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第六話~待望したもの~

「ては、次のニュースです。昨夜9頃、川に女性用下着や、靴下が大量に流されるという事件が発生しました…」

今日俺は珍しく早起きをして、朝のニュースを見ている。

おおっ。良い感じに、姉の下着達が川に流されているな。録画しておけば良かった。

「一人、私の下着知らない?靴下も無いんだけど…」

「知ってるわけないだろ」

姉が寝起きの頭を掻きながら、リビングに入ってきた。

「何見てんの?」

姉が俺の方に近づき、テレビを見る。

「目撃者によりますと、犯人は奇妙なメガネをして顔を隠していた模様です」

目撃者何ていたのか。危ない。

「何か、変な事件ね」

そうだな。

「しかし、その数時間後、矢澤一人くん(15)が、川の異常を発見し、直ちに下着を回収した模様です」

「えっ?それってあんたなの?」

姉が驚いた顔で俺を見る。

俺はあえて反応せず、テレビを見続けた。

「そんな彼に、インタビューをしてみました」

おっ、きたか。

「今回の事件の事を、どう言うふうにお考えですか?」

テレビの中でアナウンサーが、俺に聞いてくる。

「全くもって、不愉快ですね。自然を汚すなんて、なんて罰当たりな…」

さすが俺。良いことを言う。

「そうですよね。そんなことをした犯人に一言言ってくれますか?」

「勿論です。おい、そこの下着流し野郎。もっと、自然を大切にしろ。お前が出来る償いは自首することだけだ。良いか、もう一度言う。自首しろ!」

嫌なこった。

「あんた、良いこと言うわね。何か、見直したわ」

「見直すの遅いわ。俺は、人間にも、自然にも優しい男だからな」

「素敵ね」

姉が今まで、見たこともないような笑顔を俺に向ける。

良く笑っていられるな。今、映像で流されている下着が自分のものだとも知らずに。不憫なやつだ。

「じゃあ、そろそろ行く」

「うん、行ってらしゃい」

俺は、鞄を取り、学校へ向かった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「え~、今日集まってもらったのは他でもない」

学校へ行ったら、何か緊急に全校集会が開かれた。今、集まった生徒たちに、校長がマイクを持って話している。

「わが学校の、1年A組の矢澤一人君が素晴らしい行いをした事を伝えるためだ。では、彼に一言言ってもらいましょう。矢澤君前へ」

マジか…。何でこうなった?

まあ、いいや。適当なことを言って早く終わらせよう。

俺は、校長の隣までいった。

「宜しく」

校長が俺にマイクを手渡す。

「僕は当然の事をしたまでです。好きな町の川が汚れていたから、綺麗にした。それだけです」

何故か俺は、緊張が最高潮まで達すると、逆に冷静になれるのだ。

「素晴らしい、の一言だ。皆、そんな彼に大きな拍手を」

全校の生徒から、拍手をあびる。

言葉にできない感情が沸いてくる。

もとあと言えば、俺が悪いってことをすっかり忘れそうだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ヤバイ、これは非常にヤバイ状況になってきた。俺は今学校で、会う人、一人一人に誉められる。

罪悪感が押し寄せる。だが、まあ。どうでも良いか。知ったことではない。

「キーンコーンカーンコーン♪カーンコーンキーンコーン♪」

四時限目が終わり、昼食の時間になった。

いつも通り、田原さんが俺の机の上に弁当箱を置き、俺の前に座った。

「矢澤く~ん、弁当一緒に食わね?」

突然、頭の(ゆる)そうなやつが、俺に話しかけてきた。

言っておくが、こいつは女子だ。

「そうそう、一緒に食おうぜ」

今度は男だが、こいつもまた、頭が緩い。要は、あれだ。俺は今、このクラスで一番人気の集団に飯を誘われているわけだ。この集団にもちろん、山口さんが含まれている。

さあ、どうしたものか。

一番人気の集団だもんな。

仲間入りしとけば、俺の理想の学園生活に近づけるかもな。

例えば、そうだな。

もう、二度と誰?と言われたり、山田やら太宰治と罵られたりすることもなくなるだろう。休日には、1人寂しくでゲームではなく、待ち望んだ、友達とゲーセンやらカラオケやらに行けるかもしれない。

何より、友達が出来る。

孤独からの解放。

妙な高揚感が俺のなかで沸き起こる。




決まりだな。

俺は悲しそうな田原さんの顔を無視して、口を開けた。



「断る」

だけど、理想は理想だ。今の現実を失ってでも、手に入れたいものではない。

「はぁ?あたしらよりこいつを選ぶわけ?」

頭が緩そうな女が田原さんを指さして、俺に向かって叫んだ。

なに言ってんだこいつ。

「当たり前だ。見ず知らずのてめえらと田原さん、比べるまでもない」

ああ。めっちゃ恥ずかしい事を言ってしまった。死にたい。

「おめえ、覚えとけよ」

「調子乗んな、クソが…」

と言って、あたま緩女と男が去っていった。

超怖い。明日から俺、絶対苛められる。確信した。

「あの…」

田原さんが真っ赤な顔で俺に話しかけてきた。

俺は、田原さんに目をやる。

「よ、良かったんですか?」

ここで、カッコいいことを言えれば良いが、今の俺には田原さんに目をやるのが限界だ。返事の代わりに、頭を縦に振る。

良かったのかと言われれば、まあ、良かったんじゃないかな。

だって、アイツらは、ただ、俺を話題にしたかっただけだろうから。テレビ番組で言うゲストというやつだ。

胸くそ悪い。

まあ、断った理由は、これが3割ぐらい。

残りは、そうだな。

俺に向けられた、この笑顔を見るためなのかも知れない。








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