが出したスキルによるものだろう。

 そのプレイヤーは黒いコートを着ていてるが顔はよくわからかなかった。

 「Xnos」、これがあのプレイヤーの名前だろう。取り敢えず、僕を助けてくれたので感謝の言葉を打つ。


「あの、ありがとうございます!初心者狩りっぽいのに会っちゃったぽくて危うく倒されるとこでした!本当にありがとうございます!」

 とチャットで言った。が、5秒経っても、Xnosというプレイヤーに反応がない。


「あの...チャット見えてます...?」

 流石におかしいと思ったので、続けてチャットで言う。5秒経ったが、同じく反応がない。

 気まずいので、その場から離れようとする。先程の嫌な予感はもう消えた。


「君にこれを渡す。」


 Xnosは唐突にそう言った。同時に画面にチュートリアルで見た覚えがある文が表示された。

「トレードに応じますか? 

  Yes    No   」

 少し迷ったが、そんな時間が無いことに気付く。あの2人はまた来るだろう。Ta910は躊躇わず、Yesを選択する。


 トレード欄が表示したと同時にXnosは、よくわからないアイテムを差し出してきた。ネックレスに見えなくもないが、装備品か何かだろうか?装備する為に必要なレベルは特に表示されていない。何か他の装備品とは違う、"違和感"を感じるが、その前にTa910は


「こんなん装備品貰っちゃっていいんですか!?ありがとうございます!」

と言った。優しいプレイヤーもいるものだ。だが、Xnosの返事はチャットを打とうとする拓人の手を止めた。


「それは装備品ではない。"未来"だ。」

 黒いコートを着ていてるが顔はよく見えないプレイヤーはそう言った。

 よくわからない。もしかしたら、ネットで稀に見る"厨二病"とかいうやつだろうか。

 どういうことなのか理由を聞きたいが、直後のXnosの言葉が拓人の動きを完全に止めた。


「そのアイテムこそが、Kronos・Eyesの未来だ。」

 Xnosは言った。Xnosは更にチャットを続けた。


「君が唯一持つことを許された、このKronos・Eyesの"未来"そのものだ。君に、このKronos・Eyesの世界を救ってもらいたい。」

 と言った。僕は口を半分開けながら、チャット欄を見続けていた。

 

「また会える。君の活躍、期待している。」

 「Xnos」という名のプレイヤーはそうチャットに書き残して去っていった。


 どこか知らない場所へ。

 僕がこれから旅するであろう、広い世界へ。

 Xnosという名のプレイヤーは去っていった。



 これが僕の始まりの"合図"だ。

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