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せっぺいさん  作者: こころ
第二章 ~葛もち~
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エレキテル

「うおぉぉぉーーーーーーっ!!!  


       ・・・直ったぁ」



「マジすか...」

「すごいよ、源ちゃん...」



平吉の住む長屋の戸に耳を付け、まさに盗み聞きをしようとしていたおユキは

中からの突然の叫び声に心臓が口から飛び出そうな衝撃を受けた。

その叫びの後にあった他の二人の声は、おユキにはこの時、聞こえるはずもない。


( ?! ・・・ 何が起きたん?!

 誰か来てる?平吉さんの声じゃなかったような...)


衝撃を受けた心臓の鼓動が収まらないまま、

おユキは平吉の身に何か起きたのではないか?という心配と

長屋内からの叫びの原因は一体何なのか?という恐怖心と好奇心に駆られていた。

そんな想いから、建てつけの悪い戸の隙間から中を覗く行動に出たおユキ。

そこで見たものとは...

半円に肩を並べて座る三人の男の背中だった。

左から、平吉、ガタイの良い男、細身の禿頭(はげあたま)だ。

それらからは叫び声の主は全く分からない。

おユキはこの三人の会話をしっかり聞き取ろうと、

完全に体を長屋の戸に預け、片目と片耳を交互にべったりと戸に貼り付ける。

すると、先程までより中の会話が聞こえ始めたのだった。




「直ったみたい...よくわかってないのだけど...」


真ん中のガッチリ(おとこ)だ。


「源ちゃん、すごいわよぉ」


一番右の禿頭。

何故かお(ねぇ)言葉だ。

だけど、声は明らかにおっさんだった。


「マジすか...」


一番左の平吉は、いつも通りの静かな声でいつも通りの台詞を繰り返している。


(ってことは...

 平吉さんと源ちゃん、あと名前の分からない禿頭が何かを直した?...

 また、からくりかしら... ん〜~~)


おユキは状況を少し掴み、腕組みをして唸った。

すると、禿頭がお姉口調で続ける。


「だけど源ちゃん、これ、長崎の古道具屋でやっと見つけたものなんでしょ?

 相当、値も張ったって言うし。こんなハイカラなもの、

 良くわからないまま直しちゃうなんて、ホントすごいわよぉ」


「そぅすね...」


平吉が相変わらず静かな声で相づちを打ち、うんうん頷いている。


「ざっくり言うと、これは静電気の発生装置です。

 だから、内部のガラスの摩擦機構を復元出来きさえすれば...と思って。

 そしたら発生した電気は銅線へ伝わって勝手に放電しますし」


「そぅすね...」


「はぁ...

 あたしには全っ然、わからないわよぉ」


平吉の次にお姉禿頭が答えた。

続いて平吉に戻る。


「じゃ...ひとまず休憩しますか。

 腹、減りません?俺ら朝から何も食ってませんよね。

 源内さん、杉田さん、食べられないものありますか?」


「あらぁ、手料理でもしてくれるの?平ちゃん」


「私は何でも頂くよ」


冗談なのか本気なのか全く分からない調子で杉田は返し、源内は真面目に答えた。


「わかりました。

 いや、俺は飯、作れないす」


平吉の後にまた杉田がちゃちゃを入れる。


「平ちゃん、ごはん作ってくれる彼女いないの?」


戸に張り付き、三人のやり取りに耳の全神経を傾けていたおユキが

杉田と言う禿頭の質問にドキリとする。


「杉ちゃんっ」


杉田の質問攻めのしつこさを知る源内が、杉田に一呼吸を入れる。



( ・・・・・・ )


先程まで間髪入れずに続いていたやり取りが、突然ぷつりと途切れる。

そして誰の声も聞こえなくなった沈黙後、平吉が口を開いた。


「  ・・・いますよ...」


その直後、戸の外で何が落ちる音がした。

中の三人には聞こえない程の小さな音。

それは、おユキが落とした三人分の葛もちが入った袋だった。

しかし、そこにはもうおユキの姿は無かった。


「  ・・・賄い飯を持って来てくれる人は。

 俺、今からそこの店の煮物を頂いてこようかと思って」


ゆっくりと考慮しながら平吉が答えた。


「遅っ。

 もっとちゃっちゃっと答えなさいよ、江戸っ子らしくぅ」


「俺、江戸っ子じゃないすから...」


「屁理屈言わないのぉ。

 そんなこと言ってると女の子に誤解されちゃうわよぉ。

 会話にはリズムが肝心よ、リ・ズ・ムっ」


その方がよっぽど屁理屈だと言いたくなるようなことを杉田は平気で言い放つ。

なんとか食い下がっていた平吉だったが、今はもう観念し苦笑いを浮かべたまま、

杉田にぺこりぺこりと頭を何度も下げた。

それを見た杉田も納得したのか、静かになった。


「じゃ、なんか詰めて貰ってきます。

 飯はそこのおひつに入ってますから」


二人にそう声を掛けつつ

草履に足を突っ込みながら歩を進めた平吉は

、隣のお福やへ向かおうと勢いよく戸を開けたのだった。

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