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二度会うヤツには三度会う2

「あのさあ、もしこれでお宝が見つかったとしてさあ」

 部屋の隅々を注意深く探りながら、盗賊は言った。

「その調子じゃ、アンタは持っててもしょうがないよね。だから何か見つかったら、ボクのものってことで」

「なんだよ、それじゃあ手伝い損じゃねーか」

 一緒になって部屋を物色していた俺は、抗議の声をあげる。


「いいじゃん、手柄と名誉だけはあげるよ。後はモンスターと結婚して、その武勇伝をダンジョン内で子々孫々語り継いでくれ」

「ひでーこと言うなお前! あの時仲間になってもらわなくて良かったわ、本当に」

「お互い様だね。モンスターの亭主と仲間になるつもりはないよ」

「……だけど宝探しは手伝わせるのか」

「こき使う分には仲間じゃないもんね」

「つくづくヒドイこと言うなあお前」

「おっ、隠し扉はっけーん」


 ぐだぐだと雑談中に、盗賊はいつの間にか隠し扉を見つけ出していた。

 しかし俺には、そこに隠し扉があると言われても、まったく目視することが出来ない。ただの壁があるだけに見える。


「アンタ、見えてないだろこの扉。こうするんだよっ、と」

 俺にニヤリと笑みを向けた少年は、良くわからないすばやい手さばきで、壁を叩いたりさすったり蹴ったりする。

 すると、ただの壁だと思っていた場所に溝が生まれ、一部がくるりと回転した。

 その手際は見事の一言。さすが盗賊と言ったところか。

「さてさて、中にはどんなお宝が眠ってるのかなーっと♪」

 手もみしながらそいつが扉の中に入ろうとすると、部屋の四方から扉に向かって、電撃が飛んできた。

「ぎゃーーーーーーーっ」


 発動した罠の直撃を受けて、激しい叫びを上げる盗賊。見る見るうちにその姿は、黒焦げになってしまった。

 休む間もなく今度は、急回転を始めた扉に全身を跳ね飛ばされ、天井に体を打ち付け、床に落ちてはいつくばる。

 強烈なトラップの効果を見て、俺は言葉を失い、呆然と立ち尽くしてしまった。


「今の音……何事でしょう、ご主人様」

 騒ぎを聞きつけてやってきたのは、エ・メスだった。

「あっ。あ、あのー、なんかトラップに引っかかったみたいでー」

「トラップに……! ああ……やっぱりわたくしが一緒にいるべきでしたでしょうか……」

「いやその、俺じゃないんだけどね、トラップにやられたのは」

「おや、この方ですね」

「そうなんだ、気絶しちゃってるみたいなんだけど、どうにかならないものかな」

「はい……お任せくださいませ」

 エ・メスは片手で盗賊の少年をひょいと持ち上げ、二階の窓を開けて、外に放り投げてしまった。

 地面にたたきつけられて、「ぐえっ」とうめき声が上がるのが聞こえる。


「投げちゃだめでしょ投げちゃ!」

「ご主人様がそうおっしゃられたものですから……」

「言ってない、言ってないってば」

 弁明をしているところに、今度はゴシカが姿を現す。

「ねえねえ何の騒ぎ? さっきなんか、『ぎゃーーーっ』て、断末魔みたいなのがしたけど」

「断末魔か……。あれを見ると、あながち間違っちゃいないかもしれないけど……」

 俺が二階の窓から地面を指し示すと、そこに倒れている盗賊の少年を見て、ゴシカは言った。

「あー、ピットかー。じゃあ死なないね!」

「え? 名前知ってるの? 知り合い?」


 その疑問に答えてくれたのは、悠々と最後に部屋に現れた、Dr.レパルドだった。

「あの盗賊はこのダンジョンの常連アタッカーだからな。ちょっとした有名人だ。皆名前を知っている」

「ああ、そうか……。ちょくちょくここに来てるのか、あいつ」

「いつもあんな調子だ。どうやら主に、スナイクの罠に引っかかる用件で足を運んでいるらしい」

 とうとうと持論を述べるレパルドに、エ・メスが納得した様子で応える。

「なるほど……そういったご用事でいつもわざわざいらっしゃってたんですね……」

「いや、違うと思う。俺は違うと思うよ」


 それにしても、あんな大怪我負って放置されたら、いくらなんでも死んじゃうんじゃないか。電撃と落下だぞ。

 落下のほうが……ダメージ大きかったかもな。

 ピットと呼ばれた盗賊を、心配しつつ眺めていると、その姿が一瞬にして消えた。


「えっ、消えた?」

「ふむ。いつものテレポートだな」

「テ、テレポート? 魔法まで使えるのかアイツ」

「そうじゃないよ。なんかね、瀕死になったら街まで転送してくれる、ありがたいマジックアイテムが売ってるんだって」

 ゴシカが身振り手振りで、「こーんな、首とか手とかに巻くやつ」とマジックアイテムの説明をしてくれる。

 たぶんスカーフか何かなのだろう。そういえばピットが巻いていたような気がする。


「あの盗賊はダンジョンにもぐる際、テレポート用のアイテムをよく身につけているのだ。単身で身動きが出来なくなっては帰還の手段がないからな」

「へー、そうなんだ」

「ああやって死に掛けては街に戻って、神殿や宿で治療して、またここに来ては死に掛けるのだ。人間というのは興味深いな」

「すごいねー、人間って。生きてるのによく死なないよね!」

「いや、別に人間全てがああじゃないと思うけどね?」

 常識はずれの見解を述べる、ゴシカとレパルド。

 あれが人間のスタンダードだと思われると、俺の身がまた危ない気がしたので、一応否定をしておいた。


「あの生命力には、恐れ入ります……」

「いや、それは君が言うセリフじゃないと思うけどね?」

 エ・メスも見当違いなことを言っていたので、ついでに否定しておいた。

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