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ギルド帝国物語  作者: カーレンベルク
ギルド結成編
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第8話 小ランク級ギルド『風の剣』2


 アウグストの所有するギルド拠点は、酒場から出てすぐの、下町の裏通りにあった。


 古ぼけた民家の間に押し込められたように立っているそこは、細長い二階建ての建物だった。


 二階にもうけられた唯一の窓からは柵にくくりつけられた、赤い下地に金の三つの王冠が並ぶユーヴェイルの帝国旗がゆれている。


 「ここが小ランク級ギルド、『風の剣』の拠点だ。 見ての通りあばら家だが、中には私が信頼する仲間たちが待っている。」


 「小ランク級ギルド? 貧乏ってこと? うぷっ!」


 めったなことを言うものではないと、リクターはアシェットの口を素早くふさいだ。


 「我々の現在のギルドの規模や実力、財力を示すランクのことだ。 下から順に、ビギナー級ギルド、小ランク級、中ランク級、上ランク級ギルド、さらにはエクストラランク級ギルド、帝国騎士級ギルドと続いている。 我々は小ランクでしかないが、貧乏でも別にかまわない。 ギルドにとって大切なのは商売をしたいという志だ。」


 彼は特に体面などは気にしない性格ということが、今のやりとりで明らかになった。


 「そうだ。 君たちにまだ言ってないことがある。 ここではなんだし、とりあえず中に入ってくれ。」


 ほこりっぽい土のついた木のドアをあけて、二人はギルド拠点の敷居をまたいだ。


 中はそれほど豪華というわけではないが、ガラス製のショウウィンドウがいくつもあり、中の調度品の数々は一点の曇りもないほど、入念に手入れされていた。


 一階の部分はほぼそれで埋め尽くされていて、あとはタルが二階へ上がるための階段の下に並んでいた。


 「二階では今私の仲間たちが、明日の取引に向けて商品を手入れしている最中だ。 君たちにもぜひ学んでほしい。」


 彼はそう言って二人を促すと、二階への階段を上がっていった。


 「ガレン、ムファル、いるか?」


 アウグストの呼び声に応じて、一人の少しぽっちゃりとした、背の低い中年男が振り返った。


 「ようアウグストのだんな。 ガレンは今馬車の調子を確かめてる。」


 鼻をつまんだような声の、へこへことしたタイプのムファルは、汗まみれになっている作業用のタオルを頭から取った。


 黒いはげかけの髪の毛を整えると、その瞳は若い二人にくぎ付けになった。


 「おや、まあ…。 どうしたんだいこの子たちは。」


 「酒場のマスターから紹介してもらった。 まだ若くてこれからの将来が楽しみだよ。 紹介しよう、リクターとアシェットだ。」


 二人はお互い軽い会釈えしゃくで済ませるつもりだったが、近づいてきたムファルに手をにぎられて焦った。


 貴族社会では初対面の相手に直接触れることは、基本的に失礼とされているからだ。


 「君たちも、これから一緒に旅をしたりすることになる商売仲間だ。 仕入れの現場もみてもらうよ。」


 ムファルは当然そんなことはおかまいなしに、さっさと次の話を始めた。


 「ああ、仕入れの現場と言っても、勘違いしないでほしいことがあるんだ。 確かにここでも商品の積み込み準備はするが、ギルドの取引に必要な商品は、ただ拾ってくるものじゃない。 ロムと呼ばれる仕入れ集会場があるんだが、ほとんどのギルドはそこで取引用の商品をまず買い付けておかなくちゃならない。 今からガレンと一緒に行ってもらう、いいね?」


 「へっ、中が騒がしいかと思えば…こんなガキ二人相手に何を教えろってんだ。」


 いかにもやざくれた感じの若者が、こざっぱりとした短い金髪をなびかせ、いつの間にか彼らの後ろに立っていた。


 「馬車はもういいのかガレン?」


 「順調そのものだぜだんな。 ところで、こいつらがあんたの言ってた新人か?」


 「ああ。 今からお前が世話をするんだ。 大事な人材育成に手を抜くことは、今後のギルド運営の根幹にかかわる。 わかっているな?」


 面倒くさがりの性格を心配しているのか、アウグストはガレンに厳しく忠告した。


 「わざわざ言わなくても、期待以上にして帰ってくるから、その面洗っとけよ?」


 「楽しみだ。」






  


 リクターとアシェットにとって、そこは一度は見たことのある場所だった。


 昨日馬で引き回しにされた道の、つきあたりの丘の向こう側にいくつも帝国の旗が立っていて、ギルドの商人たちが道端に絨毯じゅうたんひとつの即席露店を物色していた。


 「俺たちは、たいていここで取引に必要な商品を買い集めてる。 ここで売っているものをさらに高い値で売るのがギルドの基本だ。」


 「えー。 わざわざ高いギルドから買う人なんているの? 損しちゃうじゃない。」


 アシェットの納得しない表情に、さっそくガレンはイラついているようだ。


 「おめえな。」


 「まあまあガレン。 彼女は納得できる理由がほしいんだよ。」


 「な! 新入りのくせに前にでてくんな。 まったくよ…。」


 ぶつぶつ文句を言いつつも、ガレンはにんまりとほほ笑むリクターの作戦にはかなわなかった。


 「いいぜ。 なぜ損をしちまうような売り方をするか。 そいつは俺たちギルドの規模が小さいからだ。 アシェットだったか? おめえの想像しているような、直接作った原価で売るには、工場とか、ギルド直属で運営している産業拠点が必要になるだろうが。 俺たちを含め、ここにいる連中にはそんなものを作る金はねえ。 だから、規模が小さいギルドはいかにして原価を高く設定して売るかで勝負してんだ。」


 ガレンのうんざりした顔に、アシェットが頬を赤くしていた。


 今さらながら、自分がギルド初心者ではあるが、かなり常識はずれな質問をしたことを恥じているようだ。


 「あ、アシェット…。」


 「ふん!」


 照れ隠しのつもりなのか、彼女は心配そうに見つめるリクターに笑いたければどうぞ、という具合に冷たく顔をそむけた。


 「ええ! それ僕のせいなの?」


 「ああ、おめえが変な同情するから、こいつが傷ついたんだよ。 貴族ならそのくらい分かれっての。」


 心外にもガレンはアシェットの味方をし始めたが、関心は早くこのいざこざを片づけようと必死になっている気持ちが伝わってきた。


 「リクター。 おめえ、ためしに何か買ってみろ。 ただし制限は5リムノーまでだ。 妙なもの買われて大損したら取り返しがつかねえからな。」


 「本当に…僕が買っていいの??」


 いつの間にか心臓の脈が早くなっていた。


 これから、彼は商人としての一歩を歩むことになるのだ…。


 

 主人公はこれからいろいろなことを学んでいきます。一応ファンタジーですので、ギルドの世界に迷い込んだかのような、そんな風に感じるような世界観を作るために、リアルに描きたいと思っています。今日二度目になりますが、更新しておきます。では…。

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