奇人たちの歓迎会2
自らが用意した花嫁候補を紹介しようとしたスナイクだったが、横から話に割って入られてしまう。
ゴシカやアンデッドやジジイどもの間を、するりとしなやかに抜けて現れたその声の主は、長くスラリとした手足の女性だった。
「Dr.レパルドだ」
女性はそう名乗った。
シャープかつグラマラスな体のラインと、きりっとした眼光は、先ほどのゴシカとはまた違った美しさを備えていた。
スタイルを強調するかのような白い豹柄のキャットスーツと、開いた胸元から見える褐色の肌は、見るものの目を奪う。たとえこいつがモンスターで、俺が人間だとしても。
「ワークリーチャー属ワータイガー門の、獣人だ。人間、貴様と結婚する。気軽にレパルドと呼ぶがいい。以上だ」
「ウォウウォウ!」
「モヂュー!」
Dr.レパルドと名乗った女性は、キッと俺を鋭く睨み付けて、野獣たちの群れに紛れ込んだ。動物たちの吠え立てる声が、酒場を支配する。
さっきは腐敗臭が強かったが、今度は獣臭が激しい。寄るな、寄ってくるな獣たち。獣臭い。
うんざりしている俺の横で、ジジイたちが先程と同じく、口々に感想を漏らした。
「なんとも簡単かつ、ストレートな自己紹介だねえ」
「まあ、あいつらしいワイ」
「おいグルーム、今のが第二の花嫁候補、Dr.レパルドだ」
「さっきのゴシカが死んでるものの代表なら、レパルドは生きてるものの代表ジャな」
「このダンジョンの野生生物たちを率いている上に、医者でもある。これも逆玉コース待ったなしのお相手だねえ」
「逆玉……ねえ」
俺はジジイたちに、生返事を返す。
「なんジャ、そっけないのう」
「いやゴンゴル、これはあれだな。なあ、グルーム? そういうことだろう?」
「? 何だよ」
「お前さん、思ったよりも花嫁たちのレベルが高くて、ちょっと心が浮ついてるんだろう?」
「な、何言ってんだ! そんなバカなことあるわけねーだろ!」
「まあまあまあまあ」
「まあまあまあまあ」
「ニマニマすんなジジイども!」
俺の一喝が聞こえていないフリをしながら、スナイクは話を進める。
「では最後に、わたしたちダンジョンマスターからの自信作、第三の花嫁候補を紹介するよ」
「おい、出てくるんジャ」
「はい……」
弱々しい声と共に出てきたのは、エンジのメイド服を着た女性だった。
今まで出てきたゴシカやレパルドに比べると、顔立ちに華々しさはないものの、その姿は独特の魅力を持っていた。
他の花嫁候補も充分ダンジョンには場違いな感じだったが、この子は特に場違い感が強い。
服装も顔つきも体型も家庭的な印象が濃く、モンスターたちの中で非常に不似合いな、女性的安心感を放っている。
「エ・メスと、申します……。ご主人様のお世話を、させていただきたいと思っております……」
エ・メス。そう名乗った女の子は、感情に乏しい声で、俺にそう告げた。
「エ・メスはのう、ワシらダンジョンマスターからの代表、ダンジョンを守るゴーレムジャ」
「ゴーレムとは言っても、主にわたしたちの世話ばかりさせてきたから、メイドゴーレムと言ったところだけれどね」
紹介されたメイドゴーレムは、丁寧に頭を下げつつ、こう言った。
「今後は……エ・メスとでも、メイドとでも、おい、とでも、お好きにお呼び立てくださいませ。ご主人様……」
「あ、あ……は、はい」
今までとのテンションの落差と、俺には馴染みのないその所作に、なんだか拍子抜けしてしまった。
「ところであのー……大旦那様。こちら、先ほど渡されたまま、持って来てしまったのですが……」
「ん? そりゃさっき作業中に渡したもんジャないか」
エ・メスがゴンゴルにそっと差し出しているのは、爆弾だった。
導線に火がついている。
「オイオイそれ、火が! 爆発するんじゃないのか?」
俺の声を無視して、ゴンゴルがエ・メスに伝える。
「せっかくのお披露目の時間ジャと言うのに、そんなもん持って来てはいかんワイ。処理してくるんジャ」
「処理と申しましても……どうすればよろしいでしょうか……」
「あー、そうジャな。お前さんにはワシらもよく知らん機能がまだいろいろあるジャろ。それで適当になんとかせい」
「まだ使っていない機能……ええと……ええと……」
「特に方法が思いつかなければ、腹の中にしまって、しばらくあっちに行っとれば良いワイ」
「はい……」
言われるがままにそのメイドゴーレムは、爆弾を丸呑みした。
「えっ、食べた?」
「…………」
俺の驚きに軽い会釈で応えたメイドゴーレムは、そそくさと酒場を出て行く。
その子が酒場を出た直後だった。すぐさま爆発音が響き渡り、洞窟内は轟音に揺らいだ。
「……今あれ、確実に爆発したよなおい。おい、ジジイども、おい」
「なあに、あれしきの爆弾ではエ・メスは死なんワイ。あいつの腹は頑丈ジャからな」
「頑丈とかそういうレベルじゃないんじゃないのか?? あの子の腹はシェルターか!?」
「もしあの爆発でどこかが壊れたとしても、また修理すればいいだけだよ。新機能でも付け足してね。イッヒッヒ……」