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せっぺいさん  作者: こころ
第三章 ~ふたり~
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金づち

「平吉さん、お待たせしましたっ!」


おユキの手には金づちと桶が握られている。

そして首には手拭いが掛けられ、

その彼女の必死な形相と装備を見た責平せっぺいは胡座を解き、

痛めていない左足で尻をズリリと滑らし後退った。


(なんで、金づち?)


「足、出してください」


おユキが肩で息をしながら言い放った言葉が責平の素朴な疑問を瞬時に打ち砕く。

今度は冷静な声で言われたもんだから余計怖い。

責平には桶の意味もわからないが、あの金づちの存在はもっとわからない。

というか、怖い。

内心怯える責平はすっかり言葉を失っていた。


「足...右足首を出して...」


「えっ?!だってその金づ...」


「早くっ!」


ヒィーッ!と悲鳴をあげたい衝動に駆られた責平だったが、

何とかそれをグッと飲み込み、おユキの勢いの前に腹をくくった。

静かに震える右足首を差し出す。

その腫れた箇所を凝視し、コクリと無言でうなづくおユキ。

そしてサッと首に掛けていた手拭いを引いた。

それを広げると、桶の中に出来た分厚い氷を桶ごとひっくり返しその上に置く。

手拭いで丁寧に氷を包み、差し出された無防備な責平の足首の隣にそれを静かに置く。

そして金づちをいきなり振り上げた。


「うわぁぁぁっ!!!」


いつも物静かな責平でもこの時ばかりは悲鳴を上げた。

とっさに足も引っ込めた。

同時にドスッと鈍い音がする。

音がした先にはあの塊。

おユキは氷を砕きたかったのだ。

何度か金づちを振り下ろし終わると、

彼女はその氷を手拭いごと責平の腫れた足首にあてた。

程良く打ち砕かれた塊は氷独特のゴツゴツした感触が消え、

患部全体に行き渡るようにあたった。


「このまま、冷やしていてください。

 あっ、触らないでっ。手の体温で溶けちゃう。

 足首が氷の冷たさで痛くなったら少し外しても良いです。

 でもすぐにまたあててください。

 捻った時は、この作業がとても大切です。早ければ早い程良いですから。

 では、私は奉公に戻りますね」


にっこり笑顔を見せ、そう言い残すとおユキはスタスタと外に出て行ってしまった。

店先の掃き掃除が途中だったのだ。

その原因をつくった当の本人はというと、

店内の座敷の上で腰を抜かしたように捻った足首を投げ出したまま唖然と、

そして大きな安堵と共にフーッと息を吐き、後ろへ大の字に倒れたのだった。

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