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このジジイどもが仲人だってのか

「じゃあ、どうすればいいって言うんだ!!」


 薄暗いダンジョンの中で、爆発音に耳をやられながら、俺は叫んだ。

 とにかくわけがわからないことの連続だった。状況は後で順を追って説明したいけれど、そもそもこの事態を、俺にもうまく説明できるものかどうか。

 俺の名前はグルーム・ルーム。

 近隣にダンジョンがあるという街に足を運んだ、冒険者駆け出しの男だ。

 それがどうして、こんなことになったのか? 暗い穴に放り込まれ、発破に追い立てられ、気色の悪い老人連中と先の見えない問答を繰り返している。

 俺の輝かしい冒険の一ページに何が起こったんだか、いまだに全く見当がつかない。


「つまり、逃げ場はないんジャ」

 傷だらけの太っちょドワーフが、俺の「どうすればいいんだ」という問いに応えてくれたが、そんなものは回答になっていない。

 しかもその上、痩せぎすノッポに白衣のジジイがしゃしゃり出てきて、しわがれた声でこう続けてくる。

「そう、お前は進むしかないのさ。あの道のいずれかをね。イッヒッヒ!」

 不吉な笑いと共にジジイが指し示したのは、一風変わった三本の分かれ道だった。


 そのうちのひとつは、入り口の周りに血塗りのおどろおどろしい文字が書き連ねられていた。

 『WELCOME』とか『新たなMASTER』とか『血が足りない』とか『死』とか書かれている。

 どす黒い血でべっとべとになった、白い薔薇も飾られていた。


 ふたつ目の道は、まるでジャングルのように周囲が緑に覆われ、岩肌が見えなくなっている。

 しげった草のせいで道の先がどうなっているかは良く見えないが、その先からたくさんの獣の声がするのは確かだった。

 たまにギラリとした野性の目が、茂みの奥で光る気もするけれど。それが事実なのか錯覚なのかはわからない。


 最後のもうひとつの道は、石造りの立派な入り口になっていた。

 その先の道も、同じく綺麗に舗装されているように見える。

 入り口の上には、古代文字か何かで短い文章が書かれていた。あれはなんだろう?


「あれはな、『これより道を定める勇者よ、良くぞ来た』と書いてあるんだ、イッヒッヒ」

「うわあ! いつの間に隣に!」


 不気味な痩せぎすノッポのジジイがいつの間にか隣に来ていたことと、思考を読んだかのように話しかけてきたこととで、俺は心底ビックリした。

 狼狽するこちらをよそに、チビデブドワーフと痩せぎすノッポは、次々に語りかけてくる。


「あの石造りの道の先は、ドワーフであるワシと、このノッポのジジイの住まいでな。ワシら老人連中は、後ほどあそこに帰る予定ジャ!」

「そう、つまりはあの先は、ダンジョンマスターの住む場所なのだ。その住まいで我々は、ダンジョンでの効率のいい冒険者対策を研究している」

「こ、効率のいい、冒険者対策って?」


 恐る恐る聞いてみると、ノッポのジジイから血も涙もない答えが返ってくる。


「それは、お前さんのような冒険者が身をもって体験してみれば、一目瞭然だな。イッヒッヒッヒ!」

「え、えーと……じゃ、じゃあ、他の道の先は……どうなってるんだ……?」

「さあて、そっから先はお前さんが確認するんだね、勇者さま」

「勇者さま、違いねえ! こんな酔狂な遊びに付き合う人間なんジャからな! ガッハッハ!」


 痩せぎすジジイの「勇者さま」という言葉に反応し、太っちょドワーフは、傷だらけの顔を崩して笑う。

 ジジイたちは代わる代わる、細いのから太いの、低いのから高いのと、俺に向けて一方的な言い分を投げつけ続けた。


「安心したまえ勇者さま。まだまだこの先、お前さんは何度でも、この三つの選択をすることが出来るだろう。イッヒッヒ……」

「だから、今ここでどこに進んでも、大して気にすることはないジャろうな」

「しかし、ここでの選択がその後のお前さんの全てを決めないとも、限らない。イーッヒッヒ!」

「運命とは、えてしてそういうもんジャからな、ガッハッハ!」

「さあ、この先に待ち構えるものに、会ってくるが良い」

「おお、そうジャ。早く行って来い、あまり待たせるもんではないぞ。失礼に当たるワイ!」

「ああ、それと。この先の道は急場作りで、明かりを灯していない所も多い。これを持って行きたまえ……」


 ノッポのジジイは、着用している白衣の内側から小さなランタンを取り出し、手渡してくる。


「暗闇に光をもたらす、特別製のランタンだよ……それでも、どこまで、このダンジョンの暗部を照らせるかは、わからんがね……イッヒッヒッヒ……!」


 なんだかジジイ二人の話を聞いていたら、余計に混乱してきた。

 まるで無意味な説法を聞いているみたいだ。

 言いたいことはよくわからないが、なにか含蓄のあることを言っているようにも聞こえる。

 しかし、こと本人である俺が状況を良くわかっていないので、ほとんどの話は理解ができないのだった。

 もう一度振り返って自分を見つめなおそう。俺の名前はグルーム・ルーム。

 近隣にダンジョンがあるという街に足を運んだ、冒険者駆け出しの男だ。

 まだ年若く、剣士としてのイロハを学んでデビューしたばかり。奮発して買った片手半剣に、なめし革の鎧を所持。食料や地図なんかを詰め込んだ背負袋はいつの間にかなくしてしまった。文字は読めるが魔法も使えず、前時代のオーパーツとやらも持ってない。

 ごくごく普通の、剣を振るう以外に何も出来ないソロ冒険者のこの俺が。

 なぜか今、こんな状況下にいる。


 俺がダンジョンに放り込まれた穴から外に抜け出す方法は確かになさそうで、示された三つの道以外には、行く先もないようだ。

 どうやら本当に、三つの道のどれかを選ばなければいけないらしい。

 血塗りの文字で迎えられる道か。

 ジャングルのような野性味あふれる道か。

 怪しいジジイたちの住まいが先にあると言う、石造りの道か。


 ……普通、ダンジョンでこんな道が出てきたら、どれも選ぶのはNGな道ばっかりじゃねーか!

 だけれど俺は選ぶしかない。行くあてが他にないんだから。

 ここで気色の悪いジジイ二人といつまでも時間を潰しているのも、あまり気味のいいものではない。

 まずは進もう。そして、状況を整理しよう。整理できる……範囲で。

 俺は運命の道を決定した。ゲームの選択肢を一つ選んだくらいの感覚で、一歩を踏み出したんだ。

 行く先に待ち受ける彼女と、いずれ結ばれることになるだなんて、夢にも思わずに。


・血塗れの道を進む

「死臭と酒と女王様」へ


・緑に覆われた道を進む

「森と獣と女医」へ


・石造りの道を進む

「宝と罠と労働者」へ

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