第五話~硬い意志~
その後、俺はお礼として、持っていた200円で、ヘンテコな猫キーホルダーをゲーセンで取って、田原さんに渡した。何故か、田原さんも同じゲームをして、100円で、同じものを取って、俺に渡してくれた。
くすぐったい気持ちのなか、俺達は、それぞれの家へと帰宅した。
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翌日、日曜日。
なんて良い日なのだろうか。土曜日と違って、絶対侵される事のない休日。
一呼んで、絶対休日。俺は、その名のままに、今日は一日中休む。寝るのだ。絶対布団から出ん。そう心に誓う。
「一人~。ご飯よ」
早速、妨害が来たか。
「何をしてるの。早く起きなさい」
「今日、飯いい」
「なんで?調子悪いの?」
「いや、今日は色々あって布団から出られないんだ」
「あっそう。何があったか知らないけど、ほどほどになさい」
そう、言い残すと、母は俺の部屋から立ち去った。
しかし、あれだな。腹減ったな。もうやめるか…
って駄目だ。ここで諦めたら、普段通りの俺。自信のついた自分になるためには、我慢強い男にならねば。今日は、一歩もここから動かんぞ。
「お兄ちゃ~ん」
また、新たな妨害が出てきた。しかも今度は強烈だ。
「何してるの?ご飯だよ。行こっ」
「すまん。今日は布団から出られない」
「えっ、何で?」
「俺は、自信をつけたい。そのためには、我慢強くなる必要があり、ここから一歩もでる事ができないんだ。すまんが、一人で行ってきてくれ」
心苦しいが、そうしてくれ。
「あっ、ごめん。聞いてなかった。それより、早く行こっ?お腹すいた」
駄目だ、こいつ。俺の話なんて聞きやしねえ。こうなったら、奥の手を使うか。
俺は、そっと呪文を唱える。
「ハゲ…」
「えっ、何か言った?」
足音が次第に大きくなって、俺の部屋に近づいてくる。バーンと部屋の扉が開かれて、あいつが来た。
「お、お、お父さんは、は、ハゲているわけではないぞ?ただちょっと、毛が細いだけだからな!勘違いするな!」
おっ、来た来た。俺の使い魔が。
「って、友。お前、こんなところで何をしているんだ?」
「お兄ちゃんを起こしに…」
「おおっ、友は優しいな。けど、こんなやつに気を使うことはない。こいつは、ただ飯食らいの居候だからな。お前とは違う」
今のはさすがに、グサッと来た。絶対許さん。
明日学校から帰ってきたら、こいつの服、全部肥溜めに漬け込んでやる。
「さあ、行こう」
「う、うん。お兄ちゃんも早く来てね」
二人は俺の部屋から出ていった。
ふぅ。やっと去ったか。やっとこれで、安らかに眠れる。
俺はそっと目を閉じた。
「ぷ~」
ん?屁の音だ。俺が無意識に出し…
「臭っ!」
目を開けたら、ケツが見えた。
何故だろう。俺はどうやら、一番の強敵を忘れていたようだ。
「一人、布団から出られないんだって?」
地震、火事、雷、親父?こいつと比べれば、なんて事無い。世界で一番恐ろしいのは、うちの姉だ。
「友から聞いたよ~」
なんて事を。どうしよう…
もう一度、俺の使い魔を呼ぶか。
…いや、意味がない。親父も、姉の恐さを充分に理解している。使えない。
「ね、姉ちゃん、ど、どうした?なんでここにいる?」
姉はニヤリとした。
愚問だったな。
「いや、ほらね。布団から出られない一人が暇しないようにと、色々持ってきたんだ」
姉は持っていた、段ボール箱を床に置いた。その時、箱の中から、スタンガンがポロっと落ちた。
「お、お母さん!!お母あさんっ~!!」
た、助けてくれっ。まだ死にたくないんだ。
「無駄よ~。母さんなら、買い物に出掛けたわ。勿論、父さんと友を連れていったわ」
やだやだやだ、死にたくない。死にたくない。
何か手はないのか?
「い、いいのか?俺にそんなことをして…。唯一のパシりがな、無くなるんだぞ」
「妹がいるもの♪」
もう駄目だ。終わった。ほら、見てみろ。姉が嬉しそうに俺のベッドの上に、箱から出したワニをのせている。
ん?ワニ?
「うわぁ~!どっから、取ってきたっ?」
「うん?さっき、ペットショップで買ってきたの」
どうしよう、どうしよう!
そうだ、布団から出ればいいんだ。
………駄目だ。耐えるんだ。これも試練なんだ。
「このワニダメね。全然噛まないじゃない。えいっ」
掛け声こそ可愛いが、姉は俺の頭にワニの口を押し当てている。
「ほ~ら、餌だよ。いっぱい食べて~」
幸、ワニは口を開く気配がない。
それを察したのか、姉はワニを退かしてくれた。良かった、死ぬかと思った。
「よし、次は…」
姉はまた、何か段ボールから取り出す。まだ何かあるのか。
「これだね♪」
駄目だ。ハブは洒落にならん。警察に通報するしかない。俺は、携帯を探す。
「無駄だよ。携帯ならここにあるから」
何故か、俺の携帯が姉の手中にあった。
「けど、安心して」
まさか、許してくれると言うのか?
「アナコンダもあるから♪」
俺は、我を忘れて部屋から飛び出した。
あいつはイカれてるぞ。精神科とは言わず、牢屋に行った方がいい。それが、世のため人のためになる。
「おはよ、お兄ちゃん。やっとベッドから出てきたね」
ん?どういう事だ?部屋を出て直ぐ、両親と妹がそこに立っていた。
「なんだこれ?」
「一人が、部屋から出るようにしてと、有紀に頼んどいたのよ」
母が丁寧に説明してくれた。
なるほど。そう言うことか。でも人選ミスだな。何せ、あともう少しで、二度と部屋から出られない状態になっていたから。
「部屋から出ないとダメよ。一人」
姉が、アナコンダを持ちながら言ってくる。
もう、二度としない。そう言ったが、やめだ。
絶対倍にして返してやる。俺の復讐心に火がついた。




