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献身的に献血を

「だ、大丈夫かエ・メス!」

 気を取り直して俺は、傷ついたメイドゴーレムの元に駆け寄った。ゴシカも隣で、その様子を見つめている。

「あ……ご主人、様……」

 エ・メスはすぐに目を覚ましてくれた。衣服はボロボロになっていて、外傷も目立つ。ところどころ血も出ている。

 ゴーレムなのに血が出ているということには、少し違和感を感じた。

 これは、血なのか……? いや、今はそんなことどうでもいい。


「おい、体は大丈夫なのか?」

「もー、心配したよ。エ・メスが倒れたって聞いたから……」

 俺たちの声をよそに、彼女は体をギシギシ言わせながら、起き上がろうとし始める。

「あの、方々は……」

 エ・メスが言っている「あの方々」とは、女神官と戦士の二人組のことのようだった。

「あの方々は……ご主人様にも、危害を加えようとしていますね……わたくしが、お守りしないと……」

 確かに、彼らが敵だと認識していたエ・メスに対して、俺たちがこんな風に近寄って心配している様子を見て、二人組は警戒を強めている。

 すぐに襲い掛かってくる風ではないものの、武器を手にして、こちらから目を離そうとはしない。

 でも今この子は、エ・メスは、そんなことを気にしている場合じゃないだろう。


「おいちょっと、無理するなってばエ・メス。横になってろってば。なんだかお前、だいぶヤバそうだぞ」

「そうは……参りません……。わたくしは、ご主人様をお守りしなくては……」

「だめだってばー! じっとしてないと! ご主人様守るのだって、健康な体あってこそ!」

「姫様まで……。しかしわたくし、甘やかされるわけには……」

「怪我したら甘やかされて良いの! あたしと違って、体ちぎれるとかしたら死んじゃうんだよ? いくら頑丈なエ・メスでも!」

「ゴシカの言う通りだよ。エ・メスが丈夫なのは知ってるけど、それでも今は、動けないぐらい辛いんだろ?」

「あたし、おじいさんたちほどうまくは治せないけど、一時的にならその怪我、楽に出来ると思うから。これでガマンして!」


 言うなりゴシカは自分の生爪をニ~三枚引っぺがす。

 目の前で突然起きた、あまりも痛々しい事態に、俺は思わず「ひっ」と声を上げた。

 あと、離れて様子を見ていた神官と戦士の二人組も、同じく「ひっ」と声を上げた。

 そんな俺たちの反応を気にかけることもなく、ゴシカは呪文をごにょごにょと唱え続ける。

 すると彼女の爪がはがれた部分から、マニキュアをぶちまけたかのように赤い爪が伸び、やがてそれが血の縄と化して、エ・メスをぐるりと縛り付けた。

 エ・メスの体の傷口を、ゴシカの血が塞いでいく。他人の血で、外的に血栓が作られた形だ。


「うおっ。すげえ……。こんな血の使い方もあるのか」

「体内に蓄えた血を使った、特別な魔法なんだ……」

 死んでいるし体温もないゴシカだが、もともとこの子は吸血鬼だ。血は通っていないけれど、血を蓄えてはいるのか。

 感心して見ている俺の目の前で、鮮血の魔術による処置は、無事終わりを迎える。

「ふー……。よし! これで少し楽になると思うよ!」

「あ……ありがとう、ございます……」

「いいから、君はお礼のために立ち上がらなくていいから」

 まだ動こうとするエ・メスの肩に手をやり、押さえる俺。


「お礼がしたかったら、とにかく休んでよ、ね? それがあたしたちにとって一番いいお礼!」

「俺らのことは気にするなよ。大丈夫、ゴシカがいればなんとでもなるって」

「……。申し訳、ありません……。では、お言葉に甘えて……」

「そうそう、休んで? ちょっと寝てなよエ・メス!」

「一旦終了いたしまして、後ほど再起動いたします……」

「う、うん。よくわかんないけど、そうして」

 エ・メスは口から何か「てんてんて、てー」と軽快なメロディを発し、まぶたを閉じて横になった。変な休み方だ。

 血も止まったし、瓦礫もどけられたし、まあとりあえずは安泰だろう。


 一方、俺たちの様子を警戒していた例の二人組は、何かを相談しているようだった。

「あれはもしかして……いやまさか? 悪名高きノーライフ・クイーンってことなのか……?」

「ただの娘かと思いましたが……瓦礫を放り投げる怪力といい、血液を操る奇妙な魔術といい、怪しいと言わざるを得ませんね……」

「だけれど、あんな女の子だよ? ノーライフ・クイーンってのはもっとこう、悪の権化のような姿で、魔力に満ち溢れた奴だって話じゃなかったっけ」

「フィルメクス。貴方ともあろうものが、見た目に騙されるようではいけません。悪魔は常に我々をたぶらかそうと、機会を狙っているのですよ?」

「そうは言っても僕の場合、今まで人をステータスで見てたから。そういう目が備わってないんだよなー」

「では改めて、見極めましょう。あの娘がノーライフ・クイーンであるのかないのか」


「わ、やばいやばい。ちがいまーすよー。あたしは人畜無害な女の子でーすよー」

 連中の話を聞いて、ゴシカが両手を頭の上でバタバタさせながら、話に割り込み始めた。

 互いに距離を取っているため、向こうの話の内容が聞こえたり聞こえなかったりするわけだが、かろうじて漏れ伝わる内容に、ゴシカは反応したようだった。

 それともあれかな、やっぱり地獄耳なのかな。


「……ゴシカ、それ何やってんの?」

「あのね、あたしがノーライフ・クイーンだってこと……知られたくないんだよう」

「え? 何でまた? それって秘密にしたいことなんだっけ」

「事情は後で話すけど、とにかくあの人たちには、知られたくなくて……」

「んー……わかった、じゃあ俺も口裏合わせるよ」

「ホント? ありがとー! グルームが手伝ってくれれば百人力かも!」

「ゴシカにはリアルに百人力で助けられてるもんな。俺に出来るのは、せいぜいこれぐらいだろ」

 自嘲的に笑ってみたが、実際そうだ。戦闘力じゃ俺はこの子にちっともかなわない。


「おい、君たーち!」

 そんなこちらの打ち合わせをとがめるかのように、フィルメクスと呼ばれている戦士が、言葉を投げかけてくる。

「何だよ? ちょっとかっこいい戦士様」

「おっ? おいおい君、話がわかるじゃないか。僕のいいところをね、そうやってどんどん言ってくれると」

「フィル!」

「……ごめん、ボウ」

 心にもないお世辞が、話をそらすのに一役買ってくれたようだ。よしよし。その調子で調子を崩せばいいと思う。

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