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宝と罠と労働者1

 ディケンスナイクとかいう名前の薄気味悪いノッポのジジイが、指し示した三つの道。

 その道のうち二つを経験した俺は、あのジジイどもと出会ったこの場所に、ふたたび引き返すハメになっている。

 ガゴンゴルと名乗ったドワーフが、発破した跡が残っている。放り込まれた時の穴は岩や木々でフタをされたようにふさがっているし、壁を登ろうにも瓦礫だらけで、足を踏み入れれば今にも崩れかねない。

 ジジイたちは相変わらずどこにもいない。会いたくもないけれど、俺には他に頼れそうなあてもなかった。

 そして残された道は、ひとつしかない。あのジジイどもが棲み家としていると言っていた場所に通じる、舗装された道。

 嫌々ながら俺は、石造りのこの道を進んだ。


 するとすぐにわかった。ジジイが言っていた、『効果的な冒険者対策』という言葉の意味が。

 足元に気をつけないと、そこかしこには落とし穴がある。

 足元に意識を割きすぎると、横穴から弓矢が飛んでくる。

 かといって慎重に進みすぎると、いつの間にか背後から巨大な石が転がってくる。

 この通路、トラップだらけじゃねーか!

 つまりアレか、この通路が舗装されているのは、トラップを仕掛けるための下準備みたいなものなのか?

 俺は体力も精神力も削られてへとへとになりながら、どうにかこうにか、罠だらけの道を歩いていた。

 あ、なんか宝箱を開けて罠にかかった形跡のある、盗賊らしき者の動かぬ姿が道端に。

 これはボム系のトラップだな、体が黒こげだ。あのドワーフが仕掛けた爆弾なんだろうか。

 これも何かの縁だ、軽く祈りを捧げておこう。

 いずれ俺もこうなるのかなあ……。


「死んでないぞー!」

「うわあ! ビックリしたあ!」


 ぶっ倒れて宝箱を掴んだまま、その盗賊らしき人間の死体が叫んだので、俺は驚いて声を上げてしまった。

 いや、死体じゃなくて生きてたのか。真っ黒こげなのに。


「この宝はボクのだぞー! シャー!」

「噛み付くな! 噛み付くなっての! 何だお前!」

「この痺れ毒が抜けたら、この宝はボクが持って帰るんだ、だからこうして死守してるんだ、ウフフ、ウフフフフ……」

「あ、あのー。あんた、大丈夫? 体とか頭とか、色々と」

「ほっとけ! 無視しろ無視!」

「はいはい、わかりましたよ……」


 ようやくはじめてこのダンジョンで冒険者仲間に会えて、情報交換が出来るかと思ったが、相手はボロボロの守銭奴だった。

 ヤツは麻痺毒にやられてそのまま意識を失って倒れるが、両腕は宝箱をしっかり握って、放す様子はない。

 毒と爆破のダブルパンチにやられてるみたいだけど、いいのかなこの人。

 黒こげで何者なのか良くわからないけど。

 まあいいや、放って置こう。また噛み付かれたら怖いし。


 その後も俺は、タールトラップやら滑る床やら、一本道にしては妙に巧妙に仕組まれた罠の数々に出くわした。

 しかしそれらをどうにかこうにか抜けて、ようやくこの道の最終地点にまでたどり着くと……。


「ようこそおいでくださいました……ご主人様」


 そこには立派な彫刻が施された扉と、扉の傍らに立つメイドがいた。

 え? メイドが? いた??

 いや、いるな、確かに。あれ、ここダンジョンだったよな。


「わたくしご主人様にお仕えさせていただきます、エ・メスと申します……。よろしくお願いいたします」

「よ、よろしくお願いいたします。……???」


 とりあえず挨拶を返したものの、なんだろう、このメイドは。

 丸みのある顔の輪郭や、下がり気味の眉には愛嬌があるものの、力のない声には無機質な感じが漂う。

 エンジ色のメイド服に、薄紫のおさげ髪。右目には眼帯をつけている。

 妙に浮世離れをした、不可思議なムードが漂っていた。

 何故、トラップの先にメイドがいて、俺をご主人様とか言って出迎えてるんだ……?

 いや、今までもドレスの女の子や、メガネの獣人がいたりしたんだから、それほど不思議じゃないか。

 このダンジョンでは何が当たり前で、何がおかしなことなのか、だんだんわからなくなってきたぞ。


「それでは……ご主人様をお屋敷にご案内いたしましょう」


 そう言いながら、エ・メスと名乗るメイドが扉を開けると、天井から大量の石つぶてが降り注いだ。

 その石つぶては扉に手をかけた者、つまりエ・メスのみに一気に降り注がれ、瞬く間にそこには瓦礫の山が詰みあがった。


「……うええええ!??? ちょっとおい、大丈夫か、アンタ……!」


 こんな岩石の山にうずもれてしまって、大丈夫なわけがない。

 しかし動転した俺は、とっさにそう声をかけることしか出来なかった。


「はい、大丈夫でございます……」


 エ・メスは瓦礫の中からこともなげに這い出してきた。


「大丈夫なのかー!???」

「はい、大丈夫です」

「えええ、だって女の子だよ? なんで普通に這い出してきてるの?」

「女性は強いものなのでございます」

「だってだって、石つぶての直撃だよ? この石一個だって、頭に直撃したら普通死ぬよ?」

「わたくしご主人様に仕える身ですので……この程度で死んではいられません」

「そういう問題じゃなくてさ、その……」

「うっかりドジを踏んでしまって、申し訳ありませんでした……」

「いやそこ謝るところじゃないから」

「瓦礫が邪魔で中に入れませんね。少々お待ちくださいませ……」


 エ・メスは今度は、瓦礫のひとつひとつを手に取って、ぱくぱくと食べ始めた。


「ちょっと、なにそれ? おなか壊すよ!? いやそういう問題じゃないけど!?」

「おなかの心配なら、大丈夫です……わたくしおなかの辺りはトロールなので、石ぐらい食べても平気なのです」

「おなかの辺りがトロールって……どうなってるの君の体……?」

「大体片付きましたので、お屋敷の中へどうぞ。お話の続きはそこで……」


 妙に頑丈で健啖にもほどがあるメイドに促され、特に行くあてもない俺は、屋敷の中に足を踏み入れた。

 まあ、敵意はないみたいだし、いいのか……?

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