時間差
昼の繁盛時過ぎのお福や。
おフクはお客がはけたのを見計らい、奥から店先にいるおユキに声をかけた。
「おユキ、そろそろ賄いにしようかね」
「はいっ、おフクさんっ」
おユキは待ってましたとばかりに返事をする。
「私、卓の準備をしますっ」
「あぁ、そうしておくれぇ。
それが終わったら、こっちの皿を運んでなぁ」
「はぁ~ぃ
・・・?!」
おユキが上機嫌に返事をした刹那、
開けっぱなしにしていた店の入り口に佇む人の気配に気付く。
「平吉さん・・・」
「こんにちは」
はにかみながら挨拶をするいつも通りの平吉。
そして、いつも通り挨拶を返すおユキ。
「こんにちは...」
「おユキちゃん、今、ちょっといいですか?」
「はぃ...」
何がこれから起こるのかさっぱりわからないおユキは曖昧に返事をする。
そんなことを知ってか知らずか、いや、知らないだろう。
平吉は少しだけ微笑み続ける。
「良かった...
今朝、おユキちゃん、変な人に話しかけられてましたよね?
変なこと、言われませんでしたか?」
その時から見られていたのか?という恥ずかしさが込み上げてきたが
平吉の眉間にシワを寄せた神妙な顔を見たおユキは
自然と同じような顔になり答える。
「変な人、というのは...
あっ、頭から被りものをしてた...あの痩せた人のことですか?」
「イエス」
(・・・いえす? って?
平吉さん、頷いてるし、この話の流れからだと「そう」ってことかしら...)
「あの人、
最近ここら辺で爆発騒ぎがあったかどうか知りたかったみたいです。
それを聞かれましたから...」
「そうすか...なるほど
確かにそうすね...」
平吉は自分に言い聞かせるように、うんうん頷いている。
「それが何か...?」
訳のわからないおユキは、恐る恐る聞く。
「あぁ~~~
何でもないっす」
(なんでやねんっ)
上方育ちのおユキは大きくコケそうになる。
しかし、ここは江戸だ。
そんなことをしたら、平吉が驚きまた面倒になる。
いや、平吉は薩摩育ち?西方面だからわかるかも?
そんなどうでも良い考えが一瞬おユキの頭を横切ったが、
結局コケそうな心持ちをぐっと抑え、神妙に返事をすることにした。
「そうですか...
それなら、良かった」
「じゃ...また来ます。お邪魔しました。
あっ、そうだった・・・
葛もち、ご馳走さまでした。
あの日に全部いただきました。とても美味しかったです。
それでは失礼します」
また来ると深々と頭を下げ、
思い出したことを告げ、また深々と頭を下げ去っていく平吉。
(その話、今頃?!
うち、もう忘れてたやんっ)
おユキが一番触れて欲しくなかった話に
何とも言えぬ時間差で触れた平吉に再びコケそうになったおユキ。
しかし、この二回目であの時のおユキの心は完全に吹っ切れることになり
何とも温かな心持ちになった。
「もっ」
おユキはそう呟き頬を膨らませたが、
長屋に戻る平吉の背に注ぐ眼差しは優しくやわらかなものだった。




