第六話~たのみごと~
「あ、姉にさ、嫌がらせするんだけど、何が良いと思う?」
「え、えっ?」
俺は、いったん箸を机の上に置いた。ちなみに、今は昼食の時間だ。
「な、何でも良いよ」
「そ、そうですね。何でそんなことをするんです?」
何でって、そりゃあ…
「ア、アイツが、俺の頭にワニの口を押し付けたり、ベッドの上にハブやら、アナコンダを乗せたりしたから」
「…………」
田原さんが驚き呆れている。
だけど、はっきり言って、んなもんは日常茶飯事と言って良い。
「なんか、提案はないか?」
田原さんが考えるそぶりをする。
しばらくすると、なんか閃いたのか、口を開いた。
「く、靴下をひとつ隠すと言うのは…?」
なにそれ?
可愛い。
「そ、そうだな。逆に、靴下全部捨ててやるか…」
「えっ…」
でも、どうやってやろうか。
姉が部屋に居ないときに、靴下を盗む。…ダメだな。妹やら、母といった家族の人に俺が姉の部屋に入ったことが目撃されれば、間違いなく俺が犯人だってバレる。そういう時の姉の恐ろしさは異常だ。命が惜しい。
……なら、
「た、た田原さん、協力してくれん?」
「は、はい?」
「き、今日家に来てくれ…」
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「ただいま」
「お、お邪魔します…」
俺と田原さんはリビングへ入った。
「あら、一人お帰り……えっ?」
「お邪魔します。田原有明といいます…」
「ア、あ、ああなた!!あなた、一人が家に女の子つれてきたわよ。早くこっちに来て!」
「なんだ、一人の女ごときで。俺は今からホモビデオを………ん?」
親父がめんどくさそうに、リビングに入ってきた。田原さんと目を合わす。
「美人だと……。お、おい!有紀!!有紀こっちに来い!」
「何よ…。今、あなちゃんに餌やってて………」
今度は姉がリビングに入ってきた。
ちなみに、あなちゃんとは例のワニである。
「友~!!友、今すぐ来て!!一人が、一人がっ~!」
「何…?今、宿題してて忙しいしんだけど…。あれ、田原さん、いらっしゃい」
「あ、はい…」
田原さんがペコリと頭を下げる。
「とりあえず、座って。え~と、有明ちゃん?今、お茶持ってくるから」
母はそういい残すと、キッチンへと向かった。
「友、この子誰か知ってるの?」
「うん、近くに大きい洋菓子屋さんあるでしょ?そこの人なの」
「ほう、そうだったのか。まあ、自分の家だと思ってくつろいでくれ」
「は、はい。すみません…」
こいつ、美人だと態度変えるんだよな。って言うか、何か髪増えてないか?
いつカツラ付けたんだよ。
「にしても、一人が家に女の子をつれてくる日が来るとはね。男の子すら、連れてきたことがないのに」
余計なことを…
「そうなんですか?」
「うん。だってこいつ、生まれてから友達1人も作ったことないもん」
姉貴のやつ、どうやら俺を潰しにきているな。反論しなければ、田原さんに誤解されてしまう。
「アホか。幼稚園の時、ちゃんと友達いたわ。なんなら、彼女だって作ったことあるぞ?」
「ウソね」
「嘘じゃない。幼稚園の粘土授業の時、山田くんと力を会わせて、キリンを作った」
どうだ?立派な友情関係だろ?
これぞ青春。
「確か、私その次の日、山田くんのご両親の所に謝りに行ったわ」
母が、田原さんにお茶を渡しながらそんなことを言ってくる。
「な、何でだ?」
「あなたと粘土でキリンを作った後、蕁麻疹がでたらしいのよ。相当、無理してあなたと一緒にいたのね」
やばい。
泣く…
「そ、そんなことはどうでも良いんです!!矢澤君は彼女を作ったことがあるですか!?」
田原さんは急に立ち上がった。
「ど、どうでもいい…」
何てことを言うんだ。多分俺は今、人生で一番落ち込んでいる。
「あっ。す、すみません…」
冷静になったのか、田原さんは顔を真っ赤にしながら、再び座った。
「これもどうせ嘘よ」
「ああ、嘘だ…」
「まあ、そうだろうな。お前が友達出来るわけがない。そうであると願って、名前を一人にしたからな。わはははははっ!」
な、なんてやつだ…
何故母はこの名前にすることを止めなかった。
どうやら、今度は母に復讐しなければいけなくなったみたいだ。
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リビングが、何やらワイワイしていて楽しそうだ。何より。
俺は今、姉の部屋にいる。家族全員の注目は田原さんにいっているため、俺がここにいる事は絶対にバレない。
トイレ行ってくると言って、リビングを抜け出したから、あまり時間がない。早速作業に取り掛かろう。
俺は押し入れから、姉の靴下と下着全部、持ってきた袋に入れた。
さっきので、復讐の内容がちょっと重くなったのだ。
よし、ずらかろう。俺は姉の部屋から出て、自分の部屋に移動した。ベッドの下に袋を隠す。その後、これを外に持っていき、全部川に流す。そうすれば、任務完了だ。
俺はリビングに向かった。扉を開ける。田原さんと目を合わせて頷く。作業完了の合図だ。
「そ、それでは、私そろそろ…」
「そうね、時間も結構遅いし。一人送ってあげなさい」
「ああ」
「また来てね。有明ちゃん」
「またね」
「バイバイ」
「気をつけて帰るんだよ」
「は、はい。今日はありがとうございました…」
田原さんが頭を下げる。
その後、俺は田原さんに今日のことの礼をいいながら、彼女の家まで送ってやった。
「あ、あの…」
俺が帰ろうとすると、田原さんに呼び止められる。
「こ、今度は…」
田原さんが赤い顔を下に向けている。
どうやら、どれだけ待っても、次の言葉は出てこないらしい。
「こ、今度、田原さんの家に行って良い…?」
「えっ…。あっ、はい…」
良かった。
これで合っていたようだ。
「本当、今日ありがと…」
「い、いえ。またいつでも…」
ああ、そうだな。
どうせ、また近いうちに同じようなことを母親にしかなきゃいけないし。
その時また、頼むとするか。




