平吉
「...っし。こんなもんかな」
あぐらをかいたままの姿勢で上半身だけ思い切り伸びをした平吉は
そのまま後ろに倒れ、仰向けに寝そべった。
「っかれたぁ~。 ・・・ん?」
やけに近くから、いい香りがする。
平吉はクルリと体勢を変え、その香りの先を追った。
お福やの煮豆と煮付だ。
盆と皿の模様から察しがつく。
そもそも、平吉に差し入れなどする者はおフクくらいだ。
(こりゃ、助かった。
前回食べたのはいつだったかな...めし)
平吉は箸を取りに立ち上がろうとしながらも同時に、面倒くさい衝動にも駆られる。
(もしかして、盆にあったりするのか...)
そこには、皿に隠れる様に控えめに箸が置いてあった。
おユキが気を利かせて用意していたのだ。
「いつも感謝します。
有難くいただきます」
平吉は誰も見ていない空間でも、それらを前に深々と頭をさげ手を合わせた。
「うまい」
それが平吉の腹時計を鳴らした瞬間だった。
傍らのおひつの蓋をあけ、いつのだろうか、
そこに入ったままのご飯の匂いを嗅ぐ。
「いける」
そして、それを抱える形で平吉はあっと言う間に全ての食物を平らげた。
「ごちそうさまでした」
平吉はまた深々とお辞儀をし、手を合わせる。
(おフクさんにお礼を伝えに行こう。
しかし、その前に食後のひと休みを)
そのあぐらの姿勢のまま、後ろにごろんと寝ころんだ平吉は
そのまま翌日まで、ぐっすり眠りについたのだった。