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せっぺいさん  作者: こころ
第二章 ~葛もち~
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女子(おなご)

「そうか...

 いつも賄い飯を運んでくれるおユキちゃんにお礼したいな...

 しかし、一体何をすればお礼になるのだろう...」


女子おなごの好みなど全く検討も付かない平吉。

眉間にシワを寄せ、腕を組み、天井を見上げた。

見上げたところでしばらく静止していたが、考えが何一つ浮かんでこない。


「うぅ〜〜〜ん」


今度はそのまま目を閉じ唸ってみたが、結果は一緒だった。


(おフクさんに相談してみようかな...)


目を開け、視線を畳に移した平吉は、その一つの考えに辿り着く。

なかなか確実な思いつきだった。


「じゃぁ...この部品が組めたら、お福やへ行くか。

 昼の繁盛時は避けないとだな。おフクさんの機嫌が良い時じゃないと...」


そう独り()ちた平吉は早速、止めていた作業を再開した。

だが、新しくものを造るということはとても難しい。

今やろうとしていることは、その中でも難易度の高い部類の作業で、

昨夜もほとんど進まなかった程だった。


「うぅ〜〜〜ん」


ゴロンと大の字になった平吉は

天井を見つめ唸る。


「とりあえず、取り掛かるかっ」


勢いを付けて起きがる。

気合を入れた平吉の眼つきがガラリと変わった。

この眼光の時の平吉の集中力は神憑り的なものがある。

平吉はそのまま立ち上がると、組み付け作業に静かに入っていった。



平吉が作業に入りしばらく経った頃合い、

お福やでは昼の繁盛時を越え、店内には注文した煮物を待つ客が数人となっていた。


「雅五郎、久しぶりだねぇ」

「雅五郎さん、町内の見廻りいつもお疲れ様です」


町の治安を保つ為、毎日が引っ張りダコの岡っ引きの雅五郎。

久々にお福やに顔を出した。

おフクとおユキが揃って声をかける。

ここでは、束の間の立ち話で激務を忘れ、普通の青年に戻ることが出来るのだ。

歳はまだ20を少し過ぎた辺りだと言うのに、清潭な顔立ちのせいだろう、

なんとも落ち着いた雰囲気があり、頼り甲斐のあるおとこだった。

そんな雅五郎ではあるが、不思議と女の話は噂でも耳にしたことがない。

それが何とも気になるおフクは、久々に元気そうな雅五郎の色艶の良い顔を見、

その話題に触れてみることにした。


「なんだい、最近ちっとも顔見せないでっ。

 女でも出来たのかい?」


「お、おフクさんっ、なんですか、いきなりっ...」


絶句する雅五郎の顔は見る見る真っ赤になる。


「おまえさんもいい歳をとっくに過ぎてるじゃないか。

 女の一人や二人、いたっておかしくないよぉ。

 ねぇ、おユキ?」


二人のやり取りをニコニコと聞いていたおユキにまで話を振るおフク。


「えぇ、雅五郎さんは男前ですし、お優しいですから」


おユキはニッコリと邪気のない笑顔を雅五郎に向け、素直に言う。


「い、いやぁ、そんなことないですからっ。勘弁してくださいっ。

 今日は一体どうしたんですか?二人してっ。

 参ったなぁ...」


更に顔を赤くした雅五郎は、

右手で頭を掻くばかりで視線を上げることが出来ないまま俯き嘆く。


「雅五郎さん、ホントのことですから」


おユキは笑顔ではあるが、真剣な眼差しで告げた。


「あ、ありがとうございます。

 では、私はこれで失礼っ」


これまた笑顔のおフクから煮物を受け取ると、

店内最後になった雅五郎は、逃げるように店から出て行った。

店の暖簾をくぐり抜ける際に誰かとぶつかりそうになった様で、

その相手に謝罪の言葉を残し慌てて走り去った。


それを店内から見ていたおフクとおユキはお互いの顔を見つめ、くすりと笑い合う。

そんな刹那だった。


「...こんにちは」


ゆっくりとお福やの暖簾をくぐり入って来たのは、隣の長屋に住む平吉だったのだ。

今さっきまで笑い合っていたのとは一転し、驚きの顏で見つめ合う女子(おなご)ふたり。


「平吉、こんな時間にどうしたんだい?」


普通の生活では不思議ではない時間帯ではあるが、

昼夜問わず生活する平吉には珍しい出現なのである。


「えぇ...」


店内に足を運んだ平吉の顔にも若干の動揺がある。

後ろをちらりと見てから、何かあったのですか?と言う目で二人を見てくる。

あっ、とおフクとおユキも目を合わせた。


「もしかして、雅五郎のこと...かい?」


頷く平吉。


「あぁ、あれはなんでもないよぉ。

 あっはっはぁ」


優しい笑顔で笑い飛ばすおフク。


「そうなんですか...?」


そう言いながら、

おフクのいつもの笑顔に安心したのか、平吉の顏からは不安は消えていた。


「あぁ、勤めに戻っただけさぁ」


「それなら...じゃ...

 あの、ちょっとおフクさんに聞きたいことが...」


ちらりとおユキに視線を泳がせたことは隠しようがない。


(この町の男たちはわかりやすいねぇ)


おユキのことで何か相談があると察したおフクは

咄嗟にきょとんと佇んでいるおユキに遣いを頼んだ。


「おユキ、悪いねぇ。

 おサチちゃんのこと、今から行って来てくれるかい?」


「は、はぃ、もちろんです。

 葛もち...ですか...?」


「あぁ、そうだよぉ。よくわかったねぇ。

 賄い前で悪いがお願いねぇ」


そう頼むおフクは、おユキに指を3本立てた。


「わかりました。すぐ行ってきます」


一瞬、平吉に視線を向けたおユキは慌てて前掛けを外し、奥に銭を取りに行く。

そんな女子(おなご)ふたりのやり取りには興味がないのか、

平吉は俯いたまま、これから話す相談事を頭でおさらいしている様子だった。


「では、おフクさん、行って参ります!」


すぐに奥から戻って来たおユキはおフクに声をかけ、

平吉には会釈をし、店から出て行った。

おフクは静かに深呼吸をすると、

未だ俯き加減の平吉に優しい眼差しを向け声をかけた。


「さぁて、話を聞こうかねぇ、平吉」


その声を聞いた平吉は、

はっと顔を上げ、おフクに真っ直ぐな目を向け話始めたのだった。



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