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ギルド帝国物語  作者: カーレンベルク
ビギナーランク級ギルド編
21/58

第18話 隣国へ1

 ムファルが『風の剣』の拠点から探し出した地図によると、ジャルメは砂漠の国ということになっていた。


 「ジャルメ王国は乾燥した気候で、暑いところだよ。 この地図を見る限りはね。 ベーヌイからひたすら西へ進むと、国境の町ミュワに着く。 そこからしばらく歩くとジャルメの東に位置するロッディに着くはずだよ。」


 「へえ。 そいつは楽しみだね。」


 リクターがいつまでも彼の隣国に渡る目的を言わないせいで、ガレンがイラついて癇癪かんしゃくを起し始めた。


 「ああ、リクター! 一体どうしようってんだ! 今度失敗したら、俺たちユーヴェイルに帰ることすらできなくなっちまうぞ!」


 「そうなるだろうね。 だから、今のうちにこの風景を頭の中にしまっておいた方がいいよ。」


 ガレンは彼の言葉にますます頭を抱えた。


 「ねえ、リクター。 本気…なの?」


 「僕は初めからそのつもりだけど?」






 結局、彼らはリクターの考えを理解できないまま、酒場のマスターと神父に別れを告げた。


 唯一の救いは、マスターがとっておいたワインとハムを少しわけてくれたことだ。


 ついでに神父からも、わけのわからない古びたムチをプレゼントされたが、盗賊に襲われたとき、女性

が使うのにちょうどいいのだという。


 アシェットが持つと、それは一層不気味に見えた気がしたが、リクターは彼女に怒られそうなので、あまり見ないようにした。


 彼らがそんな土産話にもならないことをしているうちに、ミュワの検問所が見えてきた。


 ここから先は隣国なのだと、騎兵隊の見張りがいかつい顔で前を見据えていた。


 「おたく、どちらまで?」


 「ジャルメのロッディまで。 見ての通りギルドだ。 いいでしょ?」


 警備中でありながら、見張りはくちゃくちゃとチーズを食いながら、ふさがった口の代わりに何度かうなづいた。


 彼らはミュワには立ち寄ることはなかった。


 立ち寄る用もなければ、立ち寄るに足る金を持ち合わせていなかったのだ。


 ただまっすぐとロッディへと続く国境を越えて、しだいに強くなる日の光と赤いジャルメ特有の土へと景色が変わることばかりに関心をよせているように見えた。


 夕暮れが近づくと、ロッディの町は赤一色の壁と土で埋め尽くされていた。


 アシェットが先ほどからもじもじと服のすそを引っ張ったりしている。


 「暑いわね。 汗がまとわりついて気持ち悪い…。」


 「ロッディについたし、どこかで休んだほうがよさそうだね。」


 「リクターさん。 みんなそう言ってるし、休みませんか?」


 軍隊生活をしていたガレンを除いて、エルダー、ムファル、アシェットは完全にへばっているようだった。


 「心配ないよ。 さっそく拠点を借りに行こう。」

 

 ジージーという耳障りな虫の鳴き声がする中、『風の剣』は住居を貸し出す受付所へと立ち寄った。


 妙な小さい吹き抜けがあるせいで、屋根の役割を果たしていない天井が印象的な受付から出てきた男は、グレーのローブで彼らを出迎えた。


 「ギルド用の拠点にいい部屋はない?」


 「あんたら、どこのもんだ?」


 男の警戒する目つきに、ガレンとそういう気があるからか、エルダーがにらみつけていた。


 「ユーヴェイルから来ました。 『風の剣』のリクターと言います。」


 最初に名乗らなくては何事も信用されない、ここはじっくりと我慢すべきなのだとリクターだけが心がけていたようだ。


 「ユーヴェイルか。 じゃあこっちだな。 いくら出せる?」


 ―『リクター、2000ムーまでだからね?』―


 「2000ムーならすぐ近くにある。」


 男の地獄耳にムファルが驚く間もなかった。


 「ちょっと、お金お金!」


 あわてて少年が金を渡すと、男は表情ひとつ変えずにそれをふところに入れた。


 「…。」


 感じの悪いにもほどがある、こっちは客なのよとアシェットの顔がそう言っていた。


 「着いたぞ…。」


 「て…ここ、家畜小屋じゃない!」


 彼女の言葉通り、窓もない小さな石造りの小屋には、片づけ損ねたわらのカスが散らばっていた。


 おまけにブタ臭い。


 「あなたねえ、冗談じゃないわ! 真面目に商売する気あんの?」


 「ない。」


 男はなにをあたりまえのことを、とでも言いたげに即答した。


 「あんたらこそ、わしをみくびる気か? たかが2000ムーごときのはした金持ってる客にへこへこしてるほど、こっちは暇じゃないんだ。 うちにはもっと大金持ちの御仁が来る。 しょっちゅうな。 それに、あんたらみたところユーヴェイルのよそ者だろう? ジャルメでは、同じ国の人間同士を大事にするのさ。」


 「それって変だ。」


 「何が変なんだ小僧め。 同郷の人間が苦しんでいるときに、誰がよそ者に気を遣っていられる。 そんなものはジャルメの恥さらしだ。 いずれにしろ、2000ムーじゃここと似たり寄ったりだぞ?」


 吐き捨てるように言う男に、リクターは黙って耐えるしかなかった。


 だが、黙っている彼なりの秘策もあったようで、我慢できずに男につかみかかろうとしていたガレンを少年の手が止めた。


 「リクター? こいつを一発殴らせろ。」


 「いいや。 殴る必要なんてないよ。 むしろこっちの方が好都合さ。 僕たちがあのゴサロさえも手が出せなくなるくらいに大きくなるにはね。」


 ------------


 今日における『風の剣』の財力情報


 総額…5000ムー

 支出…2000ムー

 収入…0

 残り…3000ムー

 小ランク級ギルド昇格まで、あと29リムノシュペーゼ7000ムー


 「ははははははは! 諸君、絶望したまえ! アシェットお嬢様は気まぐれのメスブタだ。 そう何度も会えると思うなよ? ご対面には嗜好品がいる。 そう、情け容赦ない断罪によって刈り取られる罪人どものー!」


 神父が現れた。


 しかし、その言葉が彼女の何かに触れたようで、神父は飛んできたタルをよけた拍子に、ブリッジの姿勢になったため、またの筋肉をひきつらせてひどく痙攣けいれんした。


 


 

 寒いからか、砂漠に飛び込みたくてこういう設定になったのでしょうか、いまだ自分でも謎です。では、第18話更新です。

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