第八話~偽りの言葉~
「お邪魔します」
「どうぞ、入ってください」
約束の時間の5分前、俺は田原さんの家に到着した。
一度来たことがあるけど、やはり、家でかいな。
回りを見渡すと、洋菓子がずらりと並んでいる。どれも、綺麗な形をしていて、美味そうだ。
「あ、あの…。こちらに…」
と言って、田原さんはレジの後ろにある扉へと入っていった。俺も続く。
扉を開けると、廊下が見えた。その廊下のつきあたりを右にいくと、階段がある。それを上って、直ぐ見える扉が、田原さんの部屋だという。
「ど、どうぞ…」
と言って、田原さんが扉を開ける。
入れってことらしい。高鳴る心臓を疑問に思いながら、俺は田原さんの部屋に入った。
うん。
予想通りだな。見事に何もない。ベッドと、物置しかない。
でも、まあ。
俺はこう言う部屋が好みだがな。
「適当なところに座ってください」
俺は、本能的に、部屋の隅っこに座った。田原さんは俺の前に座る。
どうしよう、何を話そうかな。何て余裕こいてられない。
心臓が死にそうだ。
それもそのはず。よく考えれば、今俺は、田原さんと二人っきりの状態だ。
「あ、あの…」
田原さんに目をやる。
「昨日は、どうでしたか?」
昨日?
あっ。
「ナンパなら、失敗した」
「そ、そうですか」
心なしか、田原さんが嬉しそうに見える。
人の不幸を、笑うんじゃない。
「でも、どうするんですか?」
そうだな。このままじゃ、ヤバイわな。家族旅行まで時が迫っている。
「や、やっぱり、わ、わわたし…」
「いや、駄目だ」
「そ、そうですか…」
田原さんが悲しそうな顔をする。
いや、だって、ほら。
あれだ。
本当に好きな人を彼女であると、家族に嘘つくのは洒落にならん。
何か、自分の願望が入ってるみたいで、気持悪くなる。考えただけで、ヘドが出る。
だいたい、田原さんが俺に好意を抱いているわけがない。その事実からしても、相手にいい迷惑だ。
「何とかする。だから、心配しなくていい」
「えっ、あ、はい…」
田原さんが更にしゅんとする。
「コンコンコン」
扉が叩く音が聞こえた。
「はい、どうぞ」
扉がゆっくり開かれる。
「あ、有明、お茶持ってきたよ…」
「お母さん」
この人、お母さんだったのか。田原さんと似ているから、姉かと思った。
「ここ、置いとくね…」
と言うと、田原さんのお母さんがゆっくりお盆を俺と田原さんの前に置いた。
「ありがと…」
「う、うん。矢澤君もごゆっくり…」
「あ、はい」
と言うと、田原さんのお母さんは颯爽と部屋から出ていった。
雰囲気まで、田原さんとそっくりだ。
「似てるね」
「はい。よく言われます…」
しばらくの間、俺達は無言でお茶を飲んだ。
静かな、だが、けして心地悪くない、空気が俺達を包み込む。
不思議と落ち着く。だが、依然と心臓の鼓動が止むことをしろうとしない。
お茶菓子を取ろうと手を伸ばす。田原さんも、手を伸ばしたが、気づくのが遅かった。
手と手が触れあう。
緊張が頂点に達したのか、体が硬直する。直ぐに退かしたいが、手が言うことを聞いてくれない。
何故か田原さんも手を退かさない。
「コンコンコン」
ノックだ。一気に緊張が抜けた。
何とか、手を退かす。
「あ、ひゃい。ど、どうぞ」
「おじゃまします」
と言いながら、龍神が部屋に入ってきた。
ナイス。助かった。
「龍神、どうしたの?」
「いやね。どうせ姉ちゃんの事だから、何もせずに、お茶飲んでんだろうなって思って」
図星だ。
「だから、これ持ってきた。二人でやって」
と言い出すと、龍神は手にもっていた、箱を床に置いた。
「何これ?」
「それは、いつか俺が家に女の子を連れてきたときに、やるためのゲームっす」
「未開封だが?」
「…………た、楽しんでね、二人とも」
と言うと、龍神が走って部屋を出た。
地雷を踏んだか。
箱の表紙を見る。
[イチャイチャ人生ゲーム]と書かれている。
絶対やりたくない。
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以外も以外。やってみると、普通の人生ゲームと変わらないじゃないか。
ちなみに、俺は今、パイロットになっている。田原さんは美容師だ。
このままいくと、俺の勝ちだな。ルーレットを回す。3だ。1、2、3っと。
…ん?
見たことない所についたな。どれどれ。俺は、自分の着いた場所に書かれている文字を読む。
カードをランダムに1つ取って、そのカードに書かれている行動を実施してください。出来ないのであれば、持ち金を全て、無くします。
「そこに、カードある?」
田原さんが箱の中をさがして、カードを取ってくれた。
「あ、ありがと…」
「いえ…」
それを受け取り、シャッフルする。
裏返しのまま、1枚取る。
金は渡さん。何でもしてやろう。
そのカードを表向きにして、田原さんも見えるように床に置く。
[右隣の人に、好きだと言う]
「はあ?」
「えっ?」
いやいやいや。無理無理。
何だこれ?ふざけるな。
「あ、あの…」
「い、いや、大丈夫。言わないから。心配しないでくれ…」
「言って下さい…」
「えっ?」
「言って欲しいんです…」
どう言うことだ?理解ができない。
でも、まあ。誰かに好きって言われるのは、嬉しいことだ。例え、俺なんかが相手でも。そういうことだろう。
「わ、わかった…」
「はい…」
心臓がうるさいのはもう、言うまでもないだろう。手が震える。
ありったけの勇気を振り絞る。
「す、す、好きだ…」
言えた。だけど、これがゲームなのは、残念でならない。
反応か気になる俺は、恐る恐る田原さんの顔を見る。
「えっ?」
どう言うことだ?
田原さんが涙を流している。
「え、えっと。何か、ごめん…」
「ち、違うんです。嬉しくて…」
誰かに好きって言われるのは、泣くほど嬉しいものなのか。分からない……
いや、何となくわかる。俺も田原さんに、好きの意味が違うものの、言われたことあるから。
自分の存在を認めてくれる。そんな、感じ。
「あの、さ…」
「は、はい…?」
「俺がこのゲームに勝ったら、1つお願い聞いてくれないか?」
「あ、はい。わかりました」
良かった。
「ただ…」
「ん?」
「私が勝ったら、私のお願いも聞いて下さい…」
「あ、ああ…」
田原さんのお願いか…。
聞いてやれそうにないな。
何せ、
俺が絶対に勝つから。




