姉妹
(平吉、うまくやれるかねぇ...)
おユキを責平との卓へ送り出したおフクは
店の裏戸からそぉっとお幸やへ向かった。
「おサチちゃん、いるかぃ?」
お幸やの暖簾をくぐるなり、おフクは第一声を上げた。
「あら、おフクちゃん。
さっきはおユキが来たと思ったら、今度はおフクちゃんかぃ?
今日はいろんな人が飛び込んでくるねぇ」
楽しそうにおサチは言う。
「さっきは急がせちゃったかい?
悪かったねぇ。今、その葛もちをふたりで食べてるところだよ」
おフクはおサチにぱちりと片目をつぶってみせた。
「ふたりって...おユキとぉ...?」
ピンと来ないおサチはおフクの言葉を促す。
「平吉さ」
「あぁ〜、あの子かぃ」
おサチはおフクの言葉に納得がいったのか、うんうん頷いた。
「やっとこさぁ、ふたりのこんがらがった糸がほぐれ始めたんだよ」
ほっと安堵した微笑みを浮かべ、
ふたりの顔を思い浮かべるように遠くに目をやるおフク。
何のことやらさっぱりわからないが、
おフクのその顔を見たおサチの顔にも自然と笑みが移る。
そして、嬉しそうに言った。
「そうかぃ、そうかぃ」
その笑顔は何処と無くおフクに似ている。
それもそう。お幸やの「おサチ」とお福やの「おフク」。
双子の姉妹なのだ。
一応、姉が「おサチ」で、妹が「おフク」のようだが
ふたりにとって、それはどっちでも良いことだった。
ただ、二卵性ということで、瓜二つと言う程でも無い外見であった為
その事実を知らない者は姉妹の様に仲の良い他人同士だと思うかもしれない。
しかし、誰が聞いてもふたりの声と口調はとても似ていた。
おフクは続ける。
「そうだ。この前、うちにおハルが遣いに来ただろぅ?
恵比寿神社の祭りの日さ。
あの時、店先からおハルが発した声がさぁ、てっきりおユキのものと思ってさぁ。
奥から顔を出してその娘を見るとおハルだったから、わたしゃ、びっくりしてさぁ」
「うんうん。
確かに、今まで何度かあたしもそれは感じことがあったよぉ。
背格好も似てるし、歳も同じ12、3歳だろ?
姉妹ですって言われたら、みんな納得しちまうだろうよぉ。
ただ、あの二人が揃って歩いていることがないだけでさぁ」
もっともなことをおサチは言った。
「そうだねぇ。今度、くじら屋の旦那と相談してみるかねぇ。
たまにはあの二人の暇を取る日にちを合わせてやりたいねぇってさぁ」
「そうしてあげなよぉ。
あの年頃の娘は、同じ年頃同士、
いろいろとおしゃべりしたいこともあるだろう」
ふっと笑ったおサチは
あの娘たちと同じ年頃に、おフクと過ごした日々を思い出していた。
「おサチちゃん、
そう言や、おハルは京さんとはどうなんだい?」
おフクは心配気な眼差しをおサチに向け聞いた。
「それがさぁ...
仲良くやってるよぉ。
見てるこっちが恥ずかしくなるくらいにさぁ」
おサチは、店であの二人が気持ちをぶつけ合った場面を思い出し、
一瞬の間をあけたが、幸せそうな笑顔を向け言った。
それを見たおフクも、おハルと京之介がうまくいっていることが手に取る様にわかった。
「それは良かったねぇ。
そういう話は、いくつになっても聞くのはいいもんだからねぇ」
そう言いながらおサチとそっくりな笑顔をつくったおフクは同時に
今頃葛もちを頬張っているであろうおユキと責平のふたり顔を
思い起こしていたのだった。




