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ギルド帝国物語  作者: カーレンベルク
ビギナーランク級ギルド編
31/58

第28話 重みを増したもの


 エフドフ砂漠を横断した疲れが残っているのか、リクターはその日ぎくしゃくした体をかばいながら商売をしていた。


 エプトジャムに行けるようになったとのうわさはたちまちミムンに広まり、さっそく物好きな者たちがロッディまでうわさを広めにいった。


 いつものように商売をしていると、『風の剣』のもとにファランがやってきて、ニコニコした様子でリクターを呼んだ。


 「どうしたの村長?」


 「エプトジャムでも商売は順調なようだな? お主たちについてまだ何も聞いておらんが…。 ぜひ話してくれんか?」


 村長の様子がおかしいことにリクターは顔をしかめたが、その背後にうろつくジャルメの衛兵たちがうろつく姿はもっとおかしかった。


 「僕、ちょっと用を思い出したから、村長の相手は頼んだよムファル。 僕たちのギルドについて詳しく話してあげてよ。」


 彼は妙な笑みを見せる村長に苦手意識でもあるのか、一人拠点の方へと歩いて行った。


 村長もそうだが、みな物騒なものを見る目で、剣を腰に下げてミムンを練り歩く兵士たちを警戒している。


 「村長。 ああいうの、ほっといていいの? 僕なら止めにいくけど?」


 リクターがいないと見るや、ムファルは退屈な身の上話などくそ喰らえとばかりに話題をそらした。


 「とめるだって? とんでもないぞ? これは大変名誉なことなのだ。」


 村長の言葉の意味が理解できないまま、ムファルは近づいてきたジャルメの衛兵から衝撃の事実を聞かされることになった。


 「おい、お前。 そこのハゲ。 このあたりに『風の剣』というギルドがいると聞いたのだが、どこにいるか知らないか?」


 いかにも偉そうな態度で、隊長と思われる男が彼に話しかけてきた。


 「教えてもいいけど、僕は自分がハゲていると思ってないから、今の言葉をそのまま受け取っても、僕以外の誰かに言っていることになるよ?」


 「なんだ貴様。 よそ者のハゲのくせに生意気な! 我々がリクターという男のためにわざわざユーヴェイル帝国の旗をこしらえて来てやっているのだ。 少しはありがたく思え、ハゲ。」


 ムファルは思わず調子に乗ってしまったことを後悔した。


 いや、これはひょっとしたら『風の剣』が小ランク級ギルドに昇格したことをねたんだ、よそ者を嫌うこの隊長が、わざとボロを誘うように仕向けているのかもしれない。


 どちらにしろ、ムファルはこの事件に、急いで当事者リクターを呼び寄せた。


 「リクター!! 大変なんだ!」


 「きゃあああああああああーっ!!!!!」


 ノックもせずに部屋を開けられて、着替えの真っ最中のアシェットが金切り声を上げて、ムファルに木の板を投げつけた。


 「おっとすまない! リクター!!」


 「どうしたのムファル?」






 彼は自分たちの小屋にユーヴェイルの旗がゆれる様を見て、しばらく物思いにふけっていた。


 ついに彼は、かつてのアウグストと同じ土俵に立ったのだ。


 しかもアシェット、ガレン、ムファル、エルダーに加え、パウルス、ランソン、ムーメスという大所帯を抱えている。


 通常のギルドの倍稼がなくては採算が合わない人数だったが、決して不安になることはなかった。


 「父さん…。」


 「まさか、だんなと同じ位にまで上り詰めるなんてな。 正直、おめえに任せていいのかって思った時もあったな。 オヤジに会ったら、こんなに立派になったって見せてやろうぜ、リクター。」


 「うん…そうだねガレン。」


 内心では父マーティンのことを気に掛けるあまり、リクターはしょんぼりしていた気持ちを奮い立たせた。


 「ところで、小ランク級ギルドになると、貿易権ってものが与えられるって聞いたけど、それは何か深い意味はあるのかい?」


 「貿易権はその名の通り、貿易する資格ってことだ。 ビギナーランク級ギルドは、海を渡る貿易に必要な最低限の費用を持ち合わせていないからな。 だが、おめえは今や小ランク級ギルドの長だ。 これからは船なりを作って、他国の船と取引することが許されるってわけよ。」


 「でも、僕は船なんて持ってないよ?」


 何を今さらと、ガレンが久々に彼に対してあきれた顔をした。


 「なきゃ材料を買って、一から組み立てるんだよ。 ロムで木材なら売ってるだろ?」


 「えー自分で作るの? めんどくさいわねー。」


 着替え終わったアシェットが、ムファルをジトっとした目でにらみながら言った。


 「誰かに作らせるともっと金がかかるぞ? 言っておくが、ひとたび海に出れば、陸とは違って船の頑丈さが自分の命だ。 船を適当に作ったやつは、自分の命に関しても無関心ってな。」


 「安く、かつ丈夫に作る方法はないかな?」


 「リクター。 木材は安く済むものじゃないよ。 それに言い忘れていたけど、確かに小ランク級ギルドには貿易権は与えられているけど、船はちょうど小さなボートで30リムノシュペーゼするんだよ? 絶対に取引が成功すると分かっていなくちゃ、たちまち破産しちゃうよ。」


 要するに、貿易権を行使したいのなら、とめはしないという程度のものなのだとリクターは理解した。


 「そう…なんだ。」


 その時、ちょっとがっかりしたリクターの気持ちを逆なでするような、威圧的な怒号がミムンの村全体に響いた。


 「おい! どけどけ!」


 「な、なんだ?」


 ---------


 今日における『風の剣』の財力状況


 総額…25リムノシュペーゼ5500ムー

 支出…塩2リムノシュペーゼ

    ザニーニ粉末1リムノシュペーゼ5000ムー

 収入…塩4リムノシュペーゼ

    ジュース3リムノシュペーゼ

    土地代2リムノシュペーゼ5000ムー

 残り…31リムノシュペーゼ5000ムー

 中ランク級ギルドに昇格まで、あと168リムノシュペーゼ5000ムー


 「ようやく『庶民グループ』から抜け出せたわね。 もう少しギルドの所持金が増えたら、二度とはげのムファルが入ってこないように、核シェルターを作ってやるわ!」


 「言っておくけど僕はハゲていると思ってないから ― 」


 「そうね。 じゃあ、ハゲてるって少しは自覚できるように、私が頭皮をまるごと沸騰した鍋の中に入れて、果実みたいにむいてあげる。 そしてあなたはこう叫ぶの。 ねえ、見てみて僕の頭皮、きれいにむけてるでしょ!」


 「たっ助けてーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


 恐怖のあまり、ムファルは次の日からまるで犯罪者のように顔を全身マスクで覆い隠すようになってしまった。


 

 ついにリクターは昇格しました。これも読者の皆様が支えて下さったおかげです。ありがとうございます!

 またしばらくしたら、小ランク級ギルド編を掲載したいと考えております。では、第28話更新です。

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