心配性
「おフクさん、どこ行ってたんですか?!」
おフクを見かけるや否や、おユキは驚きの声をあげた。
葛もちを食べ終えたおユキと責平。
お互いの新事実を知る良い機会になったふたりは話がひと段落したところで
おユキは奉公に、責平は長屋にそれぞれ戻っていた。
おフクも驚きの声をあげる。
「おや、まぁ、もう終わりかぃ?!」
「何がですか?」
おユキには驚かれることなど何一思い浮かばない。
「え、あぁ、休憩だよ。
葛もち食べながら、こう、いろいろとあるだろう、二人で話すこともさぁ」
(平吉ももっとゆっくりしていけばいいのにさぁ。全く気が利かないねぇ)
おフクは心の中で独り言ちた。
「え、えぇ...まぁ...
でも、普段通りの休憩時間をちゃんといただきましたけど...
あ、それに、せっ...平吉さんとはいろいろお話が出来ました」
おユキは責平の本名のことをおフクも知っているのかわからず
一瞬責平の呼び方を躊躇した。
責平の言った「おユキちゃんには伝えます」の「おユキちゃんには」という部分が
気になったからだ。そして同時に、自分の勘違いで勝手に深く心を痛めていたこと、
責平と話すことで誤解が解けたことも思い出し、恥ずかしくなったおユキは俯いた。
その様子を元気がないと取ったのおフクは心配気に聞く。
「何かあったんかぃ?」
おユキはおフクのその言葉を受け、
さっきまで責平と過ごした時間を更に回想する。
黙りこくるおユキが益々心配になったおフクは堪らず続けた。
「まぁ、あれだよぉ、いろいろと話出来たと言っても、
平吉はいろいろ気が利かないところがあるからねぇ。
どうせ黙りこくって葛もち食べて、そのまま帰ったんだろ?
わたしに気を遣わなくていいんだよぉ。何でも正直に話しなぁ」
全くそんな態度ではなかった責平だったけれど、
自分を心配してくれるおフクの存在の大きさを改めて感じ、
心が温かくなったおユキはおフクに笑顔を向け感謝を込めて言った。
「おフクさん、いつもありがとうございます。
私、江戸に来てずっとおフクさんには感謝しっぱなしです。
さっきの休憩は本当に楽しかった...だから...
またお願いします!」
おユキは言い終わると、勢いよく頭を下げた。
「わ、わかったよぉ、おユキ。
またおサチちゃんとこに遣い頼むからねぇ。
じゃあ...
そろそろ夕刻時へ向けて、仕込み始めようかねぇ」
「はいっ!」
予想外のおユキの言葉に少々驚き小首を傾げそうになったが、
その表情を見て安心したおフクは笑顔でそう返事をし、
おユキの背中を優しく摩りながらふたり肩を並べて奥の台所に消えていったのだった。




