第四話~会話終わりの微妙な雰囲気~
午前中のダルい授業を乗り越えて、俺は今、田原さんとお昼一緒している。
前回の反省を踏まえて、時計を確認する。OK、いける。
「た、田原さんは、部活何にしゅる?」
噛んだけど、こんなもん誤差のうちだ。
「え、えっと…。家庭部かな…」
「そ、そうなんだ…」
俺のアホ。他に返し、いくらでもあるはずなのに、つい癖で会話を終わらせてしまう。
「うん…」
ほら、会話終了。
にしても家庭部何てあるんだな。何をするんだろう。聞きたいが、会話が終わった時のこの雰囲気に口を開くのは、至難の技。何とかしてこの雰囲気を壊したいが、俺にそんな事が出来る訳が…
いや、いいことを思い付いた。
軽くむせて、小さく咳をする。
そうすると、たちまち田原さんが大丈夫かと聞いてくるはずだ。その時点でもう、この気まずい雰囲気を壊せる。そのあとに、笑いながら、田原さんも、むせたりする?なんて聞くわけだ。すると、田原さんは当たり前ですよって言いながら笑ってくれるに違いない。そうなるともう、俺のペースだ。
…よし、早速実行しよう。
俺はむせるために、コッペパンを小さくちぎり、口の中へ放り込む。噛まずに飲み込んだ。
…………ダメだ。小さすぎたようだ。もっと大きくちぎろう。今度は、饅頭並みの大きさにした。
これなら、むせるに違いない。俺はそれを口に放り込む。結構なサイズだな。まあ、いい。むせるためだ。
俺は再びパンを飲み込んだ。
おっ?むせそうだ…
むせ…
「ぐっ!!!」
ヤバイ、死ぬ!!息ができん。
「がぁっ!!」
「え、えっ?矢澤君、だ、大丈夫?」
ほら、聞いてきた。予想通りだ。よし、気まずい雰囲気は無くなったな。
けど、その代わりクラス中が変な雰囲気になっている。
「お、おい…。あれヤバイんじゃないのか?」「そ、そうだな。あの苦しみかたは尋常じゃない…」
まわりから、そんな声が聞こえる気がする。気がするってのは、あれだ。俺もうだめみたいだ。もうあと少しで、完全に意識がなくなる。
「ぐっ!」
俺はあまりの辛さに、反射的に頭を下げた。すると、勢いよく机に頭を叩きつけて、机の上にあった俺と、田原さんの弁当がちゅうをまって、床にばらまいてしまった。俺は、ぶつけた頭の痛さと、息苦しさで涙を流した。
なるほど。よく分かった。
これが俺の…
死に様だ。
生きることを諦めていると、田原さんがいきなり俺の後ろに回って俺に抱きついた。
おお、これが女の子の感触か。死ぬ前に知れて良かった。
「がぁっ!!」
急に、田原さんが両腕で俺の腹部を締め付けた。
「えいっ!」
「ぐうっ!」
何をしているんだこいつは!?
ばらまいた、弁当の仕返しか?
「えいっ!」
「ぐふっ、ごわぁっ!」
田原さんがもう一度、俺の腹部を締め付けると、俺の口の中から勢いよくパンの塊がふっ飛んだ。
「痛っ!」
どっかにいる女子にパンの塊がぶつかったが、そんなことはどうでもいい。
た、助かった。息が出来る。俺は大きく息を吸った。再び空気が肺のなかに充満する。けど、まだパンの破片が残っているようだ。
「げほっ、ごほっ、ごほっ」
むせる。
あっそうそう。
「た、田原さんもむせたりする?」
田原さんは、多少驚いたみたいだが、すぐに答えてくれた。
「や、矢澤君見たいには、むせ無いです…」
ん?
おいおい。どういうことだ?
俺の予想した答えと違っているぞ。
これじゃあ、俺のペースにならないじゃないか…
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「パンは小さくちぎって食べる。これ、幼稚園児でも知っていることよ」
俺は今、保健室の先生に説教されている。
「大体、何であんな大きい塊を飲み込もうとしたの?」
むせるためだ。何て言えるわけがない。ここはシンプルにいこう。
「お、お腹が早く膨れるため…」
「どんだけ、お腹すいていたのよ。下手すれば握り拳のでかさはあったわよあれ」
おおっ。これが突っ込みというやつか?初めての経験だ。もっと突っ込まれたいな。
「で、では先生は、おにゃか空いている時って、ちょびちょび食うんですか?」
「開きなおってるんじゃないわよ。それに、おにゃかって何よ?可愛いわね」
おお、おおっ。ノリがいいぞこの先生。
「キーンコーンカーンコーン♪カーンコーンキーンコーン♪」
ああ、残念。チャイムだな。そろそろ、教室に戻るか。
俺は先生に一礼してから、保健室から出て行った。この人とは、また話がしたい。そう思えた。
「あ、あの…」
ん?この声は。
「だ、大丈夫ですか?」
何だ。俺が出ていくまで、ずっと保健室付近で待っていてくれたのか。
「あ、うん…」
「そ、そうですか…」
またやってしまった。会話が続かない。この会話終わりの微妙な雰囲気になってから口を開くのは…
もう、いいだろう。
「さ、さっきは…、その…」
田原さんが俺を見る。目をあわせてないから、わからないが、多分俺を見ている。
「た、助けてくれて、あ、ありがとな…」
「い、いえ…」
今度は、照れて下を向いている。
「そ、そのさ…」
全身から汗が出る。
「れ、礼がしたい…。な、ななんでも言って…」
しばらくの沈黙が流れる。
やばい。俺変なこと言ったのか?今、嫌われて、気持ち悪がられているのだろうか?心なしか、さっきと距離が遠退いている気がする。終わった…
「んじゃあ、あ、明日…、買い物に…、い、一緒に…」
良かった。返事が来た。
田原さんの顔は今、火がふきそうなほどに赤い。
「う、うん…。わ、分かった。一時に…お店に、い、行く…」
俺も同じ顔。
「う、うん…」
「うん…」
そしてその後は、会話がないまま、俺たち二人は教室に向かった。
教室に着いたら、俺がパン事件で馬鹿にされたのは言うまでもないが、何故か、いつもよりかは、少しだけ、回りの声が気にならなかった。




