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ギルド帝国物語  作者: カーレンベルク
ギルド結成編
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第6話 奴隷からの脱出

 馬車が止まると同時に、一人でリクターのほうへと走ってゆくアシェットの姿があった。


 かせにつながれた四人はピクリとも動かない。


 時が止まってしまったかのように、路上に突っ伏している。


 「しっかりしなさい! ねえ、もうそれを外してあげて!」


 「ほう。 こいつは驚きだ。 どこのお嬢様か知らねえが、こいつにはもったいねえ。」


 「バカ神父! 早くじょう前を外しなさい!」


 二人の関係を興味本位で探ろうとする彼に、アシェットは腹を立てて、衛兵の持っていたカギを乱暴にひったくった。


 「大丈夫。 私がついてるわ。」


 神父は彼女の尽力する様に負けたのか、肩をすくめてリクターを運ぶように指示した。


 「おい、この哀れなブタを片づけろ!」





 「リクター。 私はもうダメらしい。」


 突然少年の前に、父マーティンが現れた。


 「何を言ってるの父さん?」


 「私は、騎兵隊に…。」


 「金を返せ、悪魔め!」


 続いて民衆も現れた。


 皆父のまわりで非難の嵐を起こし、石を投げつけている。


 「やめろ! 何をするんだ! やめてくれ!」


 「イマカラオマエのヤロウトシテイルコトニは、数々の危険がともなう! それでもやるのかリクター! ソウゾウモデキナイ嫉妬がオマエがシヌマデつきまとうぞ!」


 「やめろおおおおおおおおおおおおおおおーっ!!!!!!」


 「リクター? リクター! しっかりして!」


 夢から覚めた彼の体はひどく汗ばんでいた。


 耳の中にまだ残っていた砂がガサガサと、異様な音を発していた。


 「はぁ、はぁ…。」


 荒い呼吸を整えると、彼は自分の体のあちこちをベタベタと触り始めた。


 「いき、てる…。 僕は…無事に仕事をやり遂げたのか…??」


 「ええ。 マスターが目が覚めたらギルドを始めるために必要なことを、いろいろ教えてくれるって。」


 目の前にはアシェットの屈託のない笑みがあった。


 「はは…ははは…。」


 「リクター?」


 「っはははははははははは!!!!! やった! やったよ!」


 これで少なくとも低賃金で土地にしばりつけられる奴隷から解放されたことを意味する、そんな笑いが彼からあふれ出てきた。


 今や所持金は実に5000ムー。


 これはユーヴェイルの中流家庭が、家族で数年間は部屋を借りることのできる金だ。


 「僕たち、自由になったんだ!」


 「そいつはまだ早いぞ。 お前の人生はまだ始まったばかり。 だろ?」


 「マスター、疑ってごめんなさい。 本当に感謝します!」


 彼の笑いを聞きつけたマスターを力強く抱きしめると、リクターは自分の身なりが変わっていることに気が付いた。


 「あの…これは?」


 「お前の服はしばらくの間こっちで預かることにした。 もう何日も着っぱなしで臭ってたからな。」


 「そういうこと。 その粗末な庶民の服で、しばらく我慢するしかないわね。」


 よく見るとアシェットの格好もドレスではなくなっている。


 丈の短いスカートのメイド服になっていた。


 「あ、あんまりじろじろ見ないでよ。 この格好が貴族だった私にとってどれだけ屈辱的か、あなたは理解してないわけないでしょう?」


 「み、見てないさ。 ところで僕にギルドのことを教えてくれるんだったよね?」


 二人とも気まずそうに顔を赤くして、リクターは辛うじて話題を切り替えることでこの難局を乗り切ることに成功した。


 「ああ、そうだった。 だが最初に言っておくが、ギルドになりたいからほいほいと気軽になれるわけじゃあねえ。 ギルドってのは相手と取引する立場から、信頼関係が何よりも重要だ。 相手も本当にそいつが信用できるギルドか区別する必要がある。 だからユーヴェイルでは事前の所持金審査があるんだ。」


 「所人金審査?」


 「そう。 お前がギルドになれるだけの金を持っているかどうかだ。 ギルドの上級者になるとほかにも厄介な昇格条件が課せられるが、もちろん、ギルド初心者なのに全く信用のできる相手なんているわけがない。 個人的なギルド結成にあたっては、商売が成り立つ最低額として、1リムノシュペーゼを所持していることが大前提だ。」


 リクターはこの三日間の仕事でもらった所持金を思い浮かべた。


 「確か、5000ムーだから今あるのは5リムノシュってことになるわね。」


 「そう。 この国の金の単位はムーから始まって桁が一つ増えるごとにリムー、リムノー、リムノシュ、そしてリムノシュペーゼとなるんだ。 小僧もしっかり覚えておけ。」


 「でも、それじゃあ僕たちがギルドを結成するのに、あと倍の資金が必要になるってこと?」


 少年はマスターを少しさげすむような目つきで見た。


 「そんな目で見るな。 そういうことは想定済みの給料だ。」


 決して意地でやっているわけではないことをマスターは説明した。


 「リクター。 お前、ギルドの経験はあるか? ないだろう? いきなりぶつけ本番に挑んだところで成功は難しい。 だからその資金はほかのギルドにまず弟子入りして、ギルドのことを身をもって体験しておくためのもんだと思っておくことだな。」


 彼はせっかくギルドになれると思って、しょんぼりしているリクターを尻目に、アシェットにも忠告しておいた。


 「お前もそうだぞ。 どうやってリクターをたぶらかしたかは知らないが、ギルドで世界を統べるとかいう突拍子もない考えを持ってるなら、せめてやる気だけは一人前のど素人で通そうとするのはよすことだ。」


 「な! 誰が!」


 貴族のお嬢様は、何も知らない自分をさらけ出されて、高いプライドをずたずたにされた顔で赤くなった。


 「ふてくされている暇があったら、お前のそのねじまがった妄想をただすことに全力を尽くせ。」


 確かにリクターは今までアシェットと接してきて、自分以上に世の中の事を甘く見ていることに驚かされた。


 マスターの言葉は深くアシェットの心に突き刺さったようだった。


 そう、彼女の姿勢を考え直させるに足る一撃を最後に加えて。


 「今のままじゃ、お前は絶対に世界一のギルドになれっこない。 いや、ギルドを始めるスタートラインにも立っていないと言っていいだろう。」


 「っ! 言い過ぎよ!」


 すでにボロボロと涙をこぼしながら、彼女は現実を説かれて酒場から出て行ってしまった。


 「彼女、怒っちゃったじゃないか…。」


 「あれくらい言わねえと、あの手のお嬢様は一生変わらねえさ。 ところでリクター。 俺からお前に弟子につく価値のある活きのいいギルド連中を紹介してやるよ。 あのうるわしいお嬢様を話ができる状態に戻したら、公園の前にこい。 神父が待ってる。」


 「また処刑関連の仕事じゃないよね?」


 「はーははははっ! 何びくびくしてんだ。 うそはついてねえ。」


 彼はほがらかに笑った。


  

 いよいよ奴隷のような仕事から主人公が脱出しました。いつギルドって出てくるんだって思っている方も多かったと思います。あくまではじめはギルドを結成するまでにできることですので、そこは無理やりギルドに組み込み、取引がうまくいかずバッドエンドにするわけにもいかなかったので…。言い訳のようになってしまいましたが、とりあえず更新です。

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