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神奈月短篇集(黄)

太陽戦隊サンライジャー

作者: 神奈月

 イービルナイツ。太陽戦隊サンライジャーと激しい戦いを繰り広げている彼等は、世界背服をもくろむ悪の結社である。今日はその彼等の一日について、密着取材の結果を報告しようと思う。


1、悪の結社の朝早い!


 なぜ悪の結社の朝が早いのか。それはサンレンジャーを打ち破る為の訓練を行っているからなのである。


「よーし、じゃあまずはランニングからだ! 手を抜いたら容赦しないからな! 返事は!」

「イーッ!」

「キーッ!」

「リーッ!」


 独特の返事を返すのは、全身を黒いピチピチタイツに包まれた下っ端戦闘員達だ。またその中でも階級があり、7割はアルバイトで、2割が契約社員、正式な戦闘員は1割とのことらしい。

 契約社員以上は社宅貸与、食事も三食支給され、仕事服(ピチピチ黒タイツ)も支給と、衣食住は完全完備されている。また危険な仕事なので、アルバイトの時給は最低でも1000円から。それでもなかなか人員が集まらず、賃上げも視野に入れて幹部達は組織運営に頭を悩ませているそうだ。

 指示出しをしているのは、サメ怪人のホオジロウ。名前の通りホオジロザメの怪人なのだが、指示出しは海水入りの水槽の中で行っている。では、少し質問をしてみようと思う。


Q1.なぜ水槽に入っているのでしょうか?

A1.自分、足がないので陸上では活動できんのですよ。怪人なので、呼吸はできるんですけど。

Q2.なぜ陸上で活動できないホオジロウさんが、部下の訓練指導をしているのでしょうか?

A2.あぁ、指導監督は幹部が持ち回りでやることになっておりましてな。今週は自分が当番なんです。少しきついですが早朝手当てもつくので、やりがいはあります。


 悪の結社でも早朝手当てはあるようだ。あれ、うちの会社よりクリーンなんじゃ……。


2、食事のバランスには気をつけて!


 早朝の訓練が終われば、朝食の時間だ。結社の総本部の一階には大規模な食堂が設えられており、2~30人ほどなら楽に収容できるほどの広さがある。

 掃除の手入れは行き届いており、床はぴかぴかでホコリ一つなく、テーブルも綺麗にみがかれていて清潔感に溢れている。

 ではさっそく、食事メニューについて拝見させてもらおう。

 ご飯、開きアジの塩焼き、大根おろし、大根の葉のお浸し、味噌汁、納豆、そして温泉卵。とても健康的なメニューだ。こっちは来る途中のコンビニで買ったサンドイッチだってのに。

 ううおっほん。では、食事を作っている厨房へ、突撃取材を行ってみよう。


Q1.とても健康的なメニューのようですが?

A1.ったりめぇだ。だってほら、戦闘中にお腹下したりしたら、それどころじゃねぇだろ? 幹部の方々や戦闘員の中にもけっこう年のいってるのもいるし、生活習慣病にならないよう、きっちりと栄養管理した食事を提供させていただいてやすよ。

Q2.三食ともこの厨房で作っておられるのでしょうか?

A2.ここ以外のどこで作るってんだ。こちとら、イービルナイツの厨房を預かってんだ。人様に任せられるわきゃねぇだろう。こっちだってな、プロなんだからな。

Q3.全員の食事を作っておられるのですか? かなり早起きしなければいけないように思いますが

A3.仕込みは前日の晩にやってまさぁ。それができないもんは戦闘員の連中より早く起きて、作ってんのよ。アレルギー持ちもいるから、そいつのために特別メニューも付くらにゃならん事もあるし、大変なんだぜ? あっちも正義の味方との戦闘で大変だが、厨房も戦場だって事だけは、覚えといてくれや。


 体調管理が大切なのは、悪の結社も一緒のようだ。むしろ、体を酷使する仕事だからこそ、普通の人より気を使わなければならないのかもしれない。

 それにしても、三食ともプロの料理人がきっちり栄養管理して作った食事か。良い生活してんな、悪の結社なのに。


3.職場では笑顔を絶やさずに!


 取材を開始して数時間で気付いたことがある。それは、戦闘員達や幹部達は、常に笑顔だという事だ。もっとこう、殺伐とした雰囲気を想像していただけに、これには少し驚いた。

 むしろ、普通の企業よりも明るいくらいの気がする。さっきまで、『キー』とか『イー』しか言っていなかった下っ端戦闘員達も、普通に話している。掛け声以外の言葉も、しゃべっていいらしい。

 おっと、そろそろ朝礼が始まるらしい。私も並ばなくては。

「では、本日の朝礼を始める。まずは今日の予定から……」

 朝礼の進行は、支部長である邪神(日本出身らしいから、鬼の一種かもしれない)。

「まずは偵察員。サンライジャーの行動を監視、報告は15分おきにな。今日のシフトは何班だったかかな?」

「F班です、支部長」

「うむ、ありがとう。偵察員からの報告を考慮しつつ、強襲班は襲撃のミーティング。強襲作戦は午後からとする。襲撃後は、集まってミーティングと反省会。偵察・襲撃に参加しない幹部と戦闘員達は、訓練と勉強会。質問のある者はいないか?」

「…………………………………………………………」

 質問をする者はなし。下っ端戦闘員の方はマスクまでしているからわからないが、幹部の中には明らかに眠そうな者も混じっている。

 黒くて特徴的な鼻があって、悪魔を思わせるあの羽。恐らく、コウモリ型怪人だろう。

 本物のコウモリと同じで、彼も夜行性なのかもしれない。

「それでは、アルバイトの子達が来たら、今日の予定を説明して、各自の行動に移るように」

 うむ、なんの変哲もない、まるで普通の会社みたいな朝礼だ。ほんと、これで何度目なのだろう。

 でも、思わずにはいられない。ここって、本当に悪の結社なのだろうか。

「それでは、今日の発声練習」

 ん? 発声練習?

「太陽戦隊サンライジャー! 今日こそ貴様らを、冥土送りにしてくれるわ!」

『わーっはっはっはっはっはっはっはーっ!』

「はいっ、もう一回!」

「わーっはっはっはっはっはっはっはーっ!」

「よしっ、じゃあ、今日も妥当サンライジャーを目標に、頑張るぞー!」

『おー!』

 な、なんなのだろうか、今のは。

 今までがあまりに普通過ぎたから、逆に面食らってしまった。

 大笑いをして最後にかけ声をかけた幹部の怪人や全身タイツの下っ端戦闘員達が散っていく。

 よし、支部長の邪神に、突撃インタビューをしてこよう。


Q1.悪の結社なのに笑顔が多い気がするのですが?

A1.そんなの当たり前じゃない。暗い顔してたって、いい事ないでしょ? みんなが気持ちよくお仕事するには、笑顔が一番なの。

Q2.そ、そうなんですね。では、先ほどの発声練習というのは?

A2.だって、あたし達って悪の結社でしょ? 正義の味方と戦う時に、悪の結社っぽい前口上とか高笑いができなかったら、かっこつかないじゃない。

あ、あたし忙しいんで、もう失礼しますね。


 支部長だけあって、邪神さんはご多忙のようだ。

 それから悪の結社のメンバーは慌ただしく、密着取材はかなわなかったので、今回はこの当たりにしておく。


4、反省会!


 そして最後に、太陽戦隊サンライジャーとの戦闘後のミーティング、という名の反省会への潜入結果を記しておく。

「大丈夫ですか、支部長?」

「大丈夫。これくらいなら、いつものことだし。それより、メタルバットくんの方こそ、大丈夫?」

「ボディがあちこち凹まされちゃいましたけど、装甲で済んでよかったです」

 あ、あれは今朝うとうとしてたコウモリ怪人。メタルバットって名前なのか。

「くそ、夜だったらあんなやつらに負けなかったのに……」

 やっぱり夜行性だったのか。コウモリ怪人だけに。

「それになんだよ、正義の味方なのに武器がメリケンサックって」

「そうだよねー。せめて剣とか槍にして欲しいよねー。あれじゃ正義の味方じゃなくて不良だもんねー」

 サンライジャー、どんな戦隊なのか気になってきた。今度はそちらにも密着取材をするのもいいかもしれない。

「よし、じゃあ次は、メリケンサックの届かない、遠距離攻撃のできる怪人で戦おう。メタルバットくん、今日はゆっくり休んでね」

「はい。まあ、労災保険もおりるんで、治療に専念します」

 これにて、密着取材班を終了する。

 今回取材してわかったことを一言でまとめると、悪の結社とは普通の企業よりもホワイトな企業であった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 [一言] 体験入社してみたいですね(笑)
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