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第三話「黒き山脈」

「ぎゃっ!!」

 腹に野球ボールを受けて、練太は悶絶した。

 だが、すぐに立ち上がる。

 そこに高速で飛来する二つ目のボール。

 ――今度こそ!

 ぎりぎりまで微動だにせず、

「ここだっ!」

 一気にかわす。

 が、

「げぼっ!?」

 かわしきれずに再びわき腹にボールが突き刺さる。

「く、くそっ……」

 体を持ち上げようとし――

「ぎゃばぼーっ!?」

 顔面に白球が直撃、そのまま真後ろに吹っ飛んだ。

 ピクピクと痙攣する練太。その上をボールが飛んでいく。

 ここは、バッティングセンターだった。

 そのベース上でひたすらボールをよける訓練をしていたのだ。

「……ちくしょう……こんなんじゃ……」

 ――雷も、みんなも……。

 先日の四甲剣ニトロ爆龍との戦いで、自分の未熟さを痛感しての特訓だった。

 高速で迫るボールは即ち相手の攻撃。それをかわすことは見切る事。

 とはいえ、この通り中々うまくはいかないのだった。

 新聞やテレビ、ネットにおいても、当然セブンソードについては報道されている。

 新たに現れたこの「剣の巨人」を、各媒体が我先にと検証していた。なお、一番詳細だったのは星色町役場発行の星色だよりである。

 その戦いぶりを分析する者も多く、ほとんどが酷評に近かった。七星剣は、錬太をトレースした剣道に由来する動きだが、流石にそれを高段者と比較されるのは酷な話だろう。

 操縦者についても盛んに議論がなされているが、竜王剣の特殊能力・星照妨害により、映像に錬太が明瞭に映る事はない。天の星の輝きを収束させ、フィルムであれデジタルデータであれ、戦闘前後の錬太を映すものをホワイトアウトさせてしまうのだ。

 とはいえ、錬太である事がわからないからと言って、操縦者が叩かれている事に代わりはない。

 級友たちですら盛んに議論し――他に娯楽がないとも言える――とみに、錬太の属する剣道部の舌鋒は鋭く、批判的だ。

 だが、そんな事は錬太にはどうでもよかった。

 不格好だろうがなんだろうが、勝てればいい。

 そのためだったらなんでも出来る。

 覚悟だけは誰にも負けないつもりだが、それだけでどうにかなるほど世の中は甘く出来ていない。

 この無謀な特訓も、未だ成功しているとは言い難かった。

 そして無情にも特訓の成果がでるより早く、次なる戦いはやって来たのだった。

『敵が出現せり』


 中央公園を不気味な静寂が包む。

 空気が震える。

 それは、対峙する二つの巨人の気迫の衝突によって生み出されたものだった。

 一方は七星を宿す剣士、セブンソード。

 もう一方は、岩の塊のような機械魔人、ザインガッシャー。

 当たり前のようにそこにいる二体の巨人は、これからどちらかが鉄屑と化す運命にあった。

「よく来た」

「何がよく来た、だ。公園なんかにどかどかと居座られて、黙ってるやつがいるとでも思ってるのか?」

「威勢のいい事だ。早速だが始めさせてもらおうか。私は君のパーソナリティになど興味はない。興味があるのは七星剣のみ」

 たいして感情を込めずに、幻山は言った。

「なら……始めるか」

 練太――セブンソードが剣を構える。

 そこに、一陣の風が吹いた。

 そして――

 どちらが先にというのではない。

 だが確実に戦いが始まった。

 セブンソードの見えざる刃が振り下ろされる。それをザインガッシャーが大地から生み出した剣で下から弾く。

 そのまま剣が速火線のように次々と地より生まれ、走る。

 セブンソードは横に飛び、かわす。

 しかし、剣の発生は軌道を変え……

「ぐああっ!」

 剣の波がセブンソードを弾き飛ばした。

 ザインガッシャーの秘技、ソードファクトリアで生まれる剣は斬りに特化した刀ではなく突き剣。

 命中して即機体がばらばらになる事はないが、その衝撃たるや並大抵ではない。

 全身をバットで何度も殴られたかの如き衝撃に、意識が刈り取られそうになる。

「負け……るかよっ!」

 それを必死にこらえ、完全には体を起こさぬまま低い姿勢で一気に走る。

 対するザインガッシャーは再び大地から連続して剣を放つ。

 クリスタルカリバーを正面に向け、向かってくる剣の群れを突き崩しながら突撃する。

 それに対し、観念したかのようにザインガッシャーは動きを止め……

「ふむ……なかなかよい思い切りだ。だが……第二の秘剣ダイアゲイザー!」

「なっ!?」

 突如大地が裂け、巨大なダイアモンドの剣が次々と生まれ、セブンソードへ向かう。

 間合いを詰めていたセブンソードはよけきれず、天高く弾き飛ばされた。

 そのまま大地に叩きつけられる。

「……っ!?」

 声にもならない。

 その衝撃は、先ほどの比ではない。表面の装甲がバラバラに砕け宙を舞い、各部アーマーのエッジがへし折れる。

 そして、中の練太は全身を強く叩きつけられ、呼吸すらままならない。

 衝撃のあまりの強さに、意識が飛ぶどころか痛みで気絶すら許されない。

 口の中にどろりとした感触。血の塊。

「げふっ……がはっ……」

 それを吐き出し、やっとの思いで呼吸する。

「く、くそっ……こんな……」

 ――やっぱり……付け焼刃じゃ……ダメなのかよ……。

 あまりの激痛に心が折れそうになる。

『敵は大地より剣を生み出す也。止めねばならぬ』

「簡単に……言うな……くそ……」

 ――気楽に……言いやがる……。

『一度ならば可能なり。セブンソードが五番剣、暗黒剣ダークネスカリバーの力を使うならば』

「なっ……」

『ただし、技を出されてからは遅し。敵が技を繰り出す前に、こちらの能力を発動させる必要あり』

「その能力は……?」

『マスキングシャドウ――影の力。一度ならばあの攻撃を封じれよう』

「マスキング……シャドウ……」

 ――よくわかんねぇけど……それに頼るしかねぇ。だけど……

 敵の技を封じるといっても、反撃のチャンスを作るという意味ではギリギリの発動が望ましい。

 即ち、失敗すれば技の直撃を受けてしまう。

「いちかばちかかよ……」

 言って、ザインガッシャーを見据える。

 ゆっくり、セブンソードに近づいてきている。あの技で追撃しないという事は射程が足りないという事。

 ――なら、こっちから行ってやる……! ……使いやがれ。そん時がてめぇの最後だ!

 動くたびに激痛が走る体を引きずり、それにリンクするセブンソードも動き出す。

「ほう……。傷ついた体で向かってくるか。……ならば」

 ザインガッシャーは背負った大剣を引き抜いた。

「容赦はせん!」

 幻山は言い放ち、一気に機体を走らせた。

 二つの機体の距離は縮まり――

「うおおおおおっ!」

「かあああああっ!」

 それぞれの剣が衝突し、大気を震わせる。 

 双方が衝撃で剣が弾かれ、その遠心力で機体も後ろに飛ぶ。

 がりがりと地面を削りながら、その勢いを殺し、再び交錯する。

「くそっ!」

 重量がはるかに上のザインガッシャーの方が、剣での打ち合いは有利である。

 続ければ続けるほど、セブンソードは追い詰められてゆく。

 ――大剣だけで攻められたら……勝ち目がねぇ! どうにか……あれを使わせねぇと……!

『敵が秘技を使わぬのは接近戦では隙が大きいからと思われり。ソードファクトリアは大地に触れねば使えず、ダイアゲイザーは無防備になる。ならば、距離を取れば使ってくる筈なり』

「だから簡単に言うな……こっちの狙いがばれたら終わりなんだぞ」

『集中されよ』

「うるせぇよ」

 斬撃を捌きながら、少しずつ退がっていく。

 あくまで、攻撃に耐え切れなくなってのように見せながら、距離をとる。

 激痛に耐えながら、実際涙を流しながらも、その攻防が演技だと悟らせなかった。

 そして、敵の大振りの一撃をかわす振りをして思い切りのバックステップで一気に距離を取る。

 そのまま着地にしくじったように見せ、体勢を崩す。

 それを好機と見たか、ザインガッシャーが全身の力を抜き……

「今だ! マスキングシャドウ!」

 セブンソードの脚部が黒く変わり、足元の影もその濃度を一気にあげ、凄まじいスピードで広がった。 

 一瞬にして公園を覆いつくしたその影は、ザインガッシャーと大地の接続を断った。

「なっ、しまった!?」

 技が発動しなかった事に、幻山が気を取られた瞬間――

「うおおおおおおあああああああああっ!!」

 セブンソードは一足で相手の懐に入った。

 そして、一気に斬り上げる!

 直後、剣閃が六つに分裂した。

六なる斬撃はザインガッシャーを七つに裂き、天へ放逐した。

 さながら天に浮かぶその形は北斗七星の如く、

「み……見事……ぐああああああああああああああああああ……!!」

 そして直後の七つの爆発は、その北斗七星の輝きそのものだった。

「……見たか。スーパーブレイドセイバーソード!!」

『奥義・七星天遣(しちせいてんげん)(とう)なり』

 練太の残念な英語力により生まれた必殺技名は、竜王剣によってその命を絶たれた。

『あくまで七星剣の固有技の一つなり。独自の技を生み出す精進怠らざるべきなり』

「……ちぇっ、折角俺の溢れんばかりの才能から生まれた超必殺技だと思ったのに……」

 呟き、うつむく。

 しかしすぐ顔を上げ――

「でも俺の演技凄くねぇ? 歴戦の勇士をだましたんだぜ?」

『汝は剣道部なり。演劇部ではなし。まずはやるべきことあり』

「うるせぇよ。どっから覚えたんだ演劇部とかそういうの。……くっ……痛って……くそ。こんな調子であと2人勝てるのか……?」

 思い出したように襲ってきた痛みに顔が引きつる。

「……いや、勝つんだ」

 ――じゃなきゃ、アイツにどんな顔して会えるってんだ。

「待ってろよ……雷!」

 この戦いも、テレビやネットで中継されているだろう。

 今回も薄氷の勝利だ。リアルタイムで酷評されているかもしれない。

 しかし、そんな事は知ったことではない。

 錬太は、次なる戦いに向け、拳を握りしめた。


 見ているのは、モニターの向こうの住人だけではない。

 星色町、一〇〇〇メートル上空。

 雲を腰かけに、地上を睥睨する小さな影があった。

「ふーん。まったく、どいつもこいつも使えない奴らばかりだね」

 はるか高みからセブンソードを見下ろし、雷は呟く。

「その調子で頑張ってくれるといいよ。充分強くなったら俺が蹴散らしてあげるよ。あははははははっ……」


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