第二話~心癒される瞬間~
結局あれ以降、山口さんとは一言も会話することなく、作業が終了した。
俺は今、仕上がった書類を、奥地先生のところへ持って行ったところだ。
にしても、あの書類の量はすごかった。全部整理するのに二時間ぐらいかかってしまった。
あの豚野郎…
許せん。まあ、仕事をやるのは別に構わん。ただ、助けてほしかった。
俺が書類を渡しに行ったとき、アイツ暇そうにう○い棒食ってやがった。しかも、納豆味。臭い息に拍車がかかっていた。
まあ、いい。反面教師としては良いことを教えてもらった。
困っている人は助ける。これに尽きるね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
下駄箱で靴をはきかえる。
今日も色々あったな…
早く帰って、妹の笑顔で癒されよう。
よし、そうと決まれば、ダッシュだ!
俺の家は学校から結構近い。そのため登下校は徒歩でおこなっている。
しばらく走る。
おっ、エロ本が落ちている。
…が、一刻も早く帰りたい。今日のところは残念だが、拾ってやれない。
更に走る。
するといきなり、俺と同じ年くらいの男子高校生が目の前で車に跳ねられた。
その男子高校生は数メートルぐらい吹き飛ばされた。
ヤバいな…
俺は急いでその男子高校生のもとへ走った。
見た感じは怪我無さそうだけど、一応…
俺は携帯を取り出した。
そしてすぐさま、カメラを起動して、その人の写真を撮った。
交通事故にあった人はじめてみたからな。記念に一枚。
でも俺としては、ちょっと怪我していた方が事故っぽくっていい感じだと思うんだけど…
まあいい、我慢してやる。
「次は怪我しろよ」
そう言い残し、俺は再び走り出した。
しばらく走り、後、数十メートルで家に着く所まで来ている。
途中、迷子になって泣いている子供や、倒れているお爺ちゃんを見つけたが、勿論、無視した。
可愛い妹の笑顔を早く見るためだ。
「きゃー。助けて!!」
今度はなんだと思って、声のする方へ目を向けた。
「そこのあなた、助けて!!」
目があった。
どうやらこの女の人は、誘拐されているみたいだ。
「だ、黙れ!!大人しくしろってんだ!」
誘拐犯が女の人の口を塞いだ。
はぁ。
さすがに女の子への暴力無視できない。
出来ないが、あの女はブスだ。
俺は絶対、ブスは女の子として認めない。
恨むなら、ブスとして生まれた自分を恨んでくれ。
俺は再び走り出した。
「ま、待って!!」
ブスは必死で俺を呼び止めようとしているが…
聞く耳持たん。
ブスのくせに誘拐されてんじゃねえ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
色々あったけど無事家の前までたどり着いた。
やっとで、やっとで妹の笑顔がみれる。そう思うと、自然と鼓動が早くなってくる。ドアを開く。
誰もいない。リビングかな?
リビングに向かう。ドアを開く。
すると、そこには、満面の笑みの妹がソファーに座っていた。
普段なら心癒されるが、何故だろう?
今日はダメみたいだ。いや、理由ならわかっているな。
妹の隣には妹と同い年ぐらいの男が座っていた。
だ、誰だ?その男は!
俺はリビングに入った。って言うか、入らなければ、自分の部屋に行けないのだ。妹も、もういい年頃だし、彼氏の一人や二人ぐらいいてもおかしくはない。
俺は出来るだけ妹達と目を会わせないように、自分の部屋へ向かった。
「あ、お兄ちゃんお帰り」
お兄ちゃん?はぁ?アイツが俺をお兄ちゃんと呼ぶのは大抵俺をバカにするときだけだ。
そうか、さては彼氏の前で良い子ぶりたいんだな。よし、手伝ってやろう。
「おう、ただいま。今日は、おねしょしなかった妹よ」
俺は妹の方へにっこり笑顔で向いた。
「おっ、お友達のほうもいらっしゃい。ゆっくりしていってね。昨日の男の子とは…
また違う人だね」
よし、これで妹は友達がたくさんいると言うアピールができたぞ。
これできっと妹は俺の事を見直して、最高の笑顔をくれるに違いない。
ほら、妹が笑顔でこっちに来ている。
俺の耳元に唇を近づけて、こそこそ話をする。
「殺すぞ…」
悪寒が走った。見直すどころか、殺人予告をされた。
「あははは、お兄ちゃん何をいってるのかな?面白いんだから♪」
「あ、ははは、はぁ…」
怖い怖い怖い。
「あ、あの…僕…田原 龍神って言います。突然ですけど、あなたのクラスに田原 有明って人いませんか?」
田原有明…
ありあか…
すごい名前だな。龍神も中々。
さてはこいつらの親って中二病が抜ききれずに大人になったんじゃないのだろうか?
ってそんな事はどうでも良い。田原…
田原か。聞いたことあるような。
ん?改めて龍神をみるとコイツって天然パーマだな。もしかしたら。
「田原って、お前と同じで、天然パーマなのか?」
「はい、そうです」
やっぱり。じゃあコイツの言っている人って、あの変人か。
「んじゃあ、誰か知ってるわ。そいつがどうかしたのか?」
「あの人は僕の姉です」
まあ、そうだろうな。
「それで、聞きたいことがあるですけど…」
「ん?」
龍神は一回深呼吸をしてから口を開いた。
「学校にいるときの姉はどうですか?ちゃんと友達出来ていますか?苛められたりしていませんか?」
なるほど。要は、こいつ、姉の事が心配なんだな。
だが、俺はこいつに、こいつが望むような回答は出来そうにない。
「あ、姉は、中学の時苛められていました。しかも、結構ひどい苛めで…。靴がないのは日常茶飯事でした。同級生の女子から殴る蹴るなど暴行も受けていました。それでも、家にいる時はいつも笑顔で暮らじでいでぇ…」
龍神は泣き始めた。
「お前の姉、うちのクラスじゃあ友達いねぇぞ」
「お、お兄ちゃん!!」
事実だ。しょうがない。
「そうですか…」
龍神は更にしょんぼりして、下を向いた。そんな龍神の背中をさすりながら、妹が俺をごみを見るような目で見ている。
ふぅ。めんどくさいけど。まあ、いっか。確か俺は、ついさっき、困っている人は絶対に助けるようにしてたな。
「まぁ、なんだ…。俺も友達いねぇし。アイツさえ良ければ、仲良くしていきたいと思ってる…」
ダメだ。やっぱり俺はコミュ癖だ。
言いたい事が伝わったか心配で龍神の方を見てみる。
「えっ、って事は、姉ちゃんと友達になってくれるってことですか!?」
ほら。やっぱり伝わっていない。まあ、だいたい合ってるが。
「そんな上からじゃない。その…、何だ、仲良くなるきっかけを作って、それで、友達になれれば「よくわかんないんですけど、それで良いです!ありがとうございます!」
俺の話の途中で…
「んじゃあ、そろそろ日が暮れるんで帰ります!」
龍神は笑いながら走ってこの場から立ち去った。
あまりの勢いに俺がぽかーんとしていると、妹が俺の膝を軽く蹴ってきた。
痛いぞ。慰謝料払え。
けど、まあ、なんか知らないけど、良いことをした後って気分が悪い。
ムズ痒いような、照れ臭いような。
ん~、なんと形容したら良いのか…。
やっぱり、気分が悪いとしか言いようがない。
だけど、あれだな。
今、妹のこの笑顔を見れたから、良しとするか。
やっとこれで、心癒された。




