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ダンジョン観光、その前にブレスケア

「じゃあみんなで、ダンジョン探検れっつごーだ!」

「あー、うん。じゃあ行こうか」

 はしゃぐゴシカにせきたてられるように、ダンジョンの奥に足を運ぶ。もちろん俺の返事は、楽しく元気にという感じでもない。

 エ・メスは言われるがままに従順についてくるが、レパルドは眉に皺を寄せ、俺と同じくいささか乗り気ではないように見える。

 いや、こいつは大体いつもこんなとっつきにくい、厳しい顔してるか。


 それにしてもダンジョン探索って、普通はパーティーにモンスターは含まれてないはずなんだけどな。

 モンスターに警戒しながら進むべきものなのに、探索メンバーに既にモンスターが存在してるだなんて。

 むしろ比率としては3:1の割合で人間の方が少ないというこのパーティー編成。俺の方が浮いているという事実。

 そんな信じがたい状況にくらくらしていると、ゴシカが話しかけてきた。

「でもさ、なんでおじいさんたちは、グルームをダンジョン観光に連れ出せとか言うんだろうね」

「あ、この観光ってのも、ジジイの差し金なのか」

「ふん。老人どものことだ、また何か企んでいるのかも知れんな」

「大旦那様が言うには……各自の人となりを、ご主人様により深く知ってもらうためということですが……」


 人となり、ねえ。

 モンスターに人となりも何も無いような気はするが。

 とりあえず、人間の常識がまったく通用しない連中だってことだけは、今のところ身に沁みて理解している。


「おじいさんたちが何をしたいのかは良くわからないけど、要はみんなが普段住んでるところに、グルームを案内すれば良いんだよね?」

「そのようです……」

「なんだか楽しそうで、いいよね!」

「楽しいかあ?」

 一人テンション高めで舞い上がっているゴシカに、疑問を呈す。


「楽しいよー! 普段レパルドとかエ・メスとかがどんな暮らししてるか、あたしもちゃんとは知らないもん!」

「そうだな、わたしも貴様たちの生活を詳しくは知らないな。見識を広めることで、良い研究材料にはなりそうだ」

「ね? きっとレパルドだって楽しいよ」

「そうですね……。楽しそう、ですね……」

「あっ、エ・メス笑った! 珍しい!」

「早速貴重なサンプルが取れたな。記録しておこう」

「やめて……くださいませ……」

 なんだか女子同士楽しそうだな。

 いや、モンスター同士楽しそう……ってほうが正しいのかな。


 ジジイどもの意図は俺たちにはよくわからないままだったが、さしあたって道案内の三人ともが、ダンジョン観光自体に否定的ではないようだ。

 とりあえずこのまま行動を共にしつつ、当初の目的通り、逃げ道を探すことにしよう。俺の最大の目的はそこなんだから。

 それに、探索行が楽しげなのは悪いことじゃない。殺伐としてるよりはね。

 少なくとも三人とも、見栄えは若い女の子だし。楽しそうにしていてくれれば、少しは気が楽になる。


 エ・メスの笑顔の話で盛り上がっていた、女モンスター三人だったが、やがてレパルドが口火を切った。

「まあいい。行くと決まったなら行き先を決めよう。まずどこに行くのだ」

「そうだね、最初はあたしの住んでる魔窟から行こうか!」

「そうか。ではわたしは行くのをやめよう」

 あまりにきっぱりと言い切るレパルドに、早速調子を崩される。

「ええ? 今さっきまで割と乗り気だったのに、結局行かないのかよ?」

「ああ。あそこは臭いからな」

 またも自信満々に自我を貫き通すその姿と言動には、良く意味のわからない威厳すら感じられた。


「えー、いいじゃん行こうよー、レパルドー」

「お前たちは良いだろうが、あの場所はわたしの鼻が曲がるほど臭いのだ。その上陰気臭いのだ。足を運ぶ気はない」

「うーん、まあ仕方ないかー。レパルドが言うことだもんね」

「ああ。わたしが言うことだから仕方ないな」

「いやいや、自分で仕方ないとか言うなよ」


 ゴシカの説得に聞く耳を持たないレパルドを見て、業を煮やした三つのしもべも、口を挟んでくる。

「まったくわがままなことですな。これだから獣の知能の低さにはついていけませぬ」

「脳みそが腐っている連中に言われることではない。というか、お前たちも臭い。消えろ」

「なんザマスって!」

「ちゃんと毛づくろいしてるから、臭くないニャ!」

「死体が死体をなめても臭いものは臭い」

「ニャんだとー! 毛づくろい仲間のくせしてー!」

「もう、みんなケンカしないでよー」

 アンデッドたちとレパルドの言い争いに、ゴシカが困惑気味に仲裁に入った。

 不遜な獣人と、それを取り巻く一つ目生首と、一つ目黒猫と、一つ目コウモリ。両者をとりなすアンデッドの女王。

 相変わらずカオスな絵面だ。それに、このパーティーのモンスターと人間の比率が、6:1に上がった。


 そんな風に話が平行線をたどっていると、そこにエ・メスが口を挟む。

「あのー……ちょっとよろしいでしょうか……」

「なんだ、ゴーレム」

 態度を崩さぬまま、レパルドが応える。

「臭いの問題でしたら……なんとかなると思われます……新機能で……」

「ほう、新機能。幾分興味深いな、説明しろ」

「はい……大旦那様が、新たな機能をつけてくださいましたので……このように……」

 エ・メスはそう言って口を大きく開く。

 すると彼女の口から緑色のブレスが吐き出され、さわやかな木々の香りが広がっていくではないか。


「これは……消臭・芳香効果の息! なんちゅー機能的で平和なブレスだこりゃ」

 俺は感嘆の声を上げた。まさか冒険者生活で初めてくらうことになるブレスが、森の香りになるとは思わなかった。もちろんダメージとかバッドステータスとかはない。

「ふむ……心地よい香りだな。これなら死体どもの臭いも、さほど気にならない」

「あがががが、あががが……」

「メイドさん、あのさ。一旦口を閉じて話さないと、何言ってるかわかんないよ」

「あが……そうでした。ええと、これでいかがでしょう」

「ああ、これならなんとかなりそうだ。ゴーレム、引き続き頼むぞ」

「かしこまりました……」

 こうして命令している姿を見ていると、レパルドがエ・メスの主人のようだ。

 まあいいか、メイドなんだし。みんなのお手伝いさんってことで。


「やれやれ、じゃあ行こうかゴシカ。道案内頼むよ」

 アンデッドの女王の方を向いて話を振ると、彼女は自分の腕に鼻を近づけ、神妙な顔をしていた。

「もしかして、あたしも死体臭いのかな……」

「ん? 何してるの?」

「あ……うんゴメン、なんでもない! じゃあとっとと、行こうー!」

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