第二章 ~獣人村の異変~(8)
何回も書き直した挙句この出来とは……!
筆を全力で叩き折りたいです。
11
「何だ貴様ら!?そこを動くな!」
奴隷にされたかもしれない獣人の子供達の手掛かりを得るべく、俺とミルドは、帝都の市場にある最も大きな奴隷商館を訪れた。
しかし、俺達はその扉に手をかける間も無く、早々にいかつい男達に囲まれてしまった。
何故なら……
「王よ。やはりその格好は目立つのでは?」
俺が頭部全体をすっぽり覆う、黒光りする金属製の面付き兜を被っているからだ。
「しょうがないだろ。帝都中に、黒目黒髪の侵入者の噂が広がってるんだから」
ただし、フルフェイスマスクの頭頂部から後頭部にかけては、無造作に銀色の髪が見え隠れしている。
構図はこうだ。
まず、銀髪のカツラを被ります。
次に、頭のてっぺんにクロスケを載せます。
すると、あら不思議!クロスケが俺の頭をすっぽり覆って、見た目金属の面付き兜に早変わり!
……いや何故か、どうやって『誤認』の魔法無しで、顔を隠したまま街を出歩くかミルドと相談していたら、急にクロスケが自分を頭に乗せろという思念を発してきたのだ。
言われるままにクロスケを頭に乗せたら、器用なことに聖樹の森に攻め込んできた兵士の兜を模して、このような姿になってくれた。
もっとも、最初はスライムらしいでろんとしたパーツが多かったため、ミルド監修の元多数の修正を加えた結果、それなりの見栄えがする面付き兜になったのである。
「クロスケ」ダークネス・スライム ★★★
体力 ★★★
魔力 ★
攻撃 ★★★
防御 ★★★
素早 ★★★
知性 ★
精神 ★
特性:闇属性、衝撃吸収、魔素吸収、毒無効、状態異常耐性、物理耐性
特技:溶解、影真似、鉄の糸、土魔法、硬化
すっかり忘れられているかもしれないが、クロスケには「硬化」と言う特技がある。
面付き兜になったクロスケは、まるで本当の金属のような硬さがありつつも、内側はスライム特有の柔らかな弾力性のあるボディーで覆ってくれており、俺の頭にかなりジャストフィットしているので、まったく邪魔にもならない。
「王よ。そのスライムは本当にスライムですか?こんな器用な真似ができるスライムなぞ聞いたことがありませんが……」
「ミルド。そんなことより、いい加減その呼び方やめてくれよ。折角変装しているのに、不自然だろ?」
「……正直、その変装自体が不自然ですが」
ちなみに、本当の金属製の装備品は邪魔なだけなので、一切着ていない。
現在の俺の姿は、その辺の服屋で買ったクロスケの色に合わせた黒い服に、黒い面付き兜を被った、髪だけが銀色の、どこに出しても恥ずかしい立派な不審者である。
悪乗りして、黒い皮の手袋と黒いブーツ。そして、使えもしない黒い鞘に入った長剣も佩いている。
全て、適当な魔石を売って作った金で買ったのだが、魔石の売却代金はミルド曰くかなりの財産になったらしい。
こちらの貨幣価値がわからないが、お金があると言う事はそれだけで安心できる。
「特にそこの黒い奴!そんな怪しげな恰好をして、どういうつもりだ!」
うん。そんな正面から聞かれると、ぐうの音も出ません。
ふざけ過ぎましたと素直に謝罪したいが、どうせここは奴隷商館で、こいつらはその人身売買に手を貸しているような輩なのだ。
遠慮は無用だろう。
「……五月蠅い。どけ」
「貴様ぁ!なめてるのか!?」
エキサイトした男の一人が、早くも剣を抜いている。
だが、こっちは既に怒ってるんだ。
俺は、ミルドとの訓練で多少はコントロールできるようになった魔力に殺気を籠め、剣を持った男を面当て越しに睨み付けた。
「っ!?」
「どうした!?」
男が腰を抜かし、剣を手にしたままへたり込んでしまった。
やはり、コントロールが完全ではないのか、周囲の他何人かも顔を青ざめさせている。
「ふむ。何人か魔力に敏感なものがいるようですね。中々のレベルです」
俺の後ろで、ミルドはのんびりと話しているが、何かがあればすぐに魔法を使えるように、体中に魔力を漲らせているのがわかる。
これも魔力コントロールの修業の成果だそうだ。
……正直、日本で就職に一切役立ちそうにないスキルがどんどんと増えても、全く嬉しくないのだが。
「貴様ら、抵抗するつもりか!?」
「抵抗も何も、お前らが突っかかって来たんだろう?」
「どうしました?」
俺達の騒ぎを聞きつけたのか、商館の中から一人の痩せこけた男が出てきた。
「旦那様!今、不審人物を取り押さえるところです!ここは危険ですので、中に入っていて下さい!」
「確かに不審人物だが……彼は右手を上に挙げているぞ?」
そう。その男の言う通り、俺は最初から「攻撃の意思無し」を示すハンドサインを続けている。
「攻撃の意思無し」を示す右手を挙げているものを攻撃すれば、慣習的にも法的にも全面的に不利なるはずだとミルドから聞き、見た目の不信感を紛らす策の一環として取り入れているのである。
もっとも、俺はお尋ね者なので、本当にここで捕らえられれば、彼らはきっと懸賞金か何かをもらえると思うが。
「ここは商売柄、色んなお客様がいらっしゃいます。そう教えたはずですが?」
「で、ですが……ここまで明らさまに怪しい人物を入れる訳には……」
奴隷商人は柔和な顔つきだが、その視線は冷たく鋭い。
門番をやっていた男達が、冷や汗をかいて言い訳をしている。
「まぁ、真面目に仕事をしようとした結果でしょうから……今回は不問にしましょう」
「おい。もう、この手を下げてもいいか?」
「勿論でございますお客様。当店の護衛が大変失礼を致しました。ただ、そのお顔をお見せ下さいとは申し上げませんが、当店は武装したままでの入店はお断りしております。武器だけでも、お預かりしてよろしいですかな?」
にこにこと笑ったまま、有無を言わせぬ様子で奴隷商人が言うが、どうせこの剣は飾りである。
取られても全く困らないので、俺は素直に剣を鞘ごと手渡した。
「……ありがとうございます。どうぞ中へ」
俺が素直に武装解除に応じると思っていなかったのか、奴隷商人は意外そうな顔を見せたが、すぐにプロらしく何事も無かったように元の笑みに戻った。
◇
「それで、今日はどのようなご用件で?」
「新しく始める事業のために、読み書きのできる奴隷が欲しい。性別は問わない」
「ほぉ……では、何人か見繕いましょう。ところで、その前に本日のご予算を確認させて頂いでもよろしいですかな?決してお客様を疑っている訳ではございませんが、稀に人探しの為だけに来る不届き者もおりましてな」
奴隷商人は、相変わらず薄い笑みを浮かべているが、どこか馬鹿にされているような気もする。
この表情はどこかで見た記憶が……ああ、俺にカードゲームの袋をくれたクラスメイトの、タカ何とかって奴だ。
今にして思えば、全てはあいつの寄越した変なカードが原因だ。
そう思えば、この目の前の奴隷商人の薄ら笑いがますます腹が立つ。
「これで足りるか?」
魔石を売って作った金を、無造作に机の上に置いた。
「むっ……間違いなく帝国金貨で三十枚ありますな。大変失礼を致しました。これだけあれば、最上の奴隷をお選び頂けますよ」
けっ!金があるとわかったら、急に態度を変えて媚びへつらい出しやがった。
それでも、目の奥の人を小馬鹿にしたような色は消えていないが。
「なら、すぐに連れて来い」
「はい、ただいま!」
奴隷商人の連れて来た奴隷達は、どれも眉目秀麗な女性ばかりだが、皆腐った魚のような眼をしていた。
どうにも、値が張る奴隷ばかりを見せられている気がする。
「この娘なんかはどうですかな?商いに失敗した卸問屋の長女でして、読み書きは勿論計算もできます」
「ふむ。値段は?」
「本来ならば金貨三十二枚のところ、先程の部下の無礼もございましたので、特別に金貨三十枚で結構です」
「高すぎるな」
俺の言葉にも、その奴隷の女性は眉一つ動かさず、無言で部屋を辞去した。
既にその心は死んでいるようだった。
俺の胸も痛むが、全員を買い取るお金は無い。
ここはしばらくの間、我慢してもらおう。
「はあ、しかし。読み書きができる者は貴重でございます。どうしても、お値段の方も高くならざるを得ません」
「数が必要なんだ。子供でもいい。読み書きは俺が教える」
「はあ、それでしたら……ご不快になるかもしれませんが、次のをご紹介しましょう。おい、あいつらを呼んで来い」
何回目かの交代で、遂に俺の目的のものがきた。
(獣人だ!)
ぞろぞろと、連れ来られた彼らは、今までの誰よりもボロボロの服装をしていたが、前の奴隷たちよりも生気に溢れた眼をしている。
特に最後に入って来た一番大きな女の子は、今にもこちらに噛み付きそうな、燃えるような瞳をしていた。
普通の服装をしていれば、普通の人間と獣人の区別はつかないが、ほぼ布を巻いているだけのような恰好をしているので、彼ら特有の毛深さと尻尾が見え隠れしている。
その数、全部で十二人。
「これは、最近入荷と言うか押し付けられた、獣共でしてね。そこの二匹だけは別ですが、まとめて買い取って頂けるなら、残り十匹合わせて金貨十五枚で結構です」
小さな子供たちが怯える様子で、こちらを伺っている。
決して彼らを人間扱いしようとしないその口振りに、今すぐぶん殴ってやりたい衝動にかられるが、ここで騒ぎを起こせば全てが泡に還る。
「ふむ。気に入った、こいつらでいい。だが、何故その二人は別なんだ?」
「はあ、申し訳ございません。ちょっとでも、こいつらと別々にしようとすると、激しく暴れるもんですから已む無く連れ来ましたが、この二匹はもう先約がついているのです」
「俺が買い取ろう」
「え?」
「その先約とやらよりも、俺が高く買い取ろう」
どうせ、異世界で得た金は泡銭よりも儚い金だ。
いくら使っても全く惜しくない。
それに、一番覇気に溢れるあの女の子が、多分狼人の勇者(笑)ガロの娘じゃないだろうか。
何となく雰囲気と言うか、「魔力」が似ている気がする。
「しかし、この二匹には金貨五十枚の値がついておりまして」
「なんだと?そこの十人を合わせた額よりも大きいじゃないか!」
「はあ、ちょっと申し上げられませんが、とあるやんごとなき方からのご注文ですので……」
再び薄ら笑いを浮かべる奴隷商人。
ちっ……足元を見られたか?
「わかった。倍だそう」
「えっ?」
「全員で合わせて、金貨百枚で俺に売れ」
「正気、でございますか?」
「ああ、ここに魔石屋で金貨三十枚の価値があると言われた魔石がある。これと、今持っている金貨三十枚。それに、追加で金貨四十枚を持ってこよう。だから、一週間待て。決してお前にも損な話しじゃないだろう?」
双頭狗の魔石は価値が高すぎると言われ、魔石屋で買い取ってもらえなかったので、俺の手許に残ったままだ。
「……その魔石は証明書が出ますかな?」
「すぐそこの魔石屋で鑑定してもらったぞ?証明書も出せると言っていた」
「ああ、ガロルドの店ですか……なら間違いないでしょう。一週間お待ちします。ただし、一週間で追加の金貨が調達できなかった場合は、他の十匹を金貨二十枚で買い取ってもらえますかな?」
「おい。さっきよりも値が上がっているぞ」
「なに、そのお方を待たせるのは、我々もかなりの労力を要するのですよ」
『我々』ね。
他にも仲間がいるのかな?
「まあいい。では、一週間後また来る」
本音では、二度と敷居を跨ぎたくない場所だが仕方がない。
俺は、金の入った袋を懐に仕舞うフリをしながら、『窃盗』の亜空間の中に放り込んだ。
◇
「王よ。成果はございましたか?」
「あったが……いらないモノまで釣れてしまったな」
奴隷商館を後にし、ミルドと合流した俺は敢えて隠れ家(ただのボロ小屋だが)に行かず、狭い路地裏に入り込んだ。
「どうやら、そのようでございますね。釣果としては、まさしく雑魚といったところでしょうか」
「それ面白いな」
そのまま、するすると狭く暗い道を進むと、やがて行き止まりにぶつかった。
「そろそろいいか。……おい、そこの隠れてる奴ら、出て来いよ」
奴隷商館を後にしてから、複数の人影に尾行されていた。
もっとも、気配丸出しでとても、とても『尾行』と表現できるようなものではなかったが。
十メートル以上の巨体にも関わらず、音も気配も無く目と鼻の先まで忍び寄る事が出来る、聖樹の森の魔物達を少しは見習ってほしいものだ。
「気づいてたのか?」
「ふん。格好つけやがって」
「大人しく武器と金と魔石。あと、その女を置いていけば命だけは助けてやる」
壁の影からできてきたのは、あの奴隷商館で俺に絡んできた護衛の男達だ。
どうも、大金を見せすぎたみたいだ。
「あの商人の差し金か?」
「さてね?今は、そんなことを気にしている場合か?」
全員にやにやと、嫌らしい笑いを浮かべている。
あれ?そう言えば俺、キリアの「イイ笑顔」に始まり異世界に来てから碌な笑顔を見ていない気がする。
ああ、聖樹の国のファラ達が懐かしいなあ。
「王よ。ここは私めにやらせて頂ければ」
ミルドがすっと俺の前に出ようとしたが、その腕を抑えた。
「いいんミルド、ここは俺がやろう。ほら、受け取れ」
俺は腰の剣をベルトから外し、男たちに差し出した。
「そうそう、最初っから素直にすればいい……ぶほぉ!?」
一番前にいた男の顔面に、黒い鞘に嵌った剣が直撃した。
ミルドはすぐに血祭とか言うから、怖くて任せられないんだよね。
「すとらーいく」
「なっ!貴様やるつもりか!?」
「こっちが何人いると思ってやがる!」
やるつもりも何も、既に戦いは始まっているだろうに。
鈍臭い奴らだ。
これがキリアの組手だったら、既に三回は死んでるぞ?
「『速度強化』五枚」
いきなり全力でやれば、、平原のコボルトのような悲劇になりかねない。
まずは、試しだ。
俺は黒い手袋で覆われた拳を、男の腹に目がけて打ち込んだ。
「こいつ!いつの間に……ぐっ……っ……」
なんだ、強化しない拳で一発か。
それに魔法で強化した速度に、全くついてこれない。
『龍槍』で鍛えた拳は、魔法関係無く単純に硬く強くなっているようだ。
「ちっ、殺すつもりはなかったが……全員抜け!お前らは、魔法で援護しろ!」
ようやっと人数差が絶対ではない事を悟ったらしい。
リーダー格の男が、口から泡を飛ばして叫んでいる。
「兄貴いいんですかい!?最近は衛兵共が……」
「うるせえ!すぐに構え……っ!?ぎゃあああああ!?俺の腕があああ!?」
こいつら馬鹿なのか?
俺の目の前で悠長に会話しているとは。
リーダー格の男に指示を出されれば面倒なので、『速度強化』の効果が残っている間に、突進し右腕を折らせてもらった。
ちょっと勢いが付きすぎたのか、かなり変な方向に曲がってしまったがご愛嬌だろう。
「うわ、うわあああ!?」
「逃げっ……ひぃぃい!」
「待て!俺を置いていかないでくれ!」
失敗した。
リーダー格の男が崩れた瞬間、 烏合の衆と化してしまった。
行動がばらばらになりすぎて、逆に何人か逃がしてしまったか。
「待て、お前らは逃がさん」
魔法を撃つ気配を見せていた、何人かを優先して気絶もしくは、脚の骨を折り行動を制限する。
もちろん、戦闘後のお楽しみ。魔法カードを剥ぐためです。
「さすがは王でございます。こんな屑どもでは意にもかいしませんか」
「ミルド、こいつらうるさいな。何かいい魔法無いか?」
俺が倒した男達のうち、不幸にも気絶できなった何人かが叫びながら地面をのたうち回っているので、とても喧しい。
「はっ。お任せください『心蝕』」
「おおっ?」
ミルドの両手から噴き出た黒い霧が、騒いでいた男達の頭にかぶさると、すぐさま男達はその動きを止め地面に静かに転がったまま微動だにしなくなった。
『心蝕』に晒された男達は、まぶたは開いているが、その両眼に一切の生気が感じられない。
「……おいこれ、大丈夫なのか?」
「さあ?精神力の高い人間には効果が無い魔法なのですが……どうやら効果は覿面ですねえ」
うふふと吹き出しが入りそうな、笑みを浮かべるミルド。
その「効果」とやらは聞かない方が良さそうだ。
『土の矢』土属性 ★★
【地面の土砂を集め、矢として撃ちだす。矢にあまり魔力は付与されておらず、物理的な効果が重視されている】
「しかも、こいつら碌なカード持ってないし……」
俺が持っていなかったカードは土の矢一枚だけだった。
「王よ。せめて武器を持っていきますか?」
「うーん、そうするかぁ。また襲って来れば面倒だし。後、折角だから身ぐるみ剥いでいこう」
右の頬を打たれたら、左の頬を打てだっけ?
何か違う気がするが、いずれにせよ強盗をしようとしたんだから、同じ目にあっても文句はないだろう。
せめてもの情けとして、パンツだけは残してやりたいと思う。




