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俺&モンスターVS転生チート&聖女2

 神官聖女の儀式に割り込み、小悪魔のように笑う、盗賊・ピット。

 そんなピットの笑みに呼応するようにして、笑いながら俺に話しかけてきたのは、敵対しているチート騎士のフィルメクスだった。


「……今、お互い休憩して英気を養う感じじゃなかったの? この戦いはターン制かと思ってたよ、僕」

「それを言うなら、俺らのトラブルの隙を縫って儀式を始めてたのは、そっちのルール違反なんじゃないのか?」

 戦いにターン制なんてあるわけがないし、弁当を食べて昼寝をしていたのはこちらの落ち度だ。その隙に儀式を始めようが、何もおかしいことなんてない。

 だけど俺は、このチート野郎にせめて口だけでも負けたくないと思って、そう言い返してやったのだった。

「あー、言われてみるとそれもそうかな? でも僕、みんなにチートって言われててさ。ズルはお手のものなんだよね。邪魔な事するその腕、得意のズルパワーで使い物にならなくしちゃおうかなー」

 笑顔の矛先をピットに変える、フィルメクス。ビビった盗賊は「わわわ! ご、ごめん! もうしない!」と、慌てて俺の背後に逃げ込んだ。


 次の瞬間、騎士の持つ銀の大剣が、大上段から叩きつけられていた。

 対象は予告通り、逃げるピットの右腕だった。

 斬り合いや乱戦にはならない程度に、十分な距離を取って話をしていたつもりだったのに。

 昨日、一瞬で間合いに踏み込まれた、あの時と同じ驚きが、ひ弱な盗賊を襲ったのだ。

 しかしその斬撃は、すんでのところで食い止められた。

 食い止めたのは、俺だ。


 激しく武器を打合せたことによる金属音が、洞窟内に響き渡る。受け止めた剛の力が、全身にのしかかった。

 お、お、重い! 一撃の重みが、尋常じゃない! 前にもらった時と変わらない強烈さだ……! 足が床に埋まっちまったみたいな重圧感!


 だけど、今度は、不意打ちだったのに、受け止めた!

 「剣を構えてそこに立ってろ」と言われたから受け止められたんじゃない。魔法の剣のカウンター属性のおかげと、昨日一度切りつけられたことによる心の準備のおかげで、何とか俺にも動きが見えたんだ!


「やるじゃんか、へっぽこそうな駆け出しっぽい冒険者見習い風の個性薄味男!」

「嫌味が多いんだよアンタは……。引っ込んでな、ズル野郎!」

 甲高い音と共に、リフレクトショートソード+2は二度閃いた。

 反発の力が剣から放たれ、いけすかない転生チートの剣を、バシンと跳ね除ける。

 すると奴は、驚いた風で俺に言った。


「おやおや、へー? 君が見た目よりすごいのかと思ったけど、もしかすると実は、武器が強いだけ? レベルに見合わないレア武器をどっかで偶然拾ったとかの、ビギナーズラックなのかな?」

「武器が強いだけってのは認めてやるよ。でもそれだけじゃない、俺はあんたのことは、“予習”してるんだ」

「予習? ……ん? 僕って君に前に会ったことあるっけ。君ってモブ戦士っぽいから忘れちゃったかなあ」

「あんたの知らない、“昨日”と“明日”の話さ!」


 威勢よく啖呵を切ったものの、話しながら剣を交えていられたのは、所詮そこまでだ。

 奴が次々に打ち付けてくる大剣を目で追い、それを受け止めることで、俺は必死だった。

 フィルメクスの方は何か話しかけてきているが、こっちにはそれに相槌を打つ余裕なんてない。

 こちとらまだまだ駆け出しで大変なんだから黙っていろよこのズル、と言った感じだ。

 向こうの武器のほうが重いしデカイし、こっちは全身全霊の全力なのに、あっちは片手しか使っておらず鼻歌交じりで、適当極まりない。なのに剣のスピードはチート騎士の方が圧倒的に早い。

「君、ふざけるなって思ってるんじゃない?」

 思ってるけどお前みたいに雑談してる余裕は無いんだよ、ふざけるな!


 奴の雑談が途切れたのは、その数秒後だった。

 駆動音を立てつつ別方向から切りかかってきた、丸ノコをかわすため、フィルメクスが飛び退いたからだ。

 巨大な丸ノコを振り回して参戦したのは、もちろんエ・メスだ。屋内ドームで大木を切り倒した時の、あのノコギリが、彼女の片手で旋回している。

 いや、大振りな一撃が外れたおかげで、壁に丸ノコが食い込んでしまったので、今はノコギリは回ってないけど。


「ご主人様……。アタッチメントを付け替えまして、加勢に……参りました」

「あ、ありがとう。ぶっちゃけ俺じゃこんな奴の相手は無理だから、頼むよエ・メス」

「はい……只今このノコギリを、壁から抜きますので……。ふんっ……えいっ……」

 加勢とともに繰り出されたドジで、壁と格闘する羽目になっているエ・メス。

 その隙を逃さずに、「まずはこっちからかな」と、フィルメクスはメイドの背中に襲いかかる。彼女のメイド服は背中が丸見えなので、文字通りがら空きの状態だ。

 そんな無防備なエ・メスを守ろうと俺が慌てて駆け寄ると、転生チートは瞬時にこちらに向き直り、銀の大剣を浴びせかけてきた。

「と見せかけて、本命は君だったりしてね」

「うぐおっ……!?」

 しまった、フェイントか! そしてさっきよりも、早い……!


 なんとかその一撃は受け止めはしたものの、不意を付かれたせいもあって、俺は虎の子の魔法の剣を取り落としてしまった。

 落ちたリフレクトショートソード+2を、即座に蹴り飛ばすフィルメクス。武器を失って万事休すの俺。

 そこに、壁から丸ノコを抜くことに成功したメイドが駆けつけ、騎士へと再度襲い掛かる。

 銀の大剣で丸ノコは受け止められ、チートとゴーレムのつばぜり合いが始まった。

「ご主人様……今のうち……です」

「あ、ありがとう!」


 二人の力比べが続いているうちに、取り落とした剣を拾おうと、俺は走った。

 嫌な予感がしつつ戦局をちらりと見渡すと、やはりあちらの陣営の聖女は、またもや祈りを捧げている。

 さっきのフィルメクスの、目にも止まらぬフェイントは、加速ヘイストの祈りのせいか? あれに対抗できるのはレパルドぐらいだけれど、彼女はまだその辺で眠っている。

 しかも神官聖女は、今はまた別の奇跡を祈っているようだ。あの押しこむような動作からすると、加圧プレスか何かの奇跡かもしれない。

 そうしたサポートのおかげか、エ・メスは今にもチートに押し負けそうになっている。重圧で、足がミシミシと床に埋まっているのがわかった。

 魔法の剣を拾い上げて俺も急いで斬りかかるが、フィルメクスは剣に手を添え角度を変えて、その攻撃すら同一の剣で受け止める。


 俺のマジックソードとエ・メスの丸ノコアタッチメントと、一本の剣でまとめてつばぜり合いを行うだなんて。

 パワーもスピードもテクニックも、一級品だ。こんなやつを実力で追い返すどころか、戦って一撃だって与えられるもんなのか?


 その絶望的な疑問は、即座に消え去った。

 何故なら、俺とエ・メスの背後から飛び出した一本の手刀が、つばぜり合いで両手がふさがった転生チートの顔面めがけ、殺意を持って突き刺さったからだ。


「これならかわせまい。“寝首に”かかれたな」

 爪の一撃を刺し込んだ、Dr.レパルドが言い放つ。

「解毒のポーションのお金、後で請求するからなー!」

 物陰に隠れた、ピットの声も聞こえた。

 どうやら、いつの間にかピットが、解毒薬でレパルドを起こしていたようだ。

 そしておそらくこの獣人は、寝たふりをして戦いの隙を伺っていたんだろう。

 その甲斐あって、ついにこの一撃が突き刺さるに至ったわけだ。

 レパルドの一撃は、見事に――。

 エ・メスの丸ノコを貫いていた。


 俺の絶望的な疑問に、答えが出た。

 この転生チートに一撃を与えるのは、無理だ。

 フィルメクスと切り結んでいたはずのエ・メスの、丸ノコが微妙に位置をずらし、奴の顔面の目前で……レパルドの爪を受け止めている。


「何故わたしの攻撃を邪魔した、ゴーレム!」

 苛立ちと疑念の入り混じった声を上げるレパルド。エ・メスは答えた。

「わたくし……オートガードモードに設定されておりまして……」

「あ」


 それを聞いて俺は、そのことをすっかり忘れていたのを思い出した。

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