第一話「七星降る時」
薄暗い大聖堂のような空間。
光源は左右にずらりと並べられた蝋燭と、巨大なステンドグラス。
それに照らされる四つの影があった。
筋肉質でサングラスの中年男性、ボディスーツを着た女、猫背で金属のマスクをしている男、そして鋭い眼光の青年。
いずれもその体から尋常ならざる気配を放っていた。
「着いたようだ。目的の地、地球に」
サングラスの男が感情なく言う。
「どうやらもう終わっているようだがな」
それを聞き、青年がそちらを一瞥もせず言う。
『あの皇帝が敗れたというのか?』
今度は女が言う。それに合わせるかの如く、額の瞳を模した金色の装飾が輝いた。
「驚く事でもねぇだろ。確かに奴ぁ単純な力なら最強だけどよ、相性ってもんがあるだろ?」
今度は猫背の男が言う。
『確かにな。ファシバ様なら勝てるだろう。だが、そこらの奴に倒せるような奴ではあるまい』
女がステンドグラスをちらりと見る。
『もう甦っているのかもしれんな。――七星六剣が』
どこからともなく四人とは違う、重厚な声が響いてきた。
『ファシバ様……』
『エネルギー体の皇帝を倒すには形なきものを断つ力が必要となる。少なくとも私以外にそのような事ができる者は七星六剣しか思い当たらぬ』
「では……?」
サングラスの男がステンドグラスを見上げた。
『試して来い。そしてもし七星六剣が甦っていたのなら、狩れ』
日本のとある片田舎、星色町。
「宇宙戦争が見られる町」として、突如有名になった町である。
過疎化が進んでいたが、最近ではロボマニアや研究者の移住が増え、また、観光客も増えてきていた。
肝心の白騎士が現れなくなってもう一年になる。それでも白騎士温泉の客や、白騎士グッズの売り上げにかげりはなかったが。
その星色町の山の側に神蔵家があった。
そしてその隣(といってもかなり離れてはいるが、それでも一番近い)には、鉄家がある。
「あ~つまんねぇなぁ……」
そこから出てきたのは……鉄練太。16才。
登校するため学生服を着ているが、はだけて中の赤いシャツが丸出しだった。
「なんかなぁ……」
「いおんの奴が都会の女子高に行っちまってからどうも調子がでねぇぜ、って?」
「なっ!? ちょっ、てめっ! 何言ってやがる!?」
突然背後から声をかけられ、慌てふためき振り向く練太。
そこにいたのは雷。
いおんの弟で、小6。年はそこそこ離れているが、幼馴染にはなるだろう。
小学校と高校は方向が同じため、よく二人で登校する。
雷は寝ぼすけな為、よく練太が起こしに行っていた。今日は珍しく一人で起きれたようだ。ちなみに雷の両親はもっと寝ぼすけだ。
「ねーちゃんも薄情だよね。自分にゾッコンラブの幼馴染を置いて遠くの女子高行くなんてさ」
「誰がゾッコンラブだ!」
大声をあげる練太。
「誰も練にーちゃんとは言ってないけど?」
一方雷は涼しげな顔で言った。
「この辺民家二軒しかねーだろうがよ」
「でも学校はみんな一緒でしょ?」
「ホント、口のへらねぇ野郎だなお前は」
「照れるなぁ」
頭をかく雷。
「褒めてねぇよ」
「うん、わかってる」
あっけらかんと言う。
「コイツ……」
練太は頭痛を覚え、会話を中断し歩き出した。
――でもまぁ、マイナスいおんがいねぇといまいち張り合いがねぇってのも間違いじゃねぇかな……
帰りは流石に一人。家の方向は子どもが少ない。ほとんど田畑で民家もまばらだ。
「ホント、どうにもやる気がでねぇぜ。なんか面白い事でもねぇかな……」
そう呟いた瞬間……
きぃぃぃぃ、と耳を劈く響きが聞こえてきた。
「耳が痛ぇ! なんだこりゃあ!?」
音は空から響いている。
練太が空を見ると、それ自体は見えないが周囲の空気の歪みから、巨大な何かが飛行しているのがわかった。
「おいおい……何なんだ? また白騎士ん時みてぇな、宇宙の侵略者か?」
じっと見ていると、透明な飛行物体の動きが止まり、底から光が放たれた。
その光の柱から四つの巨大な影が出現する。
岩石質の装甲を組み合わせた岩山のようなロボット。羽織をそのまま金属にしたかのような侍とよく似たロボット。足はなく腕も宙に浮いており、またその全身も宙に浮かぶ妖精のようなロボット。そして、巨大な悪魔の如き顔面から直接手足が生えた、炎を模した意匠が施されたロボット。
四体の魔神。
纏う空気、それは幾多の戦場を潜り抜けた気迫――そこまではわからずとも、それらがただの機械ではないことは練太にもわかった。
「やべぇぜ……こいつら……」
――こっちには気づいてねぇみたいだな……つうかあいつら何なんだホント。
大きな木の陰に隠れながら様子を伺う。
何か話しあっているようだ。
「我らの出現にも何の反応もないようだ」
岩山のようなロボットに乗る、サングラスの男がやはり感情無く言った。
「ここで戦闘があったのは間違いないはずだが、もう次の地へ向かったということか?」
辺りを見渡し、侍のようなロボットに乗る青年が言う。
『七星六剣はここには無いということね』
妖精のような機体に乗る女が言う。
「そうとも限らねぇだろ? ちょっと火でも放ちゃあ出てくるかも知れねぇ」
火を模したような機体に乗る猫背の男が言った。
「爆龍、どうして貴様はいつもそう粗暴なのだ」
青年がモニターに映る猫背の男を睨む。
「いや、爆龍の言う事も一理ある。我らとて未だ明確な敵意を見せてはいない。七星六剣が悪意に反応するならば、それを示す必要がある」
サングラスの男が言う。
『七星六剣がここに有るにせよ無いにせよ破壊が呼び込む鍵だ。今までは空振りだったけれど、少なくとも最近戦闘があったここならば呼び込みやすいでしょう』
「とにかく燻り出してやるさ。俺式の方法でなぁっ!」
猫背の男の機体から炎が噴き出した。そして溶岩弾のように町に降り注ぐ。
「ヒャッハー! 出てきやがれ七星六剣! ニトロ・爆龍さまが相手になってやるぜ!」
町が炎に包まれる。
と言っても収穫後の畑や刈り入れ後の田ばかりなので、見た目ほどに被害はない。
「美しくない……」
燃えているのは田畑ばかりとはいえ、その中には練太の隠れている木もあった。
「あっちい!? やっべ!」
咄嗟に登ったのだったが、火はどんどん上がってくる。
飛び降りようにも下はもっと炎が渦巻いている。
「あっつ! どうすりゃいいんだよ!」
炎が猛り、靴に燃え移った。
「くっそおっ! 会話なんか聞いてないでシェルターに入るべきだった!」
慌てて靴を脱ぎ、投げ捨てるがそれも単なる時間稼ぎ。
あと一〇秒もすれば火は彼を包むだろう。
「面白い事ねぇかなとは言ったけど、こんな目にゃあいたくねーぞ! 誰か助けてくれ~!!」
練太は叫んだ。
その叫びが天に届いたのか――
空が一瞬にして星空へと変わった。
太陽はまだ出ている。しかし、空は暗く星の海。
そこにひと際強く輝く星があった。
いや星々があった。
その七つの星、それは北斗七星のように見える。
ただし、中央の星が足りない六星だった。
その内一つの星が流星となり、地上に降ってきた。
燃え盛る大地に突き立つ、巨大な剣。
その剣が赤く輝き、凄まじい勢いで炎を吸い込んでいく。
炎が全て吸い込まれると、天からさらに五本の剣が地に降り注いだ。
「来たか――七星六剣」
侍型のロボットがその六本の剣に近づく。
「回収する」
「オイ、待てよ。俺の言うとおりにしたら出てきたんだ。俺が回収する」
爆龍が割り込む。
「……好きにしろ」
「ハッハー! 手柄いただき」
爆龍の駆る機体が突き立つ大剣に手をかけた……
その瞬間、天が昼へと変わり、六本の剣が強烈な光を放ち一つに集まった。
そして、形を成す。
北斗七星に似た、その形はまるで竜。
竜は咆哮し、爆龍の機体は弾き飛ばされる。
「な、なんだこりゃあ!?」
爆龍がたじろぐ。その動揺が伝わるように、機体がたたらを踏んだ。
「七星竜だ。取り押さえるぞ」
青年の駆る侍ロボが竜に近づいていく。
「お、おい、俺の獲物……」
「そんな事を言っている場合ではない」
岩山ロボも前に出た。
『そうね。相手はやる気みたいよ?』
妖精型ロボもそれらに続く。
「ちっ、まぁいいや。やるぜぇ!」
四体のロボが竜の周りを取り囲む。
次々と攻撃を繰り出し、竜を追い詰めていく。
金属のぶつかる耳障りな音と共に、竜の外皮たる装甲がひしゃげて始める。
一方の七星竜は、炎を吐いて攻撃するが爆龍の機体に吸収されていくだけだった。
「オイオイ、何だこりゃ。弱すぎるぜ? こんなの狩ったって意味なくねぇか?」
「確かに弱すぎる。どういう事だ」
「七星が揃っていないからだ。今の内に狩る」
侍ロボが剣で斬りつけ続ける。切れることはないが、削られていく。
「七星? 何だそりゃあ?」
「見ろ、あの竜を。六本の剣それぞれの宝玉に光が灯っているだろう? だが中央の剣だけ宝玉が二つある。剣先の方は灯っているが、柄の宝玉は点灯していない」
青年の言うとおり、剣にはそれぞれ緑色に輝く宝玉が埋め込まれていた。
そして、六本の剣の宝玉の内、中央の剣のその柄の宝玉だけ光を放っていなかった。
「あれが最後の一星の収まるべき位置。そしてそれが揃わねば真の力は発揮できない」
「じゃあよ、揃えなきゃなんねぇんじゃねぇの?」
『駄目よ。それが揃った時……』
「とりあえずは助かったみたいだけど……」
練太は焦げた木から降り、巨竜と四体のロボを見る。
早く逃げたほうがいいことはわかっていた。
だが、目を離せなかった。
「俺を助けてくれた竜がやられてるのに、俺は何にもできねぇのか……?」
――いおんの奴ならどうしたかな?
「多分……」
練太は走り出した。
「あの鉄砲娘ならこうしたろうな! ちきしょう!」
竜とロボたちが戦っているのは中学校の校庭だ。
練太は中学校の中に飛び込む。
――去年まで通ってたんだ。隅々まで知ってるぜ。
そして廊下を駆け回り、持てるだけ消火器を持つと屋上に駆け上がる。
思っていたより戦っているロボたちが近い。
戦っているうちに校庭に移動して来たのだろう。
「これなら届く……か?」
――野球部じゃねぇけど、これでも剣道部だ。腕力は帰宅部よりゃあるだろ。
「よし、のるかそるか……」
消火器を掴む。
それを持ち上げて……
「くそっ!」
足がぶるぶる震えて力が入らない。
「これ投げてダッシュで逃げるだけなのによ……ビビってんのかオレ! だからアイツに根性なしとか言われんだよ!」
足をひっぱたいてみる。
ばちん、と快音が校舎に響き渡った。
「いって!」
思いのほか力が入りすぎたのか、足のみならず手までしびれた。
「強く叩きすぎた……痛ぇけど、震えはおさまったな……行くぜ!」
消火器を掴みなおして
「よっこい……しょいあーっ!!」
思いっきり投げる。
くるくると回りながら岩山ロボの頭に向かう。
それが命中するかどうかも確認せずに第二撃を放つ。
「よっこい……しゃーい! しゃーい! しゃーい!」
消火器が次々と宙を舞う。
見事に四体のロボに命中し、その装甲に叩きつけられた消火器が割れ、泡が撒き散らされる。
それはさながら、煙幕のようにあっという間に辺りを包んだ。
「なッ!? こりゃなんだ!?」
視界を奪われ、たじろぐロボたち。
『七星竜の特殊能力!?』
「違うようだ。単なる泡だ。殺傷能力はない――が」
その隙に七星竜は体勢を立て直し、刃の体で四体のロボに反撃を開始した。
「チィッ!」
「無粋な真似を」
侍ロボだけは剣で泡をガードしていたようだ。
屋上の練太に気付き、そちらを向き直る。
振り上げられた剣は、ゆうに20メートルはあった。
当然ながら、こんなものが落ちてきたら、命どころか体が原型を留めていられるかすら怪しい。
「人の戦いに水をさした報い、受けるがいい」
「げっ、ばれてる!? 一対四がよく言うぜちきしょー!」
練太は急いで出口に向かおうとするが、出口が薙ぎ払われる。
わざわざ剣の腹で叩いて潰すあたり、徹底していた。
「うっそおん!?」
見事に退路を立たれ、立ち尽くす練太。
「おいおい……まだ死にたくねぇよ……」
辺りを見渡す。
――柵を飛び越えて逃げ……それも死ぬっつーの。ここ三階の上だぞ? 一〇メートルは軽く超えてる。どうする……!?
「諦めも美徳。潔く散るがいい」
侍ロボが再び剣を振り上げる。
「ちきしょー!」
このままだと確実に死ぬ。
そう判断した練太はフェンスを駆け上り――
飛び出した!
「ああああああ……」
もちろんプランなどない。
せめて校庭の木々に落ちれば……そんな淡い期待すら打ち砕くように、眼前に見えたのは三体の巨大ロボだった。
「よくもやってくれたなガキ。燃えてみるかぁ?」
炎ロボが剣の形をした腕を伸ばす。
その剣が形を失い、巨大な炎の塊となる。
まだ放ってもいないのに、炎の余波は錬太の肌にサウナのような熱を伝えて来る。
落ちるのが先か、焼かれるのが先か――
「ちくしょう! 誰か助けてくれぇ~!!」
「バイバ~イ」
炎が自由落下中の練太に襲い掛かる。
翼を持たない人類にかわす術はない。
「わあああああああああああああああああ……!?」
絶叫が響き渡る。
「ハイ、おしまい。さぁて、次は竜の野郎……」
「あああああああああああああああああ……!?」
絶叫はまだ止まっていなかった。
「オイ、おかしいぜ。とっくに燃え尽きてるハズ……」
炎は火球となり、宙に留まっていた。
「ああああああああああああ……あれ?」
荒れ狂う炎の中、練太は気が付いた。
「燃えてない?」
炎は見えない壁のようなものに阻まれて練太まで届いていない。
シャボン玉のようなその障壁により、熱すら感じない。
「どういうこったァ?」
「しまった!!」
「へ?」
『七星よ!』
「え~と、どうなったんだコレ?」
練太はとりあえず不可視の壁を触ってみる。
破れたりはしないようだ。
「助かった、のか? でも誰が?」
『選ばれた』
「ん?」
声が直接頭の中に響く。
機械的だが、どこか荘厳な響きのある声が。
「俺が? 何に?」
『七星』
「何だそりゃ?」
『心にて邪を斬る最後の剣――七番剣』
「俺が?」
『是』
「ぜ、って意味わかんねーよ。俺剣じゃねーし」
『行くぞ』
「人の話聞けよ」
『七星合体』
「あ、何かカッコイイ響きだな」
練太を包んでいた不可視の球が輝きだす。
そして……
『こおおおおおおおおおおおおおっ!!』
七星竜が咆哮した。
それに合わせ、練太を包む球が高速で引き寄せられる。
球は竜の中央にある宝玉へ吸い込まれる。
その宝玉が輝き出す。
「全ての宝玉が点灯する……!」
青年が呟く。
「ぼーっとしてんじゃねぇよ! 止めんだよ!」
爆龍は再び剣の腕を炎に変え、七星竜に迫る。
「炎王剣!」
七星竜めがけ、火炎剣を振り下ろす爆龍。
それが命中するか否かその刹那。
七宝玉の輝きが目も眩むほど強くなり、全てを飲み込んだ。
「うおっ!? なんだこりゃあ!?」
吹き飛ばされる炎ロボ。
眩い光の中で、竜を成す六本の剣が一つの形へと組み合わさっていく。
人のカタチへと。
『七星合体』
光がその胸へと収束する。
『セブンソード!!』
収束した光を弾き飛ばし、それは顕現した。
腕組みをする大剣士。
その全身は鋭い刃を組み合わせたような鎧で構成されていた。
いや、鎧ではない。
剣が体なのだ。
「……現れたか。七星剣セブンソード」
侍ロボに乗る青年が鋭い目つきで睨む。
その口元は、どこか笑みのように歪んでいる。
「面白い。真の力どれほどのものか……見せてもらおう!」
「えっと、つまり……俺が操縦できるってことか?」
セブンソードのコクピット、腹部の球体の中で練太は頭に響いてくる声と会話していた。
『是』
「だから何だよ、ぜって。というかあんた誰?」
『我は一番剣――竜王剣ドラゴンカリバー。六剣で唯一意思持つ剣なり』
「竜王剣?」
『我の事はよし。今は眼前の敵を討つべし』
「勝てるのか?」
『おそらく能力では敵が上なり』
「おいおい……」
頭を抱える練太。
『汝の知恵で乗り切られよ』
「無茶言うな。何かこー必殺武器でちょちょいのちょいと行かねぇのか?」
『我が武器は剣のみ。六番剣クリスタルカリバーを使うが良い』
「クリスタルカリバー?」
セブンソードの手に剣が出現する。
柄は大きいが刀身は小さい。
「なんか頼りないな」
『汝が腕で如何様にもなる』
「これでも剣道有段者なんだぜ。任せとけ」
面ばかり狙いにいって、試合ではよく小手や胴で負けてばかりだが。
「行くっきゃねぇし、行くぜっ!」
練太が――セブンソードが走り出す。
クリスタルカリバーを大上段に構え、敵のど真ん中に飛び込んでいく。
巨人の一歩は、まさに一足飛びに敵の間合いに入り込んだ。
「来るがいい」
青年の駆る侍ロボが刀を腰だめに構える。
「めえぇぇぇぇぇん!」
踏み込み、クリスタルカリバーをその言葉どおり相手の頭に打ち込む。
「ぬるいわ!」
青年はその剣撃を見切り、横にかわし、下からカウンターを狙う……
はずだった。
しかし、斬撃によりその左肩が弾け飛ぶ。
それに留まらず、小気味良い音と共に、左手が青竹のように半ばまで切り裂かれた。
「なっ!? バカな! 真空波が生まれるほどの剣速ではなかったはず!?」
「だせぇ! どいてろ志狼!」
爆龍の炎ロボが間に割り込み、炎の腕で襲い掛かる。
「炎王剣フレイム……」
「さっき見たっつうの!」
攻撃姿勢に移ろうとした炎ロボの頭にクリスタルカリバーが命中する。
「ほげっ!?」
炎ロボの頭頂部にある炎を模した飾りが粉砕され、そのまま胴体と一体化している頭にも、もぐら叩きのように剣がめり込んだ。
「……妙だ。いかに爆龍とはいえ間合いを誤るとは思えん。試してみるか」
損傷した炎ロボを押しのけ、岩山ロボが前に出る。
「次はお前かっ!」
正面にした錬太には、その魁偉から来る威圧感をまざまざと感じさせられたが、それを振り払うように声を出す。
そして、先ほどと同じように大上段の構えで飛び込んで行く。
「ザインガッシャー特殊能力――ソードファクトリア」
岩山ロボの手が大地に触れると、そこから無数の剣が生まれ、セブンソードめがけ大地を走った。さながら剣の津波だ。
新幹線のように高速で迫る巨大な水晶の剣。
「うわっ!?」
練太は慌ててクリスタルカリバーを振るう。
それに合わせて無数の剣が砕け散った。
剣の津波はクリスタルカリバーの斬撃の威力に押され、セブンソードに辿り着くことなく押し留められる。
「やはりな。その剣――見えない刀身がある」
剣の津波は、クリスタルカリバーの刀身に命中していない延長線上部分まで砕け散っていた。
「へ? あ、そういやそうかも」
言われて練太は初めて気付く。
クリスタルカリバーは目に見える小さな刀身の外側に、透明で、巨大な刀身を纏っていた。
『これが六番剣にして透明剣、クリスタルカリバーの力なり』
「ってばれたら役に立たなくねぇか?」
剣の津波は、半ばまでしか砕けていない。
つまり、剣の長さはそこまでという事が、相手にバレているのだ。
『カラクリが見抜かれたとて切れ味は変わらぬ。安心めされよ』
「できるか!」
どこか抜けている竜王剣にツッコミを入れる練太。
そうこうしている内に妖精型のロボが迫っていた。
『伝説の剣にしては何ともお粗末なカラクリね。さっきので斬撃範囲はわかってるわ。レンジの外から切り裂く! 風溶剣・乱舞!』
妖精型ロボの空中に浮かんだ剣の手が空中に溶けた。
「ん? 何だ?」
妖精型のロボはかなり離れた位置にいる。
だが
「おわっ!?」
衝撃が練太を襲った。
「何だ!? 何がぶつかったんだ!?」
『斬撃を受けた』
「は? この距離で? あいつも見えない剣を?」
『おそらく風の刃なり』
竜王剣のその言葉通り、セブンソードの胸部装甲には切り裂かれた傷が出来ていた。
「ありがちだけど普通にやべぇな……射程距離が違いすぎる」
『届く』
「へ?」
『この距離ならば届く。クリスタルカリバーは不可視の刀身の長さを変えられるなり。捉えられない剣、それがクリスタルカリバー』
「意外に便利だな。よーし、じゃあ行くぜっ!」
セブンソードはクリスタルカリバーを思い切り振り回す。
『無駄よ。斬撃範囲は見切って……なっ!?』
翻弄するように舞っていた妖精型ロボの胸部装甲が横一文字に斬り裂かれた。
内部配線がむき出しになり、断線したケーブルからスパークが絶えず起こる。
『……そう、流石は七星六剣……一筋縄では行かないって事ね』
語尾に悔しさを滲ませながら、妖精型ロボに乗る女が呟く。
「ちっ、やっぱり俺が!」
爆龍の炎ロボが再び前に出る。
「いや私がやる」
それを押しやり侍ロボが前に出た。
「貴様らは冷静さを欠いている。ダメージのない私が戦うべきだ」
さらに後ろから岩山ロボが進み出る。
『あなたたち……いい加減にしなさい。これじゃ任務が果たせないでしょう』
それをさらにかきわけ妖精型ロボが出る。
「おい、てめぇ……」
「七星六剣より先に貴様を斬ってやろうか」
「やめろ」
『聞いてるのあなたたち?』
四機は言い争い始めた。
まるで子どものように取っ組み合いの喧嘩になる始末。
それをはたから見る練太。
「ええと、やっちゃってもいいのか……?」
『是』
「またそれかよ……まぁいいや。やるぜっ! とりゃああああっ!!」
セブンソードはクリスタルカリバーの刀身を最大にし、思い切り横薙ぎを放った。
「げっ!?」
「しまっ……!?」
「!」
『ああっ! もうっ!』
クリスタルカリバーに秘められたエネルギーが命中と同時に解き放たれ、両断とはいかないまでも、四機を吹き飛ばす事に成功した。
そのまま校庭を転げていく機体だったが、敵もさるもの。即座に受身をとり、体勢を立て直す。
「ちっくしょう! 油断した! てめぇらが邪魔するから……」
「何だと貴様……!」
再び争い始める爆龍と志狼。
『あなたたち本当に……』
『いい加減にしろ』
天から声が響いた。
重く、深いその声に、四機の動きがぴたりと止まる。
「ファ……ファ……」
爆龍が餌を待つ鯉のように口をパクパクさせる。
『ファシバ様!?』
あれほどいがみ合っていた四機が、まるでマスゲームのように、一糸乱れぬ動きで直立不動の姿勢となる。
「ファシバ……?」
無論、錬太がファシバなる存在について知るはずもない。
だが、四機の様子から、その声の主が尋常ならざる存在であることはわかった。
『……もういい。今は七星六剣があるとわかっただけで構わん。恥の上塗りをする前に一度退け』
『は、はっ!』
「チキショウ、覚えてろよ!」
怒り交じりに、地面を踏みつける火炎ロボ。
まだ納得しきれていないのはありありと見て取れるが、声には逆らえないのか踵を返す。
「待て。去り際も美しく、だ。名乗りをしておくぞ」
去ろうとする爆龍を志狼が引き止めた。
「はぁ? 別にいいだろ?」
「駄目だ」
「爆龍、こうなった志狼は人の話など聞かん。さっさと終わらせるぞ」
「ち……しゃあねぇな……」
四機はもぞもぞと集まり何やらフォーメーションを組み始めた。
侍ロボがずい、と前に出る。
その肩には青年が乗っていた。
「七星剣とその主よ。我ら統剣軍が四甲剣の名乗りを聞け」
朗々とした声で言い放つ。
「我が名はキラー・志狼。愛機は水の剣王機――ザンバオリ。次にもし会う事があれば、その力存分に見せてくれよう」
志狼は言うだけ言うと、ザンバオリごと水泡に包まれ消えた。
次に炎ロボとその肩にのる爆龍が前に出る。
「俺はニトロ・爆龍。愛機は火の剣王機――オーヴァセルシス。次は手加減しねぇぜ」
爆龍と剣王機は炎に包まれ消えた。
次にサングラスの男を肩に乗せた岩山ロボが前に出るでもなく、
「私はブラック・幻山。駆るは地の剣王機――ザインガッシャー」
それだけ言うとめくれあがった岩盤に隠れるように消えた。
最後に妖精型ロボとその前の虚空に浮かぶ女が前に出る。
『まったく……私はエレメンタラー・四天。愛機はこの、風の剣王機――サン・シオン。……じぁあね』
興味なさげにそう言うと、風に包まれ消えた。
いずれも、影も形も残っていない。素早い去り様である。
「で……何だったんだ? あいつら個人わかっても目的とか組織とかさっぱりだぞ?」
後に残された練太は呆然とするのだった。
本拠地に戻ってきた四甲剣たち。
ステンドグラスの輝きの下、しかし、醜態を晒したこともあり、その顔色は冴えない。
『……よかったのですか、ファシバ様? わからないことが多すぎますが』
四天が言う。
事実、彼女らはさほど有用な情報を得ていない。
『心配ない。手は打ってある。見よ』
ファシバの声に合わせ、暗がりから少年が姿を現す。
『これは……現地人……?』
「俺は黒雷。剣王・黒雷だ」
そう言った少年の、蝋燭の火に照らされた顔は――四天には知る由もないが――雷のものであった……。