願い
隣の長屋の戸の前に立ったおユキ。
早くこの湿布薬を貼らねばとの使命に胸が高鳴る。
(さっき戻ったばかりなのだから、きっと寝ずに起きてるはず)
そう思ったおユキは長屋の中に向けて声をかけた。
「おはようございます!
平吉さん、ごめんください!」
中からは何の返しもない。
まさかとは思ったが、おユキは再び声をかける。
「平吉さん、起きてますか?」
今度も同じだった。
(うそでしょ?もう寝ちゃったの?
いくらなんだって今は朝なんだから)
そう思いながらも昨夜の夜なべの話はおフクから聞いている。
仕方なしに戸の隙間から中を覗いた。
そこには足を投げ出し寝ているのであろう。
座敷のあがり縁に倒れている責平の姿があった。
(あのまま寝込んだら風邪ひいちゃう)
おユキは戸をあける直前に一瞬迷ったが
それと同時にもう戸は開け放たれていた。
「入りますよぉ」
おユキのこの言葉にもピクリともしない責平。
長屋の中に足を踏み入れたおユキはまず、何か掛けるものはないか見渡す。
そこには責平が普段外に出る際に着るであろう半纏が脱ぎ捨てられていた。
(半纏も着ないで雪の様子を見に出てくるなんて、
責平さん、よっぽど気を揉んでいたんだ・・・)
昨夜はきっと足首の痛みもあったのだろう。
今、目の前にいる彼は気持ちよさそうにすやすや眠っていた。
そっと腕を伸ばしその半纏を持ち上げたおユキは、そのままそっと責平へのせる。
大振りな半纏だったがさすがに足まではおおえない。
そのむき出しのあしを見て迷いなくおユキは湿布を貼ることにした。
「これでよしっ」
使命を果たしたおユキは小声で満面の笑顔をつくる。
そして、今にも消え入りそうな囲炉裏の火にも数本の薪をくべ、火を足した。
(店開きの準備が終わったら火の様子を見に来ますから、ゆっくり寝ていてください。
早く良くなりますように・・・)
おユキは幸せそうに眠る責平の横顔に優しい笑顔を向け、心から回復を願う。
そしてその彼の右足首はというと、
こしらえた三枚の自家製湿布薬に完璧におおわれ、手拭いでぐるぐる巻きにされていたのであった。




