(2)初登校
この町は〝塔〟を所有する町にしては珍しく、田園が広がるのどかな町だった。
中央に市街地があり南部に住宅街、北部は近年大企業の工場が建設されて賑わい始めていた。市街地は目新しい店が増えて住宅街も広がり、工場地域は圧巻の一言だ。
離れていた三年間で移り変わっている場所もあれば、変わらないものもある。
それは、町を囲む田畑と川を挟んでいる西部――田畑に囲まれてあるものだ。
〝パペット塔〟と呼ばれる巨大な円筒形の建造物。
直径は数百メートル、高さは天を突くほどの灰色の石造りの〝塔〟は、数百年以上前に建設されたが、今もなお朽ちることも倒れることもなく存在している。〝塔〟が建設された理由――その機能は汚染された大気や木々、土壌、水などの地球環境を浄化し、維持するためだ。
地上部の高さ以上に、地中深くに突き刺さり、その先端には大地を流れる巨大なエネルギーの川――〝龍脈〟が存在する。
〝塔〟は〝龍脈〟の力を制御し、周囲一体の自然環境を調節する半永久の環境浄化・維持システムだった。
そして、〝塔〟の管理を行う技術者を〝塔の覇者〟と呼び、その候補者として〝気〟で術式を操る《傀儡師》が生まれた。
ユウトは、ぼんやりと窓の外――町並みの向こうに見える黒いシルエットを見つめていたが、ふと視線を感じて部屋に目を戻した。
「……何?」
主のいない学園長室。
始業式が始まる今日は、ユキシノ学園への登校初日だ。
ユキシノ学園は町の南に広がる住宅街にある中高一貫教育の学校で、一・二年で《傀儡師》としての基礎を学び、三年の九月に術式の選定が行われる。その結果で四年からの専攻が決まった。
学園長は職員たちとの打ち合わせで席を外したので、部屋にはユウトと姉しかいない。
「気になるの?」
自分と同じ青い瞳に光を揺らめかせ、ユリナは口元に小さな笑みを浮かべた。肩にかかる程度に伸ばされた黒髪の左右を後ろで一つにくくり、白い肌に綺麗に整った顔立ちは人目を惹く魅力があった。似ているとよく言われる青い瞳から目を逸らす。
「別に……」
「行って来ればいいのに」
「……すぐに何かがあるってわけでもないし………やることがあるから、それから行くよ」
「家の掃除なら、ヒサキたちが手伝ってくれるわ」
家の掃除は定期的にヒサキたちがしてくれていたとはいえ、無駄に広い屋敷の掃除は必須だ。
帰ってきた一昨日から掃除をしているものの、終る気配はなかった。
「……ヒサキさんはともかく、ミナトさんたちは仕事があるよ?」
「二人も頼めば手伝ってくれるわよ」
あっさりと言う姉にユウトは頬を引きつらせた。
ヒサキの家とは家ぐるみの付き合い――仕事上の本家と補佐家という関係で、ユウトたちが家を空けた後も家の管理や仕事を代わりに行ってくれていた。
ヒサキはユリナと同い年で恋人だ。ヒサキには頼みやすいと思うが、彼の姉兄は社会人だ。仕事が忙しいだろう。
ただ、何故か二人は年の離れたヒサキの恋人であり、本家のユリナには弟以上に甘く――それはユウトに対しても同じだ――例え忙しくても頼めば手伝ってくれそうだった。
「とりあえず、調整には行くけど、あとは母さんが来てからにするよ」
両親は一緒に戻らなかった。
父親は仕事で戻ることは出来ず、母親は仕事の事後処理が間に合わなかったからだ。始業式が始まるので先にユウトとユリナだけが一足早く帰り、母親が来るのは三日後だ。
「そう……」
ため息混じりの声に、ユウトは顔をそむけた。
***
迎えに来た担任のあとに続いて、ユウトは教室に向かった。
チャイムが鳴ると周囲からざわめきが消え、教室からは教師の声だけが聞こえてくる。
「ユウヤキと一緒に手伝うのか?」
ぼんやりとしていたところに声をかけられ、すぐに答えられなかった。
担任の猫背気味の背中を見つめる。三十代半ばぐらいの担任は、年に似合わない気だるげな雰囲気のまま振り返らない。
さして興味のない声に目を瞬き、仕事のことだと気づく。
「………いえ。〝練紙〟を渡すだけです」
「君の術式は珍しいからな」
担任はおもむろに足を止めると、顔だけを振り返った。ほとんど閉じている目と目が合う。
一瞬、そこに鋭い光が宿った気がした。
「ほどほどにしておけよ。〝サンクリ〟もある」
「……はい」
三年二組とプレートのある教室の前で「ちょっと待ってろ」と言って先に入っていった。
「よーし。ホームルームを始めるぞー」
やる気のない担任の声がドア越しに聞こえてくる。
「全員そろってるな~? さっさと宿題集めて始業式に行きたいが……喜べ、転校生だ」
ざわっ、と教室内がざわめいて、ユウトは生唾を呑み込んだ。高まってきた緊張をほぐすように大きく深呼吸を繰り返す。
「半分ぐらいは知ってる奴だな。―――入って来い」
呼びかけにドアに手をかけ、教室に入ると全員の注目を浴びた。
あっ、と驚いた声が上がる。壇上の隣に立って軽く教室内を見渡すと半数は見知った顔ばかりで、端の列に灰色の瞳を見つけた。
担任が黒板にユウトの名前を書くと、初対面の生徒たちが大きく目を見開いた。
「自己紹介をしてくれ」
「ユウト・コカミです。三年前まではこの町に住んでいました。また、よろしくお願いします」
「よし。みんな、仲良くしてやってくれ。席はあそこだ」
示された席に向かう途中、何人かのクラスメイトに「久しぶり」と腕を叩かれた。
「さて、さっそく後ろから俺が出した宿題を回してくれ」
「式は名簿順に並べよ」
チャイムが鳴り、担任の合図でクラスメイトは席を立つとユウトの周りを囲んだ。
その勢いに圧されるユウトに、
「コカミ、いつ、戻ってきたんだよ!」
「やっぱ、《傀儡師》になるのか?」
「一昨日に帰ってきたんだ。久しぶり」
身を乗り出すように話すのは旧友ばかりで、その周りを初対面のクラスメイトが囲んでいる。
「〝術具〟は出来るのか?」
「あ、うん……」
「おお~……」と声が上がった。ユウトは苦笑する。
「おーい。さっさと移動しろよ?」
「はぁーい」と、呆れた担任の声に軽く返して、
「術式は? 教えてくれてもいいだろ?」
最後の質問とばかりに無言で期待の眼差しで見つめられ、ユウトは頬を引きつらせた。
「えーと………その、術式は〝序式・始〟だよ」
全員が目を丸くした。
〝序式・始〟は二十三種ある術式の中で、術者が現れることが少ない術式の一つだ。
術式の選定は、未熟な精成回路で気を練り、その性質で判断――識別される。
人が練れる気の性質は一つ。つまり、使える術式は一つだけで気の性質を変えることは、それを精成する回路――身体の中身を変えることと同じだ。
事前に聞いた話では、序式使いはこの町にいなかった。
「〝練紙〟の交換、よろしく」
唖然とするクラスメイトに居心地が悪くなって冗談っぽく言うと、「あ、ああ……」とぎこちなく頷かれた。
〝序式〟の特性――術式が最も活かされるのは、他の二十二種の術式との同時起動だ。
「おい。早く行け」
痺れを切らした担任の低い声に、わっ、と悲鳴を上げながらクラスメイトたちが散った。
ほっと息を吐き、教室の入り口で待つリクに歩み寄る。
「なんで疲れてるんだ?」
呆れた声に苦笑を返し、
「なんか、怖かった……」
「はぁ? ………とりあえず、よろしく」
「こちらこそ」と軽い会話を交わす。廊下に出ると、すでに生徒でごった返していた。
「リンとキキは何組?」
「二人は同じ三組。……この中だと探せないな」
「早く行けよー」と気だるげなキヨカワの声に、ぞろぞろと生徒たちが歩を強めた。
雑談する生徒たちの中で、ユウトに気づいた何人かが足を止める。
「あれ? コカミ?」
「えっ?……ユウト!」
「久しぶり」
ユウトは目を丸くする旧友に笑みを返した。
「帰ってきたのか」
「うん。三年ぶりだね」
「相変わらず、肌が白いな」
「はは。他に言うことあるよね?」
「いやー……相変わらず、もやしだな」
「あのさ……」
旧友の言い草に反論を口にしようとして、
「ユウト、ですって!」
少女の怒声に、ビクリと肩が震えた。廊下のざわめきが消え、生徒たちの足が止まる。
「あーあ……」
リクが隣で呟いた。
生徒の川をかき分け、一人の女子生徒が現れた。赤い髪に勝気そうな茶色の瞳は爛々と輝き、じろり、とユウトを睨む。
「げ……っ」と旧友たちはユウトの周りから身を引いた。
「ハル。久しぶり……」
旧友で同門の女子生徒――ハルノ・アカミヤは大きく目を見開き、
「そのとぼけた顔……ホントにユウトなのね」
「とぼけたって……」
顔を近づけてくるので、ユウトは一歩距離を取った。ハルノは、ふぅん、と一度大きく頷き、
「やっと戻って来たわね。―――ユウト、勝負よ!」
どこか古臭いというか芝居がかっている言葉遣いは、指摘すると火に油を注ぐことになるのでユウトは口を閉ざした。芝居がかった口調は怒っている証拠だと経験が告げた。
「道場で受けた屈辱、晴らすわよ!」
「人聞きが悪いよ……」
「忘れたとは言わせないわ。手加減して!」
「あれは【白澤】に叩きのめされた後だったから、疲れてて……」
「今日の午後三時。道場に来て!」
「聞いてよ、ハル……」
はぁ、とため息をつき、
「引越しの片付けがあるから無理だよ」
「なに? 逃げるの?」
「えっ? だから……」
「見くびらないで。これでも〝特待生〟よ、相手に恥じない力は身につけたわ」
「そうなの? ……いや、そういうことじゃなくて―――って、術式使う気?」
「当たり前でしょ。男なら挑戦に応じなさいっ」
溜まっていた鬱憤を晴らすように叫ぶハルノに、やれやれ、とユウトは肩を落とした。
どうやって止めようかと考えていると、別のところから声が上がった。キヨカワだ。
「実力はあるぞー、アカミヤ。コカミは十人目の〝特待生〟だ」
「止めないでくだ――えっ?」
ハルノや周囲にいた生徒たちはキヨカワを振り返った。
「史上初の二桁だな」
うんうん、と頷いて、「さっさと行け」と指示を出すが、誰も動くことはなかった。
(今だっ!)
ユウトは全員の視線が外れた隙に、開いている窓から飛び降りた。
その高さにひやりとしながらも術式を使って危うげなく着地。
「ユウ――えっ?!」
「どこ行った?」
ざわめく声が頭上から降る中、ユウトはこみ上げてきた落下の恐怖に震えながら体育館に向かった。
***
「ねぇ、三階の高さから飛び降りたってホント?」
「え?」
リンカの唐突な問いに、ユウトは手を止めて彼女を振り返った。
場所はユウトの家にある道場だ。
今日は始業式だけなので三人に遊びに誘われたが、引越しの片付けがあるからと断ると、手伝いを申し出てくれたのだ。昼食はヒサキの家で済ませてある。母屋の方はユリナとヒサキに任せて、ユウトたちは道場の掃除をしていた。
「ハルノを避けるために飛び降りたって聞いたんだけど」
「へ、へぇ……」
ユウトは引きつった笑みを浮かべ、床に顔を伏せた。
(飛び降りるのはまずかったかな……)
他に逃げ場はなかったのだ。姿を隠すにしても公衆の面前では色々とまずいと思い、飛び降りた。
だが、まずさは対して変わらないようだ。
「それに……」
リンカは口ごもり、
「……〝序式〟使いの〝特待生〟だって」
「えっ……あ、うん」
「……本当なんだ」
少し、気まずそうに口を閉ざしたリンカを盗み見て、
「覚醒が原因で首都に行ったから、鍛えていたら自然とね」
ユウトが術式に覚醒したのは、ユキシノ学園に上がる前のことだ。
急激な覚醒の余波で数週間ほど寝込み、目が覚めると首都――祖父のいる本家への引越しが決まっていた。
そして、首都で覚醒した精成回路を安定させるため、鍛えていたら〝特待生〟となった。
〝特待生〟制度の目的は《傀儡師》専攻生の技術の均一化だ。
術式の選定を行ったとき、定められた基準をクリアしている生徒を〝特待生〟とし、三年三学期から四年当初の実技授業が免除される。
その基準となるのが〝練気〟を精成する精成回路の形成率だ。精成回路は術式を構築し、その動力源ともなる〝練気〟を練る器官で、全身を血管のように巡っている。その形成率が高ければ高いほど多くの〝練気〟を練ることができ、《傀儡師》の実力は精成回路の形成率と密接に関わっていた。
〝特待生〟は精成回路がプロと同等の形成率に達したと判断された生徒の総称でもあった。
「すると、人一倍鍛えてた?」
リクは小首を傾げた。
「うん。精成回路を鍛えないと、活性化した反動の軋みで全身筋肉痛みたいに痛かったから」
その一言にリンカが顔を固くした。
「……〝練紙〟は持ってるの? 仕事あるんでしょ?」
「大丈夫だよ。向こうでいくつかもらってきてるし、未成年を前線にはださないから」
《傀儡師》が織れる術式は一つ。
だが、〝練紙〟だけは例外で、すでに術式が織り込まれて発動するだけならば、誰でも扱うことができた。一つだけ欠点があり、その効力は熟練の《傀儡師》でも、選定している《傀儡師》が使った場合と比べて七割程度しか発揮できないことだ。
ただ、〝序式〟は変わった特性を持ち、〝序式〟の〝練紙〟を一緒に使えば、選定した《傀儡師》と同等の力を発揮できた。
それは別の《傀儡師》が使用しても同じで、十全ではないにしろ効力は上がるために重宝される術式だ。
「ふぅん……?」
疑わしげなリンカに内心で動揺しながら、ユウトは付け加えた。
「まぁ、問題はもらっても使えるかどうかなんだけどね」
〝練紙〟をもらう《傀儡師》には、同時に使えばいいだけなので扱いやすい術式だが、選定した方にしてみれば使用難易度の高い術式だった。
例え、数種類の〝練紙〟を持っていても、いざという時に使えなければ宝の持ち腐れだ。
状況に応じて適した術式を使用しようとも、〝練紙〟には限りがあるので戦略も必要となり、限りある無数の手数の中で臨機応変に対応することが要求される。
「そんな呑気に言って……」
「〝サンクリ〟も済んでないから、仕事と言っても〝練紙〟を渡すだけだよ。これでも向こうでは〝練紙〟は扱いやすいって評判だったんだ」
「……ユウくんの〝練紙〟って?」
「見てみる?」
ポケットにある〝練紙〟に意識を向けると、ふわり、と視界の隅を白いものが横切った。
「え……?」
キキコとリンカは目を丸くした。
泳ぐように滑空しているのは、白い光を放つ〝鶴〟。
「白い鶴……」
「キレー……」
〝練紙〟の形状と色は《傀儡師》によって変化する。
だが、元々織り込む紙が白いので、〝練気〟で染まった結果の色が白いのは珍しかった。
「何色にも染まる白………いかにも〝序式〟っぽいな」
「……珍しい色だけど、ちゃんと術式は織り込んであるよ」
意味ありげに笑うリクにじと目を向けて、ユウトは〝鶴〟に目を戻した。
「そんなに見なくても……」
まじまじと〝鶴〟を見つめる二人に恥ずかしくなり、〝練紙〟をしまおうと動かした。
「あ。ちょっと待って、もう少し見せて!」
「わ、わたしも……っ」
〝鶴〟を追って詰め寄ってきた二人の気迫に圧されて、思わず後ずさった。
「い、いいけど……」
少し離れたところに〝鶴〟を固定すると、挟み込むように二人は立ち、
「うわっ………何、この構造……」
「す、すごいね。……この、ココとか……細かい」
(………視れるんだ)
〝練紙〟に織られた術式を視る能力――〝天眼通〟は、先天的に視える者もいるが、訓練で視えるようになる。
リンカとキキコは三年前は視えていなかったので、訓練で身につけたのだろう。
ユウトが〝練紙〟に気を送って動かしているとはいえ、数年鍛えただけで術式の構成が視えるのは才能としかいえない。
「意外?」
笑いを含んだリクの声に、「まぁね……」と、ユウトはため息まじりに頷いた。
リクはユウトと同じく先天的に〝天眼通〟が使えていたので、今更驚かない。
「君が視えていたから、二人とも随分と訓練したんだ」
親友の知らない努力にユウトは少し戸惑ったが、当たり前のことだと思い直す。
《傀儡師》になるために必死に訓練をしている結果だ。
(………変わってないのは、僕だけか)
つと目を細めたユウトに、リクは軽い口調で、
「あっちの方は気をつけろ」
ユウトは目を瞬き、笑みを返した。
「仕事用と同じにした方がいいか……」
「どうするんだ?」
「〝隠過〟をするだけだよ」
紙に織り込む〝練気〟を必要最低限に抑え、より繊細に織り込むことで完成する〝隠過〟は、〝練紙〟の構成を〝天眼通〟で判別されない方法としては一般的な技術だ。
〝練紙〟の効力は織り込む〝練気〟の量によって変化する。
だが、常に多量の〝練気〟を織り込み続けることは負担にしかならないので、少量で効力を維持するために〝練気〟の精錬度――質を高くする必要があった。
精錬度の高さは、〝練気〟を精成する精成回路の形成率と等しい。
そのため、精成回路の形成率が《傀儡師》の実力を見極める基準とされていた。
「〝隠過〟を? ……向こうでも、そうしていたのか?」
「……仕事もあったし、ずっと鍛えていたからそれなりにはね」
通常、〝練紙〟は〝隠過〟を施すことが前提となっている。
仕事として〝練紙〟を渡す以上、当主から〝隠過〟を要求されて訓練した。
「自由自在に作れるのか……」
「〝隠過〟はけっこう便利だよ? 〝練気〟も必要最低限でいいからムダもないし」
「あのRANKは?」
「あれはU‐RANK 6だよ」
〝練紙〟は効力によって1~10にRANK付けされ、最も効力が低いものをRANK1とし数値が大きくなるほど効力が高い。
ただ、学生――見習いとプロのRANK付けは違い、見習いが織った〝隠過〟を施していない〝練紙〟はUnskilled RANK――つまり〝技なし〟と表記される。
それは同じRANKでも精成回路の形成率と技量の差があるためで、プロのRANK 1は見習いのU‐RANK で表せば、2か3の効力はあった。
ちなみに〝隠過〟したRANK 3 ――U‐RANKでは8以上――の〝練紙〟が織れるのは、プロ並の精成回路が必要になり、学園卒業までの最終目標となっている。
「あれでU‐RANKか………俺も〝隠過〟できる?」
ユウトはリクの精成回路を視て、
「〝特待生〟なら、大丈夫だよ」
「じゃ、やり方を教えてくれ」
「うん。いいよ」
リクに頷いていると、リンカとキキコが〝鶴〟から顔を上げて振り返った。
「―――ねぇ、〝練紙〟を作っているトコが見たいんだけど」
「お願い……」
二人の様子から、リクとの会話は聞かれていないようだ。
「いいよ。このあとでね」
「やった! じゃあ、早く掃除を終らせよ」
慌てて掃除に戻る二人を見ながらポケットに〝鶴〟をしまっていると、
「……モテモテだな」
にやり、とリクが笑った。