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第九話~葛藤~

頭から手が離れなくなった日から、数日がたった。その間俺は何とか田原さんとデートの日程と場所を決めることができた。そして、今がその日で、俺は待ち合わせの場所である駅前にいる。通り過ぎていく人達を懸命にチェックしながら、田原さんを待つ。待ち合わせの時間である一時から5分が経とうとしたその時、こちらに向かって走ってきている田原さんの姿が確認できた。そして、息を切らしながら、俺の前までたどり着つ。

「す、すみません…。待たせてしまって…」

田原さんが申し訳なさそうに俺を見る。

「俺も今来た」

ものすごいありきたりな返事をした後、俺は田原さんを駅まで誘導し、切符を買って、電車に乗り込んだ。休日のためか電車は少し混んでいたが、何とか座ることができた。

「……」

座ったのは良いが、話す会話がスッと出てこない。そのため、少し気まずい雰囲気にはなったが、慣れていることだ。

「あ、あの…」

「ん?」

しかし、田原さんはこの雰囲気が気になるのか、早速口を開いた。

「い、いえ…」

しかし、やはり話すことはないようだ。仕方がない。

「どう?うまくいってる?」

「えっ?」

やはり言葉不足か。

「あっ、はい。なんとか頑張ってます」

しかし、少し時がたったら理解してくれたようだ。

「そうか、それは良かった。最近は昼飯一緒に食えないからな。ちょっと気になってた」

「そ、そうですね…」

又しても微妙な雰囲気が流れる。

「もう家族には心配されてない?」

「そうですね、以前見たいには神経質にはなってないと思います」

「そうか、それは何よりだ」

「矢澤君のおかげです…」

「ア、アホか…」

不意をつかれた俺はこんな返ししかできなかった。

「ふふふ、本当です…」

「そ、そうかよ…」

「はい…」

さっきとは真逆な空気が流れ込む。この空気が流れてくる度に俺の気持ちが再確認される。

「お、俺「次は花丸駅~、花丸駅~お忘れものの無いようご注意ください」

俺の声が無機質な男の声に遮断される。

助かった…。

「次だな」

「そうですね。遊園地楽しみです」

「あ、ああ。そうだな…」

高揚する田原さんを見て胸が高鳴る。何をしたってすぐこれだ。恋の病とは良く言ったものだ。

俺たちは電車を降りて遊園地に向かう。途中緊張しながらも、他愛のない話をして、遊園地までの道のりの時間をないもの同然とした。予め買っておいた遊園地の切符をスタッフに千切ってもらい、遊園地に入った。その瞬間興奮のようなものを覚えた。視界に写るものだけで気持ちが高ぶった。大きな円をえがいた観覧車。見てるだけでめまいがしそうなほどのジェットコースター。賑やかで、笑顔でいる人達。それらすべてが俺の気持ちを子供の頃に戻した。

「矢澤君、観覧車ですよ!」

子供に戻ったのは俺だけじゃないらしく、田原さんもかなり興奮している。

「そ、そうだな。乗るか?」

「えっ?いきなりですか?」

「だ、ダメなのか?」

「や、やっぱり最後にした方が良いのでは?」

「そ、そうだな…」

突如俺の高揚した気持ちが一気に冷めたものとなった。何事にも最後がある…。この時間でさえも…。

「矢澤君?」

田原さんが俺の顔を覗き込む。

「いや、大丈夫だ」

どうせ終わるならそれまで楽しむことにする。これだけを考えていよう。

「そうですか?」

「ああ。ジェットコースター行こう」

「はい、…って、えっ!?」

「いつかは乗るから、早い方が良いだろ?」

「絶対なんですね…」

「ああ、勿体ないからな」

田原さんはあまり乗り気ではないもののちゃんとジェットコースターの行列まで着いてきてくれた。最後尾にて待つ。幸いあまり長くない行列だ。

「こ、このぶんだとすぐ乗れそうだ」

「そ、そうですね…」

「楽しそうだな」

「……」

田原さんが俺をわざとらしく睨み付ける。これもまた可愛いから鼓動が早まる。

「怖いのは最初だけ」

「そうだと良いんですけど…」

田原さんが終止乗り気じゃないまま俺達はジェットコースターに乗った。表情には出していないものの俺は物凄い恐怖心を抱いている。乗っただけで心臓が跳び跳ねそうだ。

「こ、怖いです…」

俺もだ。

「だ、大丈夫だ…」

「は、はい…」

隣に座っている田原さんに目をやる。今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。

悪いことをしたかな…。そんなことを思っている間にジェットコースターが動き出した。徐々に上へ上がっていく。正直この瞬間が一番怖い。俺は下を向く準備をした。

「「「キャー!」」」

最前列から悲鳴が聞こえる。もう落ちるのかと思った瞬間、俺はもう急下降していた。体のあらゆる部分がヒヤッとする。俺はすぐに下を向いた。ジェットコースターは忙しく上やら下やら右左に急加速で走っている。ふと、田原さんの事が気になったのでそちらに目をやる。

「いやー!楽しいです!」

めちゃめちゃ楽しんでいた。なんだか下を向いている自分が情けなく感じられる。いや、実際情けない。そんな思いを残して、ジェットコースターは終わりを告げるように止まってくれた。

俺はふらふらになりながらジェットコースターから降りる。田原さんも俺に続いてきた。

「楽しかったですね!?」

満面の笑みで興奮ぎみに語りかけてくる。

「そ、そうだな…」

俺はと言うと恐怖で足がブルブルと震えていている。強がってジェットコースター何かに誘うんじゃなかった。

「もう一回乗りませんか?」

「え、ええっ?マジで?」

「だ、ダメですか?」

そのような目で見られたらダメと言えるやつはいないだろう。しょうがない。

「わ、わかった。乗ろう…」

「ほ、本当ですか?では早速」

田原さんはそう言うと俺の手をとりジェットコースターの行列に向かう。その時、田原さんの手の感触に胸が高鳴ったのは言うまでもないだろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

結局あれから、ジェットコースターには五回ほど乗せられて、心身共に使い果たされた。しかし、そう言えるわけもなく、俺達は立て続けに巨大コーヒーカップやメリーゴーランドに乗ったりした。お化け屋敷もあったが、田原さんがどうしても無理というので諦めることにした。日も落ち、夕暮れの差し掛かった時間に今俺達はいる。時間的に考えても乗れるアトラクションは後ひとつ。それはもちろん

「じ、じゃ観覧車行こか」

「は、はい…」

そう、観覧車だ。皆帰る時間だからか、行列無しで乗ることができた。ゆっくりと上っていくことに妙な安堵感が味わえた。

「夕日綺麗ですね」

「そうだな」

俺は夕日に目をやった。そして、ここ数日の事を思い起こされる。あの日、田原さんが姉からアドバイスをもらった次の日から彼女には大きな変化が見られた。いつもは恥ずかしがってばかりであまり会話できないでいたのだが、なんとその日からは積極的に自分から人に話しかけるようになっていた。そして、俺はその日からだろうか。達成感と喪失感を同時に味わうようになっていた。というか、達成感は一瞬だけ顔を出し、後からは喪失感しかいないような状態だった。いや、今だってそうだ。しかし、すべてのものが終わりがあるようにこの気持ちも今日までだ。いや、違うな。今までだ。

「た、田原さん…」

「何ですか?」

「み、みちゅのアドバイス出来たから、四つ目のアドバイスゆ、ゆうよ」

緊張しているのか、さっきまで回ってた滑舌が悲惨なものになっている。

「あっ、はい…」

田原さんが真剣な顔を見せてくれた。

「そ、それは…」

嫌だ。言いたくない。そんな思いが俺の胸を締め付け、体を固くする。

だけど、やはり俺はそれに屈することは許されない。だから俺は――



「もう、俺に関わるな」


田原さんの真剣だった表情が徐々に崩れていき、悲しみの入り交じった笑顔を浮かべた。

「えっ…な…にを?」

「君は俺といるべきじゃない。なぜなら俺は「何を言っているのですか…」

田原さんの怒る顔ははじめてだ。

「俺は最低だし、皆から嫌われている。だから、俺といるだけで君も皆に嫌われてしまう」

さらに言うと、田原さんが俺といれば必ず田原さんに興味を持った男子生徒が嫉妬をおこす。そしてそれが原因でまた、いじめが起きてしまう可能性だってある。

「そんなこと「あるんだ」

「君の家族はそんなこと望んないだろ?」

「そ、そうですけど、でも!」

田原さんが急に立ち上がる。と同時に観覧車の中が少し揺れる。しかし、彼女はそんなことを気付きもしなかった。俺はそんな彼女を見ているだけでいる。

「他になにか方法が…」

と言って口ごもった。そう、田原さんだってわかってる。

「あるはずない…」

「そんな、…矢澤君ともう…関わらないなんて…」

田原さんの表情が俺を苦しめる。

「ごめん。俺が俺でさえなければ…」

「そんなこと…、言わないでください…」

田原さんの手が震えるのが見えた。

「や、矢澤君は…矢澤君は…それで良いのですか…?」

「………」

良いわけ無い…。俺はお前の事が好きだ。目が合えば胸が高鳴る。話すだけで一日中幸せな気分になれる。そんな君と離れたいなんて思うわけがない。

だけど、俺なんかといれば田原さんは不幸になる。

だから、

これしか言えないんだ

「それで良い」

「え…」

一滴の滴が地に落ちたのが見えた。そして、時間をおいて次々と涙が地面を濡らした。その涙が田原さんのものだと気づくのはかなり時間がかかった。そして、気づいた頃には彼女は俺の目の前から消えていた。辺りを見渡したが、見えるのは作り笑いをしている遊園地のスタッフがこちらに向かって手を振っている姿だけであった。そして、俺はもう一度あの夕日を見ることを強要された。





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