第六話~家庭部体験入部~
放課後、俺は家庭部の体験入部とやらをしに行った。集合場所は、家庭部の活動場所である、調理実習室。長めの机が、六個並べられていて、椅子も準備されている。
俺は適当な椅子に座った。回りを見渡す。やはり、文化系の部活だけあって、女子が多い。と言うか、男子は俺しかいない。すごく気まずい。
ちょっとキョドっている俺を田原さんが心配そうに見ている。ちょっと、情けないな。しっかりしなければ。俺は大丈夫と言わんばかりに、笑って見せた。
「矢澤君、嬉しそうです…」
と言いながら、田原さんがちょっと落ち込んでいる。
糞っ。
笑顔が足りないのか。
「ふふ、ふふふっ」
今度は、ちょっと声を出して笑って見せた。もちろん、恥ずかしいから、目は合わせていない。
「……」
田原さんがさらに落ち込む。
ダメだ。よくわからん。女心ってのは、俺には複雑すぎる。
「こんにちは。私は、家庭部部長の綾里溺瑠代です。今日は集まってくれてありがとうございます。早速ですけど、机の上にある、エプロンを着服してください」
俺と田原さんは机の上にあるエプロンを着服した。
と同時に、回りの人たちも、着服を完了したようだ。それを確認した、綾里さんが、再び口を開く。
「今日は体験入部と言うことで、簡単なものを作っていただきたいと思います。野菜の煮浸しです」
すごいな。このひとぜんぜん噛まねえ。その才能ほしいな。
「レシピは黒板に書いてある通りです。質問がある人は、私を含めた家庭部部員に声をかけてください。基本的に部員には名札をしてもらっていますので、判断できると思います。では開始してください」
俺は黒板を見た。
1、野菜をダーと切る。
2、それを何分か塩水に付ける。
3、熱い油にぶちこむ。
4、油を近くにあるトイレからトイレットペーパーを持ってきて、それで拭き取る。
5、つけ汁に入れて召し上がれ。
なんだこれ?質問しかねえよ。
俺は質問をしようと、名札をつけている生徒を探した。
おっ、一人いた。けど、ダメだな。
あいつ、今携帯ゲーム機で遊んでいる。話しかけられない。俺は次の人を探した。ん?いたけど、こいつもダメだな。今、俺のとなりにいる田原さんをナンパしている。
残念だ…。
男子は俺だけじゃないじゃないか。
こうなったら、一番まともそうな、綾里部長に質問してみるか。
俺は、綾里部長のいるところに目をやる。ああ、なるほど。そういうことか。
綾里部長は、タバコとビール瓶持ちながら、競馬の中継をラジオで聞いていた。もちろん、赤い鉛筆を耳に挟んでいる。
どうやら俺は、ヤバイところに来たらしい。
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とりあえず俺は、野菜を全部、みじん切りにした。多分これであっているだろう。
よし、その次が、塩水に付ける。俺は、器に水道水を入れた。塩を探す。
………ないぞ。まいっか。
俺は、塩の代わりに鼻くそを入れた。
だが、足りないな。これじゃ、野菜はしょっぱくならない。俺は、綾里部長に近づいた。
「質問なら、受け付けんぞ」
「いや、違います。鼻くそ下さい」
「ああ、鼻くそね…」
部長は鼻をほじりはじめた。
「ん?」
いきなり、部長が鼻をほじる動作をやめた。
早くしろよ。料理が出来ないじゃないか。
「何で鼻くそがいるの?」
「塩水を作るためです」
「なるほど…」
綾里部長は再び鼻をほじって、鼻くそを出してくれた。
「次からは、塩持ってこいよ」
「はい」
よし、これで美味しいの作れるぞ。俺は早速、鼻くそと野菜を水に入れた。
しばらく、放置したほうがいいわな。
そうなってくると、暇になる。回りを見渡す。あんなに、入部希望者がいたのに、今では誰もいない。俺とナンパされている田原さんを除いて。
まだやってんのかよ。はよ、手伝わんか。じゃないと、食わせてやらないぞ。
「俺、超君タイプなんだよね」
「……」
「今度、映画行こうよ」
「……」
「遊園地でもいいよ」
「……」
「なんなら、俺ん家来る?」
「……」
こいつ、ハート強いな。俺なら一回無視されただけでもう、一ヶ月は夜な夜な、枕を涙で濡らす自信がある。
それが例え、相手が母さんでも。
そうこうしているうちに、野菜の準備ができた。俺は、あらかじめ温めておいた、油に野菜をぶちこんだ。
ジュワジュワと良い音をたてている。
しばらくすると、沈んでいた野菜たちが、良い揚げぐわいに浮いてきた。
俺は、一個一個箸でつかみ、皿にうつした。この作業だけで約30分かかってしまった。よし、次はトイレットペーパーだな。だけど、取りに行くのは非常にめんどくさい。俺は、再度綾里部長の元へ歩み寄った。
「また、君か。今度はなんだ?」
「パンツ貸してください」
「はいはい、パンツっと…」
部長はスカートの中に手を入れて、フリーズした。
いちいち面倒くさいやつだな。さっと出来んのかね。
「な、何でパンツがいるんだ?」
「油を拭き取るためです」
「なるほど…」
綾里部長はパンツを脱いで、俺に渡そうとする。
「な、何してるんですか?」
後、数センチパンツに触れるところで、田原さんに止められた。
糞。後、少しだったのに。大人しく、ナンパされてりゃ良いものを…。
「ティッシュ持ってますから、これで油取ってください」
俺は、田原さんから、ティッシュを渡された。
なんか、ちょっと、怒ってる?
相当、ナンパがしつこかったんだな。
俺は、貰ったティッシュで野菜の油を取った。次は、最後の作業。つけ汁に入れる。幸い、つけ汁は用意されているようだ。俺は、つけ汁と書かれている、醤油瓶を手に取って、野菜にかけた。
おおっ、はじめての料理の完成だ。
俺は、ちょっと泣きそうになる。なんと、素晴らしい出来ばえであろうか。この、醤油から浮かぶ野菜の粒々が、なんと神々しい。まるで、夜空に浮かぶ、眩しく輝く星のようだ。
俺は、これを食いたくないから、部長に試食を頼むことにした。
「しょっぱいなこれ。って言うか、醤油の味しかしない」
やっぱり、そうか。
「でも、よく最後まで、頑張ったな」
と言って、綾里部長が微笑んでくれた。
瞬間、俺の胸は、充実感で満たされた。なるほど、これがやりとげるというやつか。
新たな感情と共に、俺は、入部を決意した。
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学校の帰り道。田原さんと並んで帰宅する。後もう少しで、田原さんん家に着く。ここに来るまで、一切の会話がなかった。と言うか、田原さんは帰宅の間ずっと、膨れっ面のままである。全くもう、あのナンパ男、どうしてくれるんだこれ。
「そ、そんなにナンパが嫌だったのか?」
「………」
おっと。
今夜俺の枕が濡れることになるな…。
「違います。矢澤君に怒ってます…」
「お、俺はナンパしてないぞ…」
なんなら、今日、話しかけたのだって、今のが初めてだ。
「た、助けてくれなかった…」
なるほど。
やっぱり、全然わからん。
けど、あれだな。こんな顔されるぐらいなら…
「つ、次から絶対、助けるから…」
「は、はい。お願いします…」
あの時、助けてほしかったのか。
ナンパ男、結構イケメンだったし、女ってのはイケメンが好きな生き物じゃなかったのか。
本当、女心は一生かかっても、わかりそうにない。
まあ、理解するつもりも、毛頭ないが。




