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▲再合流ポイント▲

「おや君たち、何者かな? この僕の活躍を聞いて早速駆けつけたギャラリーとかかな? まあそれも仕方ないかもしれないよね。何せ僕は強くて、割とかっこいいから。僕の名はフィルメク――」

 アンデッドの群れに囲まれながらも、余裕綽々でそんな講釈を垂れている、王宮騎士団の騎士。

 さすがは神の子、さすがは転生チートと言った、自信満々ぶりだ。名前はあれだ、フィルメクなんとかさんだ。

 だがその自己紹介を、ろくに聞いているものはその場にいなかった。

 既に一度聞いた話だからって言う訳でもない。それよりもずっと気になるものが、そこにはあったから。

 戦いの輪の中にある、その気になるものに向かって、ゴシカは早速飛び込んでいった。


「エ・メスだー! わー! 元気そうだー!!」

 包丁とフライパンを持ったメイドゴーレムの手を握り、上下に振るゴシカ。エ・メスは困惑している。

「あのね、あたしたちね、えっと。“明日”から、助けに来たから! 安心して!」

「姫……様……?」

「明日から十万日前を経由しているので、九万九千九百九十九日前から来たとも言えるがな」

「お医者……様……」

「……とにかく。まだ無事で、良かったな。エ・メス」

「?? ……ご主人……様……?」

 ゴシカに続いて、俺やレパルドもエ・メスの下に歩み寄る。

 エ・メスは俺たちの言うことが理解できず、首を傾げているけれど。

 当然だ、『明日から助けに来た』とか『九千九百九十九日前から来た』とか、わかるはずがない。

 説明は……しなくてもいいか。話してもややこしいし、多分エ・メスには理解できないだろうし。

 そもそも俺たちは、目的を遂げればいいんだから。エ・メスを助けられれば、それでいいんだ。


「ねえ、ちょっと。僕の自己紹介の途中に割って入らないでくれないかな、キャラが立ったギャラリーの人たち。そこのパッとしない感じの男以外は、ネームドっぽいけどさ」

 チート騎士のフィルメクスは、銀の大剣を肩に載せつつ、こちらはこちらでよくわからないことを言っていた。

 そして、奴の長身から視線を斜め下に動かすと、小柄な女性が一心不乱に祈りを捧げている。

 この子は確か、王宮騎士団の聖女、ボウとかいう――。


「……やばい、ゴシカ! あれはターンアンデッドの祈りじゃないのか? 早くこいつらを逃さないと!」

 目の前で行われているのが以前見た祈りだと気付き、この後の展開に思い至った俺は、慌ててゴシカにそう告げた。

 アンデッド共は、不死の女王を見つけた途端に集まり、既に死人だかりを作り上げそうになっている。こいつらを早々に何とかしないといけない。

 そうしないと、祈りを受けたアンデッドが暴走を始め、結局屋内ドームでの衝突は起きてしまう。昨日と同じことが繰り返されるだけだ。


「と、とりあえずあたし、逃がす!」

「そ、そうだな。ゴシカはその役目をやったほうがいいと思う。任せるよ」

「うん! どうせ本気で戦えないんだし、あたしはやれることをやるよ!」

 結局詳しい理由は聞けなかったが、ゴシカはあの騎士団の連中に、“自分がノーライフ・クイーンだ”とはバレたくないと言っていた。

 それならここで転生チートと戦うのも難しい。アンデッドを落ち着かせ、導く役目を請け負ったほうが、いいような気はする。


「みんなー! これからあたしの握手会開催するから、こっちに来てー!」

「なんでずっでー!! こ、この日を夢見で、握手拳は大事に持っでまずよー!」

 腐った肉や骨の裏側から、次々にしなびた手首を取り出すアンデッド共。歓喜の声が魔窟を支配した。

 握手会って……いや、握手拳って何だ。なんだあの、しなびた手首。

 まあいいか。なんだかよく知らないけど、そういうイベントが彼らにはあるんだろう。


「お、おれ、握手拳300人分持ってるんだぜ!」

「やっぱり魔界のセンターは姫様だよなー」

「みんな、応援ありがとー。こっちこっちー」

 ゴシカに率いられて、一斉にアンデッドは去っていく。

 途中で黒山羊頭の悪魔に出くわし、「姫様あぁ? あれぇ、先ほど何処か遠くへ行けと言われてここまで来たのですがぁ」「ちょうどいいとこに来た! この子たち逃がすの手伝って! はい血判!」「は、はぁ? まぁ、ご契約とあらばぁ」と即時契約し、引率仲間として連れて行くなどもした。

 去り際に悪魔は、「むうぅ? 花婿様とDr.レパルドもここにいるのかぁあ? ついさっき会ったのにぃ! どこかにドームへの近道があるのかぁあ!?」と、疑問の声を轟かせていた。

 あの悪魔、俺たちの時間移動で一番振り回されてるよな……。角がクエスチョンマークの形に曲がってたぞ。


 アンデッドたちが去りゆく姿をぼんやり見送った後、自分のミスに気づいて後悔していたのは、ピットだ。

「あ……やっちゃった! ボクは戦う気ないんだから、あっちに混ぜてもらえばよかった。アンデッドの先導なんてしたくないけど、バカ強い冒険者連中とやりあうより、全然マシだもんね……」

 たしかに戦力にならない奴は、この場にいてもあまり役に立たない。下手に戦いのとばっちりを食うよりは、死体運びでもしていたほうが楽だろう。

 それを言うなら、俺もそうなんだけど。転生チートの相手は、レパルドとエ・メスに任せてしまったほうがいいはずだ、本当は。

 だとしても……あの聖女の相手ぐらいなら、俺にも出来るよな。そう信じたい。

 くだんの聖女に視線を移すと、アンデッドが去ったのを確認して、彼女は退魔の祈りをキャンセルしたようだ。

 祈りで俯いていた顔を今度は上に向けて、長身の騎士と相談をしている。


「先程の娘……アンデッドたちに『姫様』と呼ばれていましたね。まさか、あの者がノーライフ・クイーン……?」

「どうだろ? 全然そういう雰囲気じゃなかったし、ノーライフ・クイーンだったら、真っ先に僕らに襲いかかってくるんじゃないかな」

「高い戦闘力のメイド……。アンデッドの群れと、それを率いる娘……。駆けつけた新たな冒険者の一団……。明らかに、尋常ではない何かがありますね。このダンジョンには」

「話は通じるみたいだし、僕から一回聞いてみよっか。従わなきゃ従わないで叩きゃいいんだしね」

「……フィル?」

「い、いや、そう簡単に叩いたりはしないから。今のは最後の手段の話だからね、ボウ? これから最後の百個前ぐらいの手段をやるから、ね?」

 無敵のチート騎士は、小柄な聖女に睨まれて、たじたじとなっていた。


 かたやこちらの陣営にいる長身の女医の方は、やる気満々で伸ばした爪を打ち鳴らしていた。

「さて、この人間のつがいを追い払ってしまえば問題は解決するのだろう」

 騎士と聖女の二人組を確認し、戦意をむき出しにしている。

「そりゃ、追い払えるならそれに越したことはないけど。とりあえずやり過ごすのが賢明じゃないかな。レパルドとエ・メス、それと俺で牽制しつつ、ピットは適当にその辺にいてもらって」

「人間、元来獣人は短気なのだ」

 それぞれの戦力を確認しつつ、俺が行動指針を決めようとしていたところ、Dr.レパルドはその言葉を遮って横っ飛びに跳躍した。


「おーい、君たーち! 君たちは一体何者なんだ?」

 聖女との会話を終えて俺達の方を向き、質問を投げかけてきた転生チート。

 そこに襲いかかる、獣人の鋭い爪。

 一気に間合いを詰めて胸元をえぐろうとした、電光石火の貫きを、騎士は銀の大剣で受け止めた。激しいぶつかり合いの音が、魔窟に響き渡る。


「……なるほど、何者か聞くまでもなかったね。敵か」

「わたしの姿をよく見ろ。わたしは獣人だ。つまりは、モンスターだということだ」

「美人の獣人に、頑丈なメイドに、へっぽこそうな剣士と盗賊の編成かあ。こりゃあおかしなパーティーに招待されちゃったもんだね」


 大剣の質量に自らの力を加え、レパルドの体を「ドン」と跳ね飛ばして、戦いの距離を取るチート騎士。

 喋りながら今の突進を受け止め、難なくそれを押し返している辺り、全くもってチート(ズル)という表現に相応しい人間離れっぷりだ。

 一方レパルドはと言うと、身軽に受け身を取って俺の右隣に戻ってくる。

 左隣には包丁とフライパンで武装したエ・メスが登場し、花嫁候補二人が脇を固めた格好だ。

 隅っこのほうでは、ピットが行き場もなくうろちょろとしている。

 あちらの陣営は、一人で全て受け止めようという気概が感じられる転生チートのワントップ。

 戦いの気配を察して後ろに引いた聖女は、早速何かの祈りを神に捧げていた。


 戦闘準備は整った。整ってしまった。

 適当に時間を稼いでやり過ごすのも、この場から逃げ出すのも、今となっては難しいような気がする。

 一旦決着を付けなければならない。この、バケモノ同士の争いに。

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