第八話~彼女の表情~
旅館に着き、部屋でくつろぐ。両親とよしえさんが何やら世間話をして盛り上がっている。姉と妹は早速風呂に入りにいった。手持ち沙汰になった俺は携帯電話を開く。ポチポチとボタンを押してゲームで時間を潰す。そう言えば携帯触ったのは結構久しぶりだな。最近彼女さがしで何かしら忙しかったからな。でも、もう心配しなくても良い。そう思うと解放感が押し寄せる。今まで学校では彼女を作るって意識していたから、妙に格好をつけてしまっていたが、これからは素の自分でいられる。まずは何より学級委員長をやめてやる。やってられない。
……ん?
やっていたゲームが途中で切れてしまった。
携帯の画面の右上に目をやる。
圏外だ。
しょうがない、移動しよう。俺は部屋を出て旅館の入り口付近に場所を移した。
ここの旅館はあまり人気がないのか、あまり人の出入りが無い。
まあ、ここなら人目気にせずゆっくりゲームが出来そうだ。幸い電波も良い。
俺は早速携帯を開いて、近くのベンチに座った。
「かずちゃん」
後ろを振り返るとよしえさんが、柔らかい笑顔をうかべながらで立っていた。
どうしたのだろうか。
「隣ええかね?」
「あ、はい」
よしえさんが、よいしょと言いながら俺の隣に座る。
「………」
しばらくの沈黙が流れる。
耳鳴りが聞こえるぐらいに静かだ。
「有明の事、どうおもっちょるかね?」
「どうって言われましても…」
「有明はええ子じゃよ」
「そうですか…」
知ってる。
「我慢強い子じゃ。ただ自分を出すのが下手くそなだけじゃよ。それが回りから気に入られんらしくて…」
よしえさんの表情がだんだん曇っていく。
「私はそんな孫の力になりたい、どうしたらええんじゃやろか?」
なるほど。
さすが家族だけあって、田原さんがここ最近苛められていたことに気がついていたようだ。
まあ、もとの原因は俺だけどな。
「何で俺に聞くんです?」
「あの子あまり感情を表に出さない子なんじゃ」
さっきも同じような事を聞いた気がする。
こいつ、ボケてるかもな。
「でも、あくまで私の意見。かずちゃんはどうじゃ?また聞くが、有明の事どうおもっちょる?」
「いや、結構表情豊かだと…」
「それが理由じゃ」
なるほど、理解できた。
どうやら、本当にボケているようだ。何を言ってんのかさっぱりわからん。
「まあ、そっすね。力になりたいんなら金渡せば良いんじゃないんっすか?」
めんど臭くなってきた俺は適当にさっきの質問に答えた。
「金持っとらん」
孫救う気あんのかこいつ。
「なら、あなたが彼女の一番の理解者になり、親友になれば良いんじゃないかと…」
「嫌じゃ。面倒くさいわい」
俺の人生最大の名案を軽くあしらいやがった。
「かずちゃん、私の代わりに有明の力になるんじゃ」
よしえさんの表情が気になった俺は彼女に目をやる。
「できる範囲で」
「そうかい、ありがとよ」
よしえさんが重たい腰をあげて、この場から立ち去る。
その背中に目をやり、さっきの表情を思い出す。
悲しみや悔しさの入り交じった、必死の作り笑い。
出来ないがために、自分でどうにかしょうと諦めて人に託さざるを得ない。そんな気持ちが写し出されていた。
そんな顔を見せられたら断れるわけがない。
面倒だが仕方がない。
田原さんをクラスの人気者にする。
そう難しい事じゃない。
姉から教わった3つの事をやりさえすればすぐに人気者になれる。
俺はなれなかったが、田原さんは確実に成功する。
早速明日教えてやろう。
俺は明日を楽しみにしつつ、旅館での一時を過ごした。
途中、親父が去年と同じところを、大怪我をしたこともあって、楽しい時間を過ごした。




