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異世界召喚 〜リアルすぎるカードバトルを添えて~  作者: 一刻一機
第一章 ~貧乏姫の戦争~
15/29

Story.001 ~VRカードゲーム『神々の遺産』で遊んでみよう~


 巷では『神々の遺産』と言うVR技術を駆使したカードゲームが流行っていると聞き、僕もバイトでお金を貯め、『神々の遺産』専用カードリーダーを、ようやく手に入れる事ができた。

 VRプレイヤーそのものは、父親が仕事でたまに使うため、家にあるものを利用すればいいので大変助かった。

 さて、後は満を持して、カードリーダーをVRプレイヤーに接続し遊ぶだけである。

 僕は、腕輪型カードリーダーと、ヘッドセットを装着し、専用チェアに深々と腰掛、楽な体勢を取った。


 ◇


 僕は、『神々の遺産』を手に入れる前に、事前に攻略サイトで遊び方は十二分に研究していた。

 後は、スターターパックでレアカードが出るかどうかだが……期待はしないでおこう。

 『神々の遺産』は、星の数でレアリティが決まっており、一ツ星が最低、八ツ星が最高ランクのカードになる。

 事前の調査では、スターターパックでは、運が良くても最高で三ツ星、後は精々が一~二ツ星しか出ないそうだ。


 ……案の定、僕が買ったカードパックの中の、全五十枚の中に三ツ星以上のカードは無く、二ツ星が十枚程入っているだけだった。

 まあ、こんなものだろう。

 ちなみに、これが内訳である。


●城カード × 1枚

魔物モンスターカード × 8枚

●コストカード × 28枚

●建造物カード × 3枚

魔法マジックカード × 10枚


 『神々の遺産』を遊んだことが無い人達からすれば、何のことかと思うだろう。

 まず、『神々の遺産』の基本的な世界観を話させてもらえれば、神々の遺産は、プレイヤーが召喚士となり、魔物モンスターをフィールドに呼び出し、互いに戦わせるゲームである。

 その戦う理由には、背景(設定)として神と魔王の戦争とか、色々な物語があるが、それは正直ゲームをプレイする上で関係無いので割愛させて頂く。

 ただ、公式戦では「神チーム」、「魔王チーム」で登録し、各軍勢の勢力ポイント等が重要になるらしい。

 ついさっきスターターパックを買ったばかりの僕にはまだまだ縁遠い話だが。

 さて、基本的なルールの一つに『召喚士プレイヤーが一撃でも魔物モンスターから攻撃をくらえば負け』と言うシビアなルールがある。

 これは「モンスターに殴られれば、普通の人間は死ぬでしょ」と言う、ゲームなのに妙に現実味のある設定のせいだ。

 そのため、最初からモンスターカードが手札に来るまでは、何回でもデッキからカードを引き直しても良いというルールがあり、またプレイヤーは、そのモンスターに守られながら「城カード」で建設した「城」の中に引き籠って、仲間モンスターに指示を送り出すのである。


 さてと……では、延々とこんな説明をし続けても、誰も喜ばないだろうし、百聞は一見にしかずである。

 さっそくゲームをやってみよう!

 と言うか、僕がもう我慢できないのだ!


 ◇


 VRシステムが作動し、一瞬眩暈が起きる。

 その後すぐに、僕は部屋全体が無機質なブルーで染まった広い空間の中央に、一人ぽつんと立っていた。

 これは「チュートリアル部屋」だろう。

 本来なら、ここでゲームのルールや説明のガイダンスが流れるらしいが、既に予習済みの僕には不要である。

 さっさとゲームで遊ぶべく、宙に浮いているインターフェースを操作し「デッキ編集」画面を呼び出した。

 僕が買ったスターターパックは「ファイアシリーズ」と言うやつだ。

 ゲームの中には、火、水、土、風、光、闇、祝、病の八属性があり、その内の『火』『水』『土』『風』が基本属性として、誰もが必ず最初に選ぶ属性だ。

 『光』『闇』は特殊属性となっており、市販のカードパックでの取得はできないらしい。ゲームの中である条件を満たせば、取得できるようになるとか。

 あと、『祝』『病』は補助属性と呼ばれており、味方モンスターを強化・回復、敵モンスターを弱体化・状態異常化させるだけの属性だ。

 よって、市販で買うしかないスターターパックは当然『火』『水』『土』『風』の四種類から選ぶしかない。

 その中で、僕は『火』属性を選んだという事だ。

 ……だって、『火』って一番格好いいじゃん?強そうな気がするし。


 上限枚数ちょうどの五十枚しか持っていない、今の段階ではデッキ編集画面でできる作業は、所有カードの確認ぐらいである。

 早々にチェックを終え、デッキ編集画面を終了させた。


 次に、ゲームモードの選択だ。

 ゲームモードは、「トレーニング」「クエスト」「試合」の三種類が基本だ。

 今回はもちろん「トレーニング」で、コンピュータの強さを「最弱」にする。

 戦場(フィールド)を選択して下さい、か。……種類が色々あるなぁ。

 攻略サイトに、基本は「森林フィールド」だって書いてたから、最初は「森林」でいっか。

 ……森林フィールドを選択っと。


 おお……すごいな!

 今までのVRゲームと一線を画すこのクオリティ!

 この森の雰囲気だとか、匂いまで、まるで現実と変わらない(気がする。リアルな森林なんて入ったことないし)!

 《ゲームを開始します。カードをドローして下さい…10…9…8…》

 おっ、感動している場合じゃないか。

 空から降ってくるような感覚で、機械的な声が聞こえてくる。

 僕は、腕輪型のカードホルダーにセットされたデッキから、緊張で少しもたつきながら、七枚のカードを引いた。


 赤芋虫レッドキャタピラ 火属性 ★

 体力 ★

 魔力

 攻撃 ★

 防御 ★★

 素早 

 知性 

 精神 

 特性:蟲

 特技:粘着糸

『いずれ蛹になり、蛹が孵化すれば、世にも美しい火の粉を撒き散らす蝶になる。ただし、弱肉強食の大自然の中で、蝶に至る個体はほとんどいない』


 犬亜人魔法使い(コボルトマジシャン) 火属性 ★★

 体力 ★

 魔力 ★★

 攻撃

 防御 

 素早 

 知性 ★★ 

 精神 ★★

 特性:獣

 特技:火魔法

『集団行動を得意とする、犬亜人コボルトの魔法使い。個体によって得意魔法が違うが、どの個体も異常に打たれ弱いと言う共通点がある。魔法を操る賢さから、犬亜人コボルトの中では一目置かれている』


 デッキの中に、二枚のモンスターカードと、四枚の『火』コストカード、一枚の魔法カードが来た。

 手札の中にモンスターカードが入っているので、ゲームが開始される。


 『神々の遺産』はカードゲームだが、リアルタイム制が導入されており、のんびり考える時間は無い。

 最初一分が与えられ、その間に「城」を設置。

 カードを持っていれば「建築物」カードで建物の構築や、「地形」カードでフィールドをいじる事や、「トラップ」カードで罠を設置したりできる。

 ただし、「城」の建築以外は、全てコストが必要なので、そこはモンスターを召喚するのか、周辺環境を整えるのか。

 プレイヤーの腕と判断力にかかっているのだ。


 ……まあ、スターターパックには、「地形」カードも「トラップ」カードも入っていないんだけどね。


 とうわけで、さっそくこの二体のモンスターを召喚してみたい。

 カードを使用するには、星数に応じたコストを支払う必要がある。

 コストの入手方法は、単純に「コストカード」を使用し1コストを入手するか、特殊な条件を満たす事でコストを増やすか、フィールドでコストを生産するかのいずれかしかない。

 僕は普通に3コストをカードで支払う事で、手札の中のモンスター2体を召喚。

 「城」は可能な限りギリギリ後ろに建てようかな。

 ……リアル過ぎて怖いし。


 まずは、相手の位置を探らければ作戦の立てようもない。

 しかし、お互いに「城」をどこに建てたのかはわからないし、この深い森の中では、どこに敵がいるのかもわからない。

 「城」の中にいる僕の手元には、全体を俯瞰ふかんした正方形の地図マップが表示されているが、自軍のモンスターや、自分で建てた建築物周辺以外は暗くなったままだ。

 僕は防御力の低い『犬亜人魔法使い(コボルトマジシャン)』を城の護衛とし、『赤芋虫レッドキャタピラ』を探索に出すことにした。

 しかし、『赤芋虫レッドキャタピラ』は動きが遅いため、特に敵と接敵する事もなく、時間が経過していく。

 その間に、僕は消費した5枚分のカードをドローし、手札を7枚に戻した。

「よしっ!」

 手元に来たカードは、またコストカードが4枚。

 もう1枚で、狙っていたモンスターカードが出た。


 火蜥蜴(ひとかげ) 火属性 ★★

 体力 ★★

 魔力

 攻撃 ★★

 防御

 素早 ★★ 

 知性 ★

 精神

 特性:爬虫類

 特技:火の息

『伝説の炎の精霊獣サラマンダー……の子孫と言われているかもしれない。火山でよく見る事ができるが、火山が噴火しそうになれば一目散に逃げる様子も見る事ができる』


 説明書きは弱そうだが、僕が持っているカードの中で、『攻撃』が二ツ星になっているカードはこいつだけなのだ。

 しかも、素早さも二ツ星だ。

 ファーストアタッカーとして、とても期待できる。

 『火蜥蜴』は、『赤芋虫レッドキャタピラ』の数倍の速さでフィールドを駆け巡り、ようやく敵モンスターを発見。

 単身で突っ込ませることなく、『火芋虫レッドキャタピラ』と合流させた。

「よーし、まずは初戦闘だ!いけっ!」

 敵は風属性の「グリーンスライム」一体だった。

 一ツ星級のとても弱いモンスターの代表格だ。

 『火』属性は、『風』属性に対して有利な属性だし、こちらは二対一。

 しかも、その内の一帯は二ツ星級の「犬亜人魔法使い(コボルトマジシャン)」がいる。

 負ける理由が無いので、当然のようにあっさりと「グリーンスライム」を撃破した。

「よしっ!」

 VRゲームの醍醐味で、手元のインターフェースだけでなはなく、城の上からも戦闘の様子が見えた。

 とてもゲームとは思えないリアリティのある--いや、生々しいと表現しても良い動きと音を発して、初の戦闘を終えた。

「ふぅ……」

 思わず、息を吐き、気が付けば握りこぶしを作っていた事に気が付いた。

 『神々の遺産』は、一片が約百五十メートルの正方形が縦に9マス、横に9マス並んだフィールドで構成されている。(試合によっては、マスが増えたり減ったりするらしいが)

 つまり、端から端まで二キロメートルもない距離で争うのだ。

 日常生活では決して感じる事のできない、戦闘の雰囲気に呑まれてしまった。


 だからだろう。

 「ソレ」に気が付かなかったのは。


「え!?」

 手元のインターフェースが、警告を示す赤ランプに染まっていた。

『WWWHN!』

 城を守らせていた「犬亜人魔法使い(コボルトマジシャン)」が、断末魔の雄たけびを上げて倒れてしまった。

「えええ!?」

 「犬亜人魔法使い(コボルトマジシャン)」の頭には一本の矢が突き刺さっていた。


『警告。「犬亜人魔法使い(コボルトマジシャン)」にクリティカルヒットが発生し。ライフがゼロになりました。「犬亜人魔法使い(コボルトマジシャン)」はフィールドから墓場にロストされます』


 インターフェースには、そんな無情な文字が淡々と載せられている。

「敵襲!?そ、そんな近付けばマップに表示されるはずじゃ……」

 僕の動揺を他所に、遂には城まで矢が届くようになり、僕の横を矢が通り過ぎてゆく。

「あ、危なっ!って言うか、超怖い!何これ!?本当にゲームなのか、これ!?」

 マップで敵を探るのを諦め、矢が飛び交う中、そうっと城壁から顔を覗かせると、遥か遠くに小さな人影が見えた。

 その影は、サイズは小さな子供ぐらいだが、皮膚が濃いグリーンで顔が醜悪。腰蓑一枚付けただけの、実質裸族と言う存在だ。

「ゴブリンか!」

 スライムに続く超有名モンスターで、その能力は僕の犬亜人コボルトと同様に集団行動が得意な、事と武器・・を扱える事だ。

 推測だが、ゴブリン自体は恐らく二ツ星の「小鬼人弓士ゴブリンアーチャー」だ。

 しかし、「犬亜人魔法使い(コボルトマジシャン)」と同じランクのモンスターが、いくらクリティカルとは言え一撃で倒せるとは思えない。

「つまり……あれは、『装備カード』か!」


「装備カード」とは、呼んで字の如く、コストを支払う事で剣や鎧、そして弓矢のような「装備」を召喚し、自軍のモンスターに装備させる事ができるカードだ。

 モンスターの種族によっては、装備できるものが限定されていたり、そもそも装備そのものが出来ない場合があったりと、かなり使い勝手は悪いが、今回のようにハマれば強力な威力を発揮することができる。

火蜥蜴ひとかげ赤芋虫レッドキャタピラ戻れ!」

 僕は大慌てで、敵陣を探らせていた二体を城に戻そうとしたが……

「あ」

 トスっと軽い音を立て、僕の胸に矢が突き刺さったのが見えた、その次の瞬間、目の前がブラックアウトした。


 ◇


「や、やられた……」

 ゲーム開始前の、無味乾燥とした一面ブルーの部屋に強制的に戻らされた僕は、がっくりと膝をついた。

 まさか、初めてプレイしだったとしても、最弱モードのAI相手に、しかも『火』対『風』と属性でも有利だったのに、ものの十数分程度で負けてしまった。

「どうりで、グリーンスライム一体しかいないから変だと思ったんだよ……」

 恐らく、あのグリーンスライムは囮だったのだろう。

 それに、まんまと食いついた僕は、すっかり初めての戦闘に舞い上がり、弓矢を装備したゴブリンアーチャーが近づいていた事に全く気が付かず、護衛コボルトを完封された。

 そして、他のモンスターをプレイヤーから引き離している間に、僕の事も討ち取ったというわけだ。

 本来なら「トレーニングモード」で勝利すれば、ランダムでカードが一枚もらえるのだ。

 そして、カードを少しづつ増やし、デッキを充実させていくのが定石だが、最弱のAIにさえ勝てず、リアルマネーを投じて強いカードを求める連中も決して少なくないらしい。

 ゲームを始める前の僕なら鼻で笑うような行為だが、あの森林の雰囲気や、戦闘の迫力をVRとは言え肌で感じてしまえば、僕もどうしても勝ちたくなる。

 ゲームに勝利し、もっともっとカードを増やしたくなる。

「こうなったら、僕もバイトの時間を増やして軍資金を……いや、そうすればゲームをやる時間が減ってしまう……むぅ、どうすればいいんだ……」


 こうして『神々の遺産』は、新たな中毒者を増やしていくのだった。


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