第七話~気付いた気持ち~
翌日、俺は朝のHRに行かず、とある場所へ向かった。
ドアを三回叩く。
「入ってよろしい」
ドアを開けて、中に入る。
「失礼します」
校長が驚いた顔で俺を見る。
「どうした?HRには行かんのか?」
「校長、大事な話があります」
「あ、ああ。取り敢えず、座りなさい」
俺は一回深呼吸をしてから、校長の前の椅子に座った。
「で、どうしたんだ?」
「実は俺、苛められているんです。しかも、かなり酷く」
「ええっ!?誰にだ?」
「同じクラスの和累恩納さんにです…」
俺は、これまでとれた金の金額や、受けていた暴力、その他の嫌がらせ、全てを校長に話した。
「そ、そうだったのか。わかった。今後の処分は俺たち教師に任せてくれ」
俺に対する慰めの言葉は無しか。まあ、いってる余裕なんか無いわな。
「処分内容を詳しく教えてもらえませんか?納得したいんです」
「そ、そうだな。今は、まあ、厳しい教育指導を行って、それでも改善がみられないなら、自宅謹慎を命ずるつもりでいる」
どや顔で何言ってんだてめえ。
まあ、こんな対応で来るのは分かっていたことだが、やっぱり腹が立つ。
「それじゃ、納得できません。俺は、恐喝と暴力をずっと受けてきたんですよ?」
「って言われてもなあ」
校長の態度がでかくなっていく。
明らかに、もう俺の相手をすることを面倒くさがっている。大体、こいつの性格がわかってきた。
「助けてくださいよ…」
「そんなことを言われても、和累さんの人生もかかっているからな。我々教師は依怙贔屓は出来んのだよ」
笑わせるな。
「素直に言ったらどうです?」
「何だと?」
「あなたが守りたいのは、和累なんかではないんじゃないんですか?」
「…………」
「どうなんだよ!?」
校長が舌打ちをするのが聞こえた。
「臆病者め…」
校長が、キレたのか、机を思いっきり叩いた。
「ああ、そうさ。俺が守りたいのは学校の世間体だ。そんなヘビーなイジメ問題がこの学校で起きている事は、イメージ的に知られてはいけない。和累を、退学なんかにしてみろ。間違いなく、イジメが起きたことがバレてしまう。それだけは避けなければいけないのだ!!」
やっと本音出しやがったな。
俺は自然とニヤけた。
「何がおかしい?」
全てだ。
「どうしても、和累を退学にしないと?」
「申し訳無いが、そうなるな」
俺は、ポケットからカメラを出した。ボタンを押す。
「それだけは避けなければいけないのだ!!それだけは避けなければいけないのだ!!そ…」
再びボタンを押すと音声が止まった。
「お、お前。録画していたのか?」
「今の会話全部な」
校長の額から汗が流れる。
まだ、流してもらおう。
「それだけではない。和累が俺に恐喝している映像や、暴力をふるっている映像も録画してある」
「な、何だと?」
「俺はこれを持って、今から警察署に刑事事件として相談してきます。ただ、その際にどうせ警察の事ですから、まともに取り合ってもらえず教師に相談しろって言う事でしょう」
「そ、そうだ。どうせ「ただ…」
俺は、校長の声を遮る。
「俺には」
ボタンを押す。
「それだけは避けなければいけないのだ!!」
「これがあるんです。例え、これでも警察に取り合ってもらえない場合は、マスコミに連絡を入れます」
「マスコミがお前なんかに耳を貸したりするものか」
まだ、粘るのか。しつこい。
「そうですね。その可能性もあります。では、規模を小さくして、親を通じた口コミならどうでしょう?これだけでも、効果絶大。来年からの入学希望者が激減すること間違いなし」
「な、何が望みだ?」
ゴキブリ並みの記憶力だなこいつ。
「今すぐに、和累の退学。そして、今後のイジメへの徹底とした対策と、処罰を。それだけです」
「………」
「イメージダウンは避けられませんが、こちらの方がまだ、好感が持てると思いますが?」
「………わかった。言う通りにしよう」
何だ、その言い方は?俺はあくまで当然の事を要求しているだけだ。
こういう、自分の事しか考えられない教師がいるから、イジメの隠蔽や体罰がとどまることを知らないのだ。
本当、虫酸が走る。
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俺は教室に戻ると、奥地にこっぴどく怒られた。二度めの遅刻をしたかららしい。全く、こっちの苦労も知らないで。
「ピンポンパンポン♪えー、1年A組の和累恩納、今すぐに、校長室まで来なさい、以上」
授業の途中で、無機質な音が流れる。
和累が席を立ち、一回俺を睨んでから、教室を出た。
地獄へいってらっしゃい。苛めっ子さん。
「え、えっと授業を再開するぞ…」
暫く、授業が続くが、全く頭に入ってこない。数分が経った。教室の扉が開けられる。
そこには、何やら、すました顔の和累が立っていた。
「恩納、どうだったんだ?」
「へへっ。学校首になっちまった」
「マジかよ!?大丈夫か?」
「楽勝よ。なんとかなるって」
心底心配していないようだな。だが、今だけだ。最初の数日間は、ただの休みだと思い込むだろう。しかし、時が過ぎるにつれ、どんどん将来の不安が出てくる。また、高校に入れば良いが、同級生は確実に皆、年下。そんな、羞恥が苛めっ子ののお前にたえられるわけがない。だったら、お前のとれる道は、底辺の会社への入社か、家でニートすることだ。まあ、正直、お前がどうなろうと、俺の知ったことではないがな。俺の本来の目的は、お前が、もう二度と田原さんを傷つけないことだ。あの、泣き顔はもう見たくない。
和累が教室を出て行った。
あっ、そうそう。
「先生、トイレ行ってきます」
俺は奥地の返事を待たずに、教室を出た。走って下駄箱までいく。まだ、居たみたいだ。良かった。
「何だ、お前か…」
「ああ」
和累が怒りを堪えるように両拳を握る。
「どうしてくれんだよ!?あたしの学校生活!!」
「自業自得だろが、馬鹿。んな事より金返せ。退学どころの騒ぎじゃなくしてやろうか?」
和累は心底悔しそうに、歯を噛み締める。
アホが。これは、俺の優しさだっての。恐喝が警察にバレれば、就職何ぞ、一生出来んくなる。
「ほらよ!」
和累は財布から一万円札を出して、俺に投げつけた。
「校長から聞いたぞ。お前、カメラで撮影してたらしいじゃねえか。最初からあたしをはめようと…」
「…………」
「ふっ、その顔を見ればわかるよ。注意不足が敗因だったな」
屑が。
「そもそもの敗因は、お前が自分の優越感のために人を傷つけたことだ」
「あん?」
「まあ、言ってもわからないか。下らない人生を迎えることを刹那に祈っている。もう、会うこともない。永久にさようなら」
「ふんっ!」
和累はそっぽ向いて、もう二度と来れない、学校を出る。
よし、完了だ。全てが元通りに戻る。いや、全てではないな。俺は、暫くこの罪悪感に悩まされることになるようだ。当たり前だ。俺は最低なことをした。理由はともあれ、一人の人間の人生をダメにした。俺は、和累以上の屑だ。それは、間違いない。
色んな事が頭をよぎる。
もしかしたら、もっと他に方法があったのではないだろうか。それこそ、皆が笑って終われるような結末を。
でも、あったとしても、俺は気づくことなんて出来ない。
何せ俺は、屑だから。思い付くことなんてできるわけがない。
何なら、俺も一緒に退学になるべきではないだろうか?
そんな、疑問が頭から離れない。
罪悪感で胸がつぶれそうだ。
もう、二度とこんな事はしたくない。
誰かに、俺のした事を肯定して欲しい衝動に刈られる。
だが、当たり前だが、そんなことをしてくれる人、俺は知らない。
自然と涙がこぼれる。俺はその場にしゃがみこんだ。
次々と、涙の滴が、床に落ちて、形を崩す。
今度は後悔が俺を苦しめる。寒くもないのに、体が震えている。
瞬間、背中に温もりを感じる。一気に体の震えが止まった。
やめてくれ。
俺を、悪者のままにしてくれ。俺にはその義務がある。
俺は、背中の温もりを退かそうとする。
だが、逆効果だったみたいで、さらに強く、俺を抱き締めてくれた。
「は、離してくれ…」
「嫌です…」
「俺は最低だ。だから、離せ…」
「違います…」
このままじゃ、駄目だ。肯定されてしまう。それだけは絶対に…
「矢澤君はなにも悪くありません」
「や、やめろ…」
必死に、この場から離れようとする。
「私は今のままの矢澤君が好きなんです…」
次から次へと瞳から涙がこぼれる。体の力がが脱力する。
田原さんはさらに俺の背中を強く、抱き締める。とてつもない安心感を感じる。
「ありがとう…」
「あっ、はい…」
やっとでわかった気がする。
どうやら、俺は
田原さんの事が好きみたいだ。




