第三話~重なる表情~
学校の帰り道。ふと、思い出したことがある。そう。姉への復讐だ。
もう、めんどくさいから、シンプルにシュークリームでも買って、その中に犬の糞でも入れて姉に食わすか。
そうと決まれば、まずは、犬の糞を探す。が、流石に道路には落ちていない。公園へ行こう。しばらく歩くと
公園に着いた。回りを見渡す。おお、糞だらけだな。よりどりみどりってやつだ。ん?あそこに犬の散歩をしている女の人がいるぞ。女は犬が糞をし終えたら、すぐにその場から立ち去った。よし、あの糞にしよう。
料理ってのは出来立てが一番だからな。俺は、持っていたビニール袋に糞を入れた。これで糞は確保した。後は、シュークリームだ。
確か、ここの近くに洋菓子屋さんがあったな。行ってみるか。また、しばらく歩いたら、洋菓子屋さんが見えてきた。結構でかいな。俺は店に入った。
「い、いらっしゃいませぇ…」
「あっ…」
そこには、店の制服姿の田原さんがいた。こりゃまた、偶然だな。
「や、矢澤くん…」
田原さんが驚いた顔で俺を見る。
一応事情を説明しないと、俺が田原さんに会いに来たと勘違いされるかもしれない。それは避けたい。一歩間違えれば、ストーカーだからな。
「お、俺は、姉に出来立て犬の糞入りシュークリームを食わせたいんだ。だから、ここに来た」
見事だ。我ながら、素晴らしく簡潔かつ目的を的確に表現したものだ。しかも噛まなかった。
「う、うちには、犬の…あの…その…、入りシュークリームはおいてないです…。ごめんなさい」
田原さんは丁寧に頭を下げてくれた。
なあに。心配することはない。
「犬の糞は既にある。シュークリームをくれ」
俺は、取れたて犬の糞入りビニール袋を上げながら答えてやった。
「あ、はい。シュークリームですね。少々お待ちください」
そう言い残すと、田原さんは厨房らしきところへ向かった。
にしても、不思議だ。何故かはしらんけど、田原さんの前で余り緊張しなくなった。
…って違うか。今、田原さんはここの店員。流石の俺も、店員さんには、緊張しない。でもなぜ、ここに働いているんだろう?
「お待たせしました。シュークリームです」
あっそうだ。
「ごめん。2つくれないか」
「あ、はい。2つですね」
すると、田原さんは再び厨房へと向かった。
申し訳ない。けど、確か、あいつシュークリーム好きだった気がする。
「はい、どうぞ。シュークリーム2つで、1000円になります」
なんだと…
1000円?一個500円か。高すぎるだろ。だけど、ここで、ごめん、やっぱ要らんわ。何て言えるわけがない。
しょうがない。一週間分のお小遣いがぱあになった。俺は渋々財布から千円札を出して、田原さんに渡した。
「ありがとうございました」
田原さんは丁寧にお辞儀をした。
俺は半泣きの状態で店から出ようとする。
「あ、あの…」
店の店員ではない、普段の田原さんの声。
俺はばれないように涙を拭いてから田原さんのほうを見た。
「あ、あの…。えっと…」
…何故だろう。今俺は、田原さんが何を言いたいのかが分かる。
俺は、再び出口に向かう。
「あっ…」
俺はドアノブに手を掛けた。
「あ、ああしたも、一緒にご飯!」
落ち着け俺。
「…食べてくれるか?」
目線がドアにあるから、今、田原さんはどんな表情をしているのか気になる。
「う、うん…」
なるほど。
多分俺と、
同じ表情だ。
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俺は今、姉ちゃんの帰りをリビングで待っている。シュークリームのクリームの部分を抜き、糞を入れた。糞は固形のままではなく、ちゃんと潰して、入れてある。
にしても、あれだな。こんなに姉ちゃんの帰りが楽しみなんて、生まれてはじめてである。ちなみに、姉ちゃんは今、大学一年生。わりかし顔は良いほうだと思う。だけど、性格は、最悪。
俺が覚えた悪いことは全部姉ちゃんが教えてくれた。
「ただいま」
おっ。帰ってきた!
靴を脱いで、リビングに近づく。ドアが開かれる。
「あっ、一人いたの?」
「お帰り、姉ちゃん」
俺は普段通りに挨拶した。
「うん、ただいま」
俺はリビングの机の上にあらかじめ、シュークリームを準備した。姉がそれに気がつく。
「おっ、なんだこれ?食べて良いの?」
「うん。母さんが買ってきた」
よし、これで普通のシュークリームである信憑性が高まった。
「そうなんだ。ねえ、一緒に食べよ?」
なんだと…
イレギュラーだ。
「お、俺は良いよ。もう食べたから…」
「大学の帰りに友達とファミレスよってきたから、あんま食べたくないんだよね。半分っこしよ?」
ヤバイヤバイヤバイ。どうしよう。大変なことになった。
姉ちゃんの事だ。ここで断ったら間違いなく怪しまれる。
「わ、わかった」
「うん、今包丁持ってくるね」
姉ちゃんはキッチンの方へ向かった。
どうしょうか。ここでネタばらしをしても良いが、それじゃあ、姉に復讐ができない。それどころか、こんなことをした仕返しが来るに違いない。
もう、俺に逃げ道はない。
姉がキッチンから戻ってきて、シュークリームを半分に切る。
「おっ。チョコクリームだぁ!」
嬉しそうで何より。
姉が俺のほうに来てシュークリームの半分を渡してくれた。
でも、まだだ。まだ救われる道がある。それは、姉が先にシュークリームを食べることだ。今、リビングを包み込んでいる糞臭に気づかない鈍感な姉でも、一口食べれば悶え苦しむ。
その隙を狙って全力で逃げてやる。
「ねえ、せっかくだし同時に食べよ?」
終わった。
覚悟を決める。
「せーの」
パクっ。
俺と姉が同時にシュークリームを頬張った。
おお、これは!
このお口の中でとろける、生温かい犬の糞。鼻の奥まで届くこの異臭。何故だろう…
自然と瞳から涙が落ちる。
どうやら、それは姉も同じらしく、怒り狂った目から涙が浮かんでいる。
「ど、どうしたのあんた達!?しかも何?この臭い」
母が泣いている俺と姉を心配そうに見ている。
母が姉に近づく。
「どうしたの?有紀?」
「う、う、う…」
「う?うがどうしたの?」
「う、うんこがぁ!一人うんこがぁ!!」
母は今度俺の方へ来る。
「あなたもどうしたのよ?一人?」
「ね、姉ちゃんに、ふ、復讐、出来立て犬の糞…」
「はぁ?意味がわからないわ」
それから30分間、俺と姉は泣き続けた。落ち着いた頃を見計らって、母は俺に事情を聞いてきた。俺は素直にすべてを白状し、こっぴどく怒られた。
今思えば、俺はどうかしていたのかも知れない。でも、まあ良いか。姉ちゃんの泣きっ面拝めたし。これにて、復讐完了。
もう二度としないけどな。




