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二度会うヤツには三度会う1

 俺は屋敷の二階で、エ・メスが用意した新たな服に着替えていた。

 今日はこの後、あの連中と一緒にダンジョン内を観光する予定になっているらしい。

 あの連中というのは、花嫁候補モンスター三人組だ。

 とても気がすすまないイベントではあったが、俺には少しだけ考えがあった。


 最初に変なところからこのダンジョンに放り込まれたけど、そもそもここは多くの冒険者が足を運ぶ場所なんだ。

 本来の出入り口が、どこかにあるはず。

 そこを見つけて脱出を試みれば、なんとかここから逃げることも可能かもしれない……。

 観光とやらのついでにダンジョン内を探索して、まずは逃げ道を確保しよう。

 このまま結婚騒動に巻き込まれっぱなしで、自分から行動を起こさないわけにもいかない。

 自分の命は自分で守らないとな!


 改めて意思を固める俺の部屋を、ノックする音が響く。

 「はい?」とそれに応えると、エ・メスがおずおずとドアを開けた。

「あの……ご主人様」

「あれ、えっと、準備はまだだけど」

「いえ、その……お伝え忘れていたことがありまして」

「なんだろ」

「昨日のうちに……大旦那様が屋敷のあちこちに罠を仕掛けておいでですので、お気をつけくださいませ」

「ええ? 仮にも俺らが住む家なんじゃないの、ここ? なんであのジジイは家に罠を仕掛けたがるの?」

「ご主人様を……逃がさないためだとか、おっしゃっていました……」

「え」

「わたくしには大旦那様の言葉の意味が、良くわからないのですが……」

「あっ、ああー。そう、そうなの。そっかー」

 さっきまでの自分の脱走計画が既にジジイどもに見透かされてる気がして、背筋が寒くなる。


「お着替えの最中では、わたくしがご主人様のお体を、罠からお守りすることも出来ませんから……」

「あ、うん」

「死なない程度に身をお守りくださいませ。それでは、失礼いたします……」

 エ・メスはそう言い残して、部屋を後にした。


 はあ、そっか。まあそうだよなあ。逃げ出すことを考えに入れてないわけがないか。

 屋敷から逃げるだけでも、一苦労なんだろうな……。

 やっぱりダンジョンから逃げるためには、内部の下見をしておいたほうがいいのかもしれない。

 この屋敷と酒場、最初にジジイに会った場所や、花嫁候補のいた通路ぐらいしか、俺はダンジョンの中を知らないわけだし。どこかどう繋がっているのかもわからない。

 内部構造を知っておくことは重要だよな。ダンジョンに入ったら、マッピングしないと。


 そんなことを考えながら、屋敷の二階の窓から外を見る。外に広がる景色は、岩壁しかない。

 そりゃそうだ、ダンジョンの中の一軒家なんだから。

 これって、部屋の窓……必要あるのかな。

 というかそもそも、ダンジョンの中に二階建ての屋敷を作るその発想が良くわからないけどな。

 ジジイどもの住処を基準にして、新婚用に家を建てたんだって、エ・メスに聞いたけど……。正気の沙汰じゃないよな……。

 代わり映えしない岩肌だけの景色を眺めていると、窓の外の景色に動きがあった。

 窓に、人影が見える。

 二階の窓にへばりついている、小さな人影。こちらを覗いている。


 「えっ」と思う間もなく、そいつの体が瞬時にロープでぐるぐる巻きにされ、直後に窓がガチャリバタンと自動開閉。

 縛られた人物が、部屋の中に放り込まれてきた。ご丁寧に『盗人御用』なんてシールまで貼りつけられて。

 一瞬で起こった予想外の出来事に、俺は目を丸くする。


「あいててて……くっそージジイ連中め。罠だけに飽き足らず、余計なシールまで用意しやがって……」

「ん?」

「おや?」

「あれ、アンタは??」

「えっ、あれ??」

 罠にかかって現れたのは、俺がこのダンジョンに放り込まれる前、街で出会った盗賊の少年だった。


「おいお前、昨日会ったよな、街の酒場の入り口で!」

「あー、会ったねえ。何だよアンタ、ジジイどもの仲間だったわけ?」

「いや全然そんなことないんだけど。て言うか聞いてくれよ! 今、大変なんだよ!」

「何だよすごい剣幕で。よくわかんないけど話の前に、この縄ほどいてくれないかな」

「あ、ああわかった。ちょっと待ってろ」

 昨日街で会ったばかりとはいえ、一応見知った外の人間だ。ようやくモンスターじみてない人間との出会いだ。

 俺はこの出会いに喜びを感じつつ、盗賊の縄をほどいてやる。


「ほどいてくれてありがと」

「いやいやなんのなんの」

「つーかさ、アンタなんでこんなところに住んでるの? 冒険者かけだしって感じじゃなかったっけ」

「住んでるというか、これは半ば監禁なんだよ……」

「監禁? なんで? モンスターにつかまって、取って食われるとか?」

「いや、食われはしないと思うけど……食われたほうがまだマシかもしれない」

「なんだか大変そうだな」

「このままだと俺、モンスターと結婚させられるハメになるんだ!」

 必死の訴えを盗賊にしてみるが、反応は薄い。

「結婚。意味わかんないんだけど」

「俺もわかんないよ。急につかまって閉じ込められて、一週間後に結婚だなんて、そんなバカな話があるか」

「へー、そりゃ大層大変ですねえ。ふんふんふーん♪」

 盗賊は鼻歌交じりに、部屋を物色し始めた。


「……お前、人の話聞かないで、何してるんだよ」

「だってもともと、この変な屋敷の中に何かお宝でもあるんじゃないかと思って来たわけだし。せっかくだから部屋あさらないとさ」

「せめて俺のこの、世にも奇妙な不幸話ぐらい、腰を落ち着けて聞いてくれたっていいじゃんかよ」

「だってさあ、人の不幸話聞いてるより、お宝探ししてる方が面白いんだから、仕方ないじゃん?」

「そりゃそうかもしれないけど……」

「じゃあ決まりだ、せっかくだから一緒に探索しようぜ。話はそのついでに聞いてやるから」

「お、おお、うん」

 なんとなくペースを握られてしまう、俺だった。

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