第七話~本当の悪~
今日の授業が全て終わり、帰る準備をする。
「あ、あの…」
後ろから声をかけられる。
まさか…
「顔、大丈夫?」
喧嘩売ってんのか?
「殴られていたから」
なるほど。
「う、うん」
「そっか。でも、ここ最近頻繁に殴られて、お金取られているよね」
ちょっと、目立っていたようだ。
「だ、大丈夫。アイツとは恋人同士だから…」
「えっ、そうなんだ!知らなかったぁ」
まあ、端から見りゃあ、ただいじめられているだけだもんな。
「でも、心配だなあ。精神的に辛くない?」
「大丈夫。これを機に学級委員の仕事サボったりしないから」
「なら、安心した♪」
何か…
清々しいな。
そう言い残すと、山口さんは自分の席に戻った。
弁当箱しか入ってない鞄を肩に掛ける。
「あ、あの…」
再び、後ろから声をかけられる。
また、山口さんかな?
いや、奥地の可能性も否めない。何なら、奥地の可能性が八割以上だ。
この野郎。もう引っ掛かったりしない。
俺は怒り狂った目で、声のした方へ振り向いた。
「ひぃ!」
その人が一歩下がって、逃げ出そうとする。
「ま、待って」
ここで止めなければ、もう二度と話せない。そう感じた。
「は、はい…」
懐かしい声だ。
「話し、あるんだろ?」
「はい…」
依然、田原さんは下を向いたまま、動こうとしない。
なるほど。久しぶりでも、まだ勘が冴えているみたいだ。
「い、一緒に帰る?」
田原さんが頷く。
俺達は、学校を出て、一緒に下校する。
歩くこと十分、無言のままとある公園の前に着く。田原さんがその公園にはいって、汚いベンチに腰かけた。俺も続いて、田原さんのとなりに座る。
久しぶりの緊張感と、少しの不安がわいてくる。
そんな感情に耐えること、十分。
「や、矢澤君!」
やっと田原さんが口を開いてくれた。
「ん?」
田原さんが何やらモジモジしている。
今度ばかりは、感情が読めない。
「ごめんなさい…」
消えかかりそう、だが、しっかり聞こえる声で田原さんが謝る。
何を言ってんだ。
「謝るのは、こっちの方だ」
「違います。私です」
いや、わからん。全くもって意味不明だ。
「私、苛められていたんです。それも、つい最近の事です」
そうだな。勿論、知っている。
「その苛められていた原因ってのは俺だ。だから、俺が謝らないと…」
俺は頭を下げようとする。
「謝らないで下さい」
田原さんに止められた。
「私、あの時嬉しかったです…。
だから、謝らないで下さい…」
全くもって、本当にわからない人だ。
「なら、田原さんが謝ることってなんだ?」
田原さんが、泣きはじめた。
見たくない顔だ。
「わ、私、苛められている、無様な格好、矢澤君には見せたくなかったです…」
なるほど。
「それで、俺を避けた?」
「は、はい…」
田原さんがさらに涙を流す。
と同時に、底知れぬ怒りがわいてくる。
「許してくれないと思いますけど、本当にごめんなさい、矢澤君…」
本当。
見たくなかった。
「馬鹿が…」
大体、何で苛められている人がこんなに苦しんで、いじめている人は、楽しむ世の中なのだろうか。多少の罪悪感を押し殺せば、とてつもなく、くだらない優越感に浸れる。何なら、苛めていることは、場合によっては、ひとつのステータスとして、扱われることだってある。
だが、苛められている方は違う。
一生治らない、癒える事しか出来ない心の傷をおわされる。将来的に考えても、苛められていたことが自分の自信の損失に繋がり、人間関係が発達しないってこともあり得る。そうなれば、最悪の場合、高校という監獄から、脱け出せたとしても、また、別の場所で苛められることに繋がる可能性がある。
理不尽すぎる。
どっかの誰かが、言ってたが、苛められる方も悪い。
否定は出来ない。
だけど…
「田原さんは悪くない…」
「…えっ?」
だけど、肯定もしてやらない。
やっぱり、
俺は苛めるやつが悪だと、確信する。




