第八話~家族旅行~
ついに、家族旅行当日。
家族旅行と言っても、温泉で一泊するだけである。矢澤家では毎年の恒例行事。去年は、親父と一緒に女風呂を覗こうとして、男風呂と女風呂を分ける柵を登る事に見事に失敗し、全治3ヶ月の怪我を負った。
まあ、冷静になって考えてみれば、覗けたとしても家族と、おばあさんの裸しか見れなかったな。
あっ、そうそう。
おばあさんって言えば。
「んで?この方は誰なの?」
姉が俺の隣にいる女性を見ながら、聞いてきた。
「誰って、さっきも言っただろうが。俺の彼女だ」
「……嘘でしょ?」
何て失礼なやつだ。
「嘘なもんか。なあ、よしえさん?」
「へえ、私の名前は田原よしえでございます」
よしえさんが丁寧にお辞儀をする。
別に名前を聞いたわけじゃない。
「よしえさんは俺の彼女ですよね?」
「へえ、私の名前は田原よしえでございます」
もう、いい。
「と言うことだ。一万円寄越せ」
俺は姉に手を差し出す。
「どう言うことよ?あからさまにあんたの年の3倍以上はあるわよ、その人」
「愛に年齢は関係ナッシング」
おお、
よしえさん良い事を言う。
「全くその通りだ」
「ぐぐっ」
姉が歯を食いしばって、悔しがっている。良い表情だ。
「わかったわよ…」
姉が財布を取る。
「あれ?お金が入ってない」
それもそのはず。俺がついさっき盗んだからな。
「あんた、盗ったでしょ?」
姉が俺を睨みながら、聞いてきた。
「盗ってない。もしかして、今俺に一万円渡せないとか、はないよね?約束あるもんね?」
「お金はおっかねえ!!」
ちょっと黙らすか。
「よしえさん、今お薬の時間ではないんですか?」
「あっ、そうでござんした。ありがとうごさいます。ありがとうごさいます」
よしえさんが何度か、頭を下げると薬を飲みにいった。
よし、邪魔がなくなった。
「やっぱりあんたが盗ったんじゃない!今すぐ返して」
「証拠はどこにある?」
「そう言えばねえ、さっき、かずちゃんピンク色の財布からお金とっていたね」
「らしいけど?」
姉が勝ち誇った顔で俺を見る。
糞。
薬でも飲んどけばいいものを。お陰さまで俺の計画が大失敗した。
こうなれば、最終手段だ。
「金を返してほしければ、俺を許してくれ」
「どこまでいってもあなた屑なのね」
ちょっと傷付いた。
「どうする?」
「わかった。許したあげるから、お金返して」
「ああ。当然だ」
俺はズボンのポケットから、お金を取り出して、姉に渡した。
「何か、お札が臭いんだけど?」
「当たり前だ。それで、ケツ拭いたからな…」
「…………」
姉が呆然としている。
「よしえさんのな」
「あっそう…」
と言いながら、姉が金を財布のなかに入れる。
もう、どうでも良いらしい。
「固くてのお、痔になりそうになったんじゃ」
「あっ、そうですか…。
なんか、すみません…」
姉が本気で落ち込んでいるようだ。
何て言うか。
最高の気分だな。
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旅館まで車で移動する。運転席には、親父が、その隣には母親、後は姉、俺、よしえさん、妹の順で座っている。
「そろそろ聞きたいんだけど、この人誰なの?お兄ちゃん」
「俺のガールフレンドのよしえさんだ」
「ってことは、その、よしえさん?が腐女子の人なの?」
「ああ、そうだ」
「あの、よしえさん」
「へえ、よしえです」
「男同士の恋愛がお好きなのですか?」
妹がそんな事をよしえさんに聞いてくる。けど、まあ、大丈夫だ。
事前にこんな質問をされた時の対応方法を伝えてある。
少し照れながら、好きだと言うことだ。
「へえ、全く興味がございません。私は韓流が好きでございまして、特にサン様の大ファンでごぜえます。あの、つぶらかな瞳と、綺麗な肌でもう、私はメロメロでございます」
よしえさんが目をキラキラさせながら、語っている。
完全に忘れているな、これ。
「お兄ちゃんどういう事かな?」
「いや、まあ「そして、なんと言っても、あの眼鏡が素敵何です。コンタクトもええが、やはり、眼鏡が一番似合ってございます。昔はよく…」
俺の声を遮って、よしえさんが再び語り出す。
それを聞き流しながら、
ふと、この前の事を思い出す。
田原さんと賭けをして、やった人生ゲーム。
勿論、俺が勝った。
田原さんは、悔しいというか、残念そうな顔をしていた。
お願いを聞いてもらえなかったからであろう。そんな俺のお願いは、自分の気持ちを無視して田原さんを家族旅行に誘うことだった。
だけど、できなかった。勇気が出ない。だから、咄嗟に誤魔化した。茶化したのだ。一日田原さんのおばあちゃんを貸してくれと。俺は勿論冗談のつもりで言ったのだが、田原さんは真面目に取り合って、貸してくれたのだ。
まあ、その結果がこれだ。まだ喋ってるよこの人。
その後、よしえさんの話は旅館に着くまで止まることはなかった。




