二話目「ツッコミ担当大剣豪」
マイネームイズ サカノシタ・ユウト。ユウト・サカノシタ。ユウト。
まあ、呼びたいように呼んでくれ。
俺的にはユウト様が希望です!ユウトちゃまでも可!
ところで、俺はどこにいるでしょうか。
ヒントは・・・・特に思いつかないからヒントなしで考えてっ☆
さて、わかったかな?正解はこっこでーすっ!
「よし、着いたわ」
「ここが師匠の家?」
「そんなわけないでしょ!ここは・・・・・」
師匠の視線の先には大きな洞窟がその不気味な口を大きく開きながら、入ってこようとする者たちを待ち構えている。洞窟の中には黒い霧のようなものが立ちこめ10m先も見えないようだ。
「・・・・・・」
ん?師匠が急に黙ったな。なんだろ。お手洗いか?
「師匠、トイレは近くにないと思いますよ」
「はぁ?べつにトイレに行きたくなんかないわよ」
「じゃあなんでちょっと涙目で震えてるんですか?」
「へっ!? べ、べつに泣いてないしっ!」
そう言いながら師匠は手鏡で確認しているのだが、師匠の少しつりあがった大きな目は明らかに潤んでいる。涙で少し濡れた目でじっとこちらを睨みつけてくる師匠は震えてることも相まって、小動物のようにみえてくる。・・・今すぐ抱きしめたい欲に負けそうです!負けたら師匠の愛剣のさびにされそうだから我慢するけどなっ。
「まぁ、100歩譲って泣いてないことにして」
「なんで100歩譲る必要があるのよ」
「あははは、ここはどこなんです?」
「・・・《邪霊の巣窟》っていう山よ」
「へぇー、《邪霊の巣窟》ですか」
いかにもな名前だよな、《邪霊の巣窟》って。
邪霊かー、女の子の幽霊ならウェルカムですよっ!
・・・あれ?そういえば、何かひっかかるような。何か忘れてるような。
えーっと、うーんと・・・・あぁ!たしか師匠って――
「そういえば、師匠って怖がり――――」
「は、はぁー!?なに言ってんの!?この私に怖いものなんてあるわけないじゃない!」
おっと、ついつい口に出してしまった。怖がりは禁句だったっけか。
この前言ったときには、師匠が意地を張って肝試しをすることになった。ルイ先生と師匠の3人で森を一周して元の場所まで帰ってきたら成功なのだが、師匠は森の中で1人迷子になり、俺が見つけた時には、「ユ、ユウト!?・・うぅぅ、こわがったよぅ・・・」ってな具合いにぼろぼろ泣いて抱きついてきたもんだ。ごちそうさまですありがとうございます。
「なにニヤけてんのよ。言っとくけど、本当に怖いものなんかないから」
「はいはい、わかってますって」
「・・・なによその言い方。なんならまた肝試ししたって良いわよ?」
師匠、そりゃあまた迷子フラグですぜ。可愛い泣き顔がみれるから俺は良いんですがねぇ?ぐっへっへ。
ともあれ、これ以上なにか言っても火に油を注ぐだけだと思い口を閉じた瞬間。
洞窟からこちらに向かって禍々しい魔力を帯びた黒い玉が飛んできた。
ルイ先生との修行のおかけで俺は魔法を敏感に感じ取れるようになったが、師匠はそっちはからっきし無理だ。元来、魔法と種族的にも相性が悪いのかもしれない。
師匠に当たるまで約1秒。師匠が気づく様子はない。
「とうっ!」
ずさー。
間一髪のところで俺が師匠にダイブして黒玉が当たるのは阻止した。さっすが俺!
「師匠、大丈夫で――――」
むにっ。
あら?なにこの感触。やわらかくもあり弾力もありもみごたえ抜群のこの物体・・は・・。
「・・・い、いやぁ!師匠大丈夫でしたか!?ほんと間一髪でしたよねぇ!!もう師匠った・・ら・・」
「・・・・・」
「し、師匠?心なしか師匠のまわりの温度があがってきている気がするんですけど」
「・・・・こ」
「こ?」
「・・殺してやる・・・すぐに楽にしてあげるわ・・!!」
目頭に涙をいっぱいためて顔を憤怒の赤で覆った師匠の背中の剣が共鳴して赤くなっていく。
いやー、これは完全に怒らせたね!
いつ以来だったっけ?こんなに怒らせたのは。
たしかあれは・・・・・・・・おっと、閑話休題。
そんなことよりもおれの命のカウントダウンがもうすぐ0になりそうな件についてだれか意見求む!!
「死ぃねぇぇぇぇぇぇえええ!!!!」
あ、死んだわ。
カキーン!
このままじゃあ成層圏に達するんじゃないかというスピードで上昇している俺の耳に師匠の、あほーだのバカーだのが聞こえてくる。
愛してますよ師匠ー!と返しながら俺が次に考えなけりゃいけないことはどうすればこの高さから落ちて無事に地上に生還できるかだ。ぶっちゃけ、無理ゲーってのはこのことだよね!
今日も世界は平和でした。
あんまり大剣豪が仕事してませんが、これからちゃんと仕事させますんで!