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ギルド帝国物語  作者: カーレンベルク
ギルド結成編
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第7話 小ランク級ギルド『風の剣』1


 「いた。 こんなところに…。」


 ひざを丸めて、いつもの公園に座り込んでいる彼女は、彼が来ると知るやいなや思いがけない質問をした。


 「ねえ。 あなたの夢は父親を超えることだったわよね?」


 「え? ああ。 そうだけど…??」


 「私がどうして世界一のギルドになりたいのか、そうは聞かないの?」


 今まで自分のことに必死で、そんなことは考えたこともなかった。


 「あのさ。 お嬢様の言い訳みたいって、あのマスターなら言うかもしれないけど、私は過去の贅沢ぜいたくな生活から抜け出せないだけで、別にわがままをとおして生きていこうって思ってるわけじゃないの。」


 「ああ。 同じ立場だから、それは痛いほどわかるよ。」


 今はひとまず彼女を立ち直らせることが先決だ。


 少年はできるだけ親身になって話を進めようとした。


 「いいんじゃないのかな。 今のままでも。 元貴族の立場から言わせてもらうとさ…一度贅沢をすると、なかなか抜け出せないんだ。 多くの庶民たちは自分たちの生活で精いっぱいだから、当然貴族たちの気持ちなんてわからない。 今まで多くの貴族たちを見てきたけど、皆恐れてた。 貧しい人々を。 恐れているからこそ、自分たちのしていることがいけないことなんだって、考えているんじゃないかな?

 貧しい人と貴族、どちらが正しいのかなんてわからない。 でも僕は、アシェットが今思ったように、みんな考えていると思うんだ。 だから、自分は根っからの悪人だなんて責めないで。」


 「リクター…。」


 「いつの日か、彼らにもわかってもらおうよ。 君が貧民を踏みつぶすなんて言葉を使ってしまうのも、本当は強がっている自分を悟られたくないだけなんだってことを。」


 彼は彼女の目を真剣に捉えて離さなかった。


 「そうだ。 君が本気で今の自分を変えたいと思っているのなら、貧しい人の支えになる金持ちになったらどうかな? 商人出の貴族としての浅はかな意見だけどね…。」


 「貴族の私が…庶民の支えに…??」






 「よう。 案外早かったな。」


 酒場に二人で戻ると、ニヤニヤと若い模擬カップルの甘いひと時に探りを入れるマスターの視線が痛かった。


 彼の横にはカウンターに頬杖をつく一人の鎧姿の男がいた。


 うつろな目をして、グラスに入ったワインを飲み干しもせずにぐるぐるとまわしている。


 「さっそく紹介させてもらうぜ。 こいつがギルド志願者のリクター・ウィリアム・クレッグハートと、その妹、アシェット・ドーミィ・ブノリフ・ジスカワヤフだ。」


 「い、妹なんかじゃないわよ。」


 マスターの言葉にいたずらに頬をふくらませるアシェットに反応して、男が立ち上がった。


 背が高く、年齢も三十はいっていそうな、しかしマスターのようなあぶらぎったおやじという感じはどこにもなかった。


 あくまでさっぱりしていて、女性が言い寄ってきそうな紳士的な柔らかい声色だった。


 「アウグスト・シュトラッハだ。 君たちのような若い世代が欲しいと思っていたところだ。」


 彼はかぶとをとって軽く会釈した。


 「ようこそ。 我がギルド『風の剣』へ。」


 「こ、こちらこそよろしく…。」


 リクターのたじろいだお辞儀に合わせて、アシェットも遠慮がちに頭を下げるまねをした。


 「ギルドの長らしくないやつだが、いい目をしてる。 こいつとならうまくやっていけるさ。」


 マスターは自信を持って二人に言い張ったが、アシェットの言葉に逆に自分が自信を喪失しそうだった。


 「ギルドに長っているの?」


 「ユーヴェイルだけじゃない。 世界中がそうだ。 よく世界一になるって言えるな、嬢ちゃん。」


 彼は不安だったのか、ギルドの基本的なことについて説明し始めた。


 「いいか。 ギルドとは言っても、お前らが想像しているような、取引するキャラバン隊が全てじゃねえ。 全てのギルドは自分の拠点を持っている。 なんのためかわかるか?」


 「拠点がないと物を仕入れることができないからでしょ?」


 「そうだリクター。 お前は商人の出だから少しは分かるようだな。 物を仕入れて売るためにそれを保管しておく拠点が必要だ。 当然、その品物を管理する人間もキャラバン同様必要になる。」


 「ようやくわかったわ! だからギルドを始めるのに1リムノシュペーゼもかかるのね?」


 「理解できてきたじゃねえかアシェット。 その通りだ。 拠点の土地税のほかにも、商品を仕入れるための金もいる。 キャラバンには欠かせない馬も、それに長旅の身を守るマントやローブ、襲撃に備えた剣、相手先に失礼のないように、商品を吹きさらしで運ぶわけにもいかねえしな。 取引先までの距離が長ければ宿泊代も馬鹿にならねえ。 万が一のトラブルに備えた予備の費用だって必要になるかもしれねえぞ?」


 気難しそうな顔をしている彼女の肩がこわばっていた。


 どうやら今教わったことを、一度で頭にたたきこもうとしているようだ。


 「基本を覚えてもらうのもいいが、出発を明日に控えている。 今日この二人を勧誘したのも、明日に向けての拠点の準備作業を覚えてもらいたいからだ。」


 アウグストの言葉を聞いて、マスターは一言悪かったとわびを入れた。


 「ああすまん。 まあ、その真面目なところがお前のいいとこでもあるんだけどよ。 習うより、まずは慣れろ、だ。 二人ともいいな。」


 いよいよギルドに加わることができると思うと、二人は満足気な表情で返事をした。


 「はい!」


 「ええ!」


 

 いよいよギルドを紹介されましたが、どうなることやら…。というわけで第7話更新します。

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