桃色の砂糖水
こんにちわ。
恋那です。
初めて短編小説で、こんなに長いの書きました。
では、どうぞ。
あの約束は今も。
有効ですか?
「香ぅー。」
あれは確か、夏の香りがして、向日葵が僕等を見下ろしてた頃。
「私を。かおるのお嫁さんにしてください!」
「・・・・僕を、えみちゃんのお婿さんにしてください!」
「約束だよ?」
誓ったあの約束は今でも有効でしょうか。
*** *
西川香。
男子高生2年生。
只今幼馴染に片思い中。
益若恵美。
幼馴染。
同級生の、同クラ。
幼馴染の運命の糸は。
何色ですか・・・・?
*** *
すまし顔で俺を見上げる君。
いつからそんな顔をするようになったんだろう。
いつの日か俺たちの間には距離が生まれ。
話す事もなくなった。
いつからだろう。
君に彼氏が出来て、幸せそうな顔するようになったのは。
頬をピンクに染める君と擦れ違う度に、願ってた。
ーーもう一度、こっちを向いて・・・?--
*** *
「なー。香?俺さー。彼女に振られちったよぉ。」
「ふーん。」
「相変わらず冷てーなぁ。彼女出来ねーぞ?
あっそか。香は一途なんだよなー?」
「うっせぇよ!てか、こっち近寄んな!気持ちわりぃ。」
「酷でー。」
隣で落ち込むこの男。
古西疾風。
世間で言う、イケメンの部類に入る。
顔良し、成績良し。お調子者で人気。
じゃあ何故振られる?
答は簡単。女に目がないからだ。
「てか、香奥手すぎる!」
「でも。約束とかしたし・・・・。」
「駄目!そんなんじゃ女の子に逃げられるよ!?」
「逃げられてんのお前だろ・・・・?」
「がびーん。」
効果音を発する疾風を無視して俺は恵美を見つめる。
いつになったら君に思いが届くのだろう。
*** *
君は俺の事、どう思っていますか・・・?
ただの、幼馴染ですか?
それともただ、一緒に帰る人ですか?
夕日に照りつけられて、陰が二つ、顔を出す。
「「・・・・・・・・。」」
「あ、のさ。」
「ん・・・?」
「何でもない。」
もどかしくて、甘酸っぱい思いが頭を掠める。
甘い様で、ほろ苦い空気に包まれる。
「恵美?覚えてる?」
「ん。何が・・・?」
「この場所。」
恵美はキョトンとした表情をする。
やっぱり・・・・。
恵美は覚えてなかった。
ここでした約束の事ももう。
覚えてないのかもしれない。
しっかりと君の姿を目に焼き付けて。
この思いを断ち切った方が良いのだろうか。
「覚えてるよ。」
優しい声で君は静かに呟いた。
「でも。もう昔の話でしょ?」
「俺の気持ちは変わってないよ・・・?」
「え。冗談はやめて?」
「冗談じゃないから。」
いつの間にか言葉は真剣なものとなり、君を見つめる。
「今更・・・・なんでよ。私にはもう。彼が、いるんだから・・・・。」
*** *
「香もとうとう振られたかぁー。」
「んなデカイ声出すなよ・・・・。ヘコむから。」
「まぁ振られた者同士。仲良くしよーぜ。」
「やだ。」
嘘でもあの時。
“今更・・・”だなんて言って欲しくなかった。
もし俺がもっと早く恵美に気持ち伝えられてたら・・・・?
もし俺がアイツよりも早く恵美に好きだって言ってたら・・・・?
あの約束は叶ってた?
*** *
£emi
「俺の気持ちは変わってないよ・・・?」
「え。冗談はやめて?」
「冗談じゃないから。」
「今更・・・・なんでよ。私にはもう。彼が、いるんだから・・・・。」
一瞬だけど揺らいだその気持ちに迷いを感じた。
このままだと信じてた日々が壊れちゃいそうで。
怖くって、涙隠しながら走って帰った。
「ごめん、ね。かおる。」
もしあの時私が素直に君に気持ち伝えられてたら。
今日の様に傷つく事は・・・・迷う事はなかったかもしれない。
私が勝手に失恋しちゃったと思わなかったら。
運命は違ったのかもしれない。
ーー3年前ーー
幼馴染で、格好良くて、ばかな香が好きなんだ。
でもこの気持ちをどうしたらいいか、判らない。
香とはここ最近全然話してない。
一緒に帰ったりしてるけど、ほとんど喋らない。
彼の・・・・香の気持ちが知りたくって。
嘆いて、苦しんで。
でも、気づいたんだ。
伝えなきゃ、意味ないんだって。
「恵美・・・・?」
「へ?」
「スキだよ・・・・?」
「私も好きだよ・・・・。」
きっと。
香の『スキ』は。
友達として、幼馴染として、スキって事なんだ。
私はどう頑張ってもただの幼馴染。恋人にはなれない。
ーー君はあの約束を覚えていますか・・・?ーー
*** *
£kaoru
君の気持ちが判らない。
俺の『好き』は、恋愛としてなのに。
君は昔から俺の事を、『スキ』と、言っていたよね・・・・?
いい加減。あの約束を本物だと言ってよ。
偽りだなんて、言わないで・・・・。
「あぁー。香見てるとウジウジする。」
「どういう意味?」
「もー。もどかしいっつーか、勿体ないっつーか。うぎゃーぁー。」
頭抱えて叫ぶアイツをいつもの様にシカトする。
恋愛経験豊富な疾風から見ると俺は本当に何も見えてないのかもしれない。
でも。それでも。
好きな奴の事はちゃんと見てるつもりだった。
幼馴染の想いとか、知ってるつもりだった。
でも。
ただ幼いときから一緒にいただけ。たまたま、あの時一緒にいただけ。
一緒にいる時間が長いからって、もしかしたら。
もしかしたら・・・・・。そんな思いがあったのかもしれない。
俺は恵美の事を知らない。
どんな恋をしてきたか、どんな思いでいつも過ごしてるのか、何も知らない。
相談された事だってない。
それは、俺には相談出来ない事があったから。
俺では、恵美を支えられないから。
相変わらずの情けなさに腹が立つ。
いつになったら俺は。この恋から卒業出来るのだろうか。
恵美の事が好き。
でもそんな気持ちじゃ・・・・。
そんな気持ちだけじゃ、恵美を守る事も出来ないし、苦しめるだけだ。
早く。
忘れよう。
* * *
£emi
放課後になったのに、香の姿はなかった。
こんなこと、一度もなかったのに・・・・。
「かおる・・・・。」
石ころ蹴りながら、とぼとぼ歩く。
「寂しいよ。」
一人になったら。いつも考えるのは幼馴染の君の事。
私には大切な彼がいるのに、考えるのはいつも、香の事。
どうして・・・・。
恋は。
こんなにも残酷なのですかーーー?
香に対する想いを断ち切ろうと、來檎と付き合い始めたのは事実。
彼が私を守ると言ってくれて、私は彼の思いに甘えた。
彼に惹かれてゆく自分もあったけど、私の中ではあの約束は永遠になって。
いつしか比べる様になってしまったのかもしれない。
來檎と、香を。
どんなに來檎を好きになっても。
私は香が好きだった。
この気持ちはイケナイ事・・・・。
あの日私が香を傷つけた。
傷つけた事に私も傷ついた。
これ以上、自分の気持ちに嘘付きたく、ないよ。
そしたら足が急に早く歩きだして。
涙が頬を掠めたけど、そんな事もうどうでも良くなってって。
あの人の・・・・來檎の家に向かってた。
*** *
“ピンポン ピンポン”
小さく古着な音に緊張を覚える。
ーーガチャーー
「恵美・・・・?どした?」
「來檎・・・・。私、貴方を幸せに出来なかった。
貴方に甘えてばっかで・・・・・。」
優しそうな彼の瞳は一段と優しくなっていて。
疑問が浮かぶ。
「本当にゴメンナサイ。大切な人がいるの。
こんな私を好きになってくれて、アリガトウ。」
「恵、美?」
「サヨウナラ。もう、行くね?」
最低な別れ方して、逃げるつもりだった私。
「待って。」
そんな私の手を掴む。
「え。」
「俺は、幸せだったよ?恵美を好きになれて。
むしろ、俺が恵美を幸せに出来なかった。ごめんな。」
「っ。そんな事n」
「幸せになれよ?」
「來、檎・・・・。」
「バイバイ!」
一生懸命手を振る彼の瞳にはちょっとだけ雫が光ってて。
私も泣きそう。
でも。
駄目だよ。
私よりももっと、來檎は辛いんだから・・・・。
「ばいばい!ありがとう來檎!大好きでしたーーーーーー。」
思いっきり息吸って、大声で叫んだんだ。
君に思いが届きますように。
*** *
£kaoru
「ったく疾風め!」
疾風のノロケに付き合わされ、かなり遅い時間まで残された。
この前振られたーっつって落ち込んでたのに、もう新しい彼女かよ。
急いで靴箱行ったけど、もうそこには恵美の姿はなかった。
こんな事、一度もなかったのに・・・・。
でも。
あたりまえの事だろ?俺らは付き合ってるわけでもない。
恵美だって、彼氏と帰りたいよな・・・・。
なんか思春期の娘持つ親父みたいになってきた・・・・。
もう考えるのやめよ。
とぼとぼ歩く。
いつもだったらこの道は短く感じるのに、今日は何故か遠く感じた。
恵美がいないから・・・・?
石ころ蹴ったらあっさりと池に落ちた。
ーーポチャンーー
水面に浮かんだ葉は緑に茂り、濁った水へと引き込まれていった。
池は渦を巻き、グルグル回る。
石は既に沈み、手の届かない所へと向かってゆく。
何も考えずに、あの河原に下りる。
雑草がすげぇ生えてて、でも寝転んだら気持ちいい。
夕日が綺麗で、思わず見惚れてしまう。
そんな光景は何故か一つの影に塞がれた。
寝転がってる俺を真上から見下ろしてる。
「恵美・・・・・?」
「香?一緒に帰ろ?」
「帰ったんじゃ・・・・・。」
「香こそっ!!!」
「いいよ。帰ろう。」
寝転がる俺の手を掴み、引き上げる。
まるであの頃に戻ったかのように。
何度となく願った。
ーーあの頃に戻りたいーー
「あの約束。私ずーっと。信じてる。」
「えっ。」
「私。香の事が好きです。」
「・・・・俺も恵美の事が好きです。」
「大きくなったら、私を香のお嫁さんにしてくださいっ!」
「・・・・俺を。
恵美のお婿さんにしてください・・・・。」
「エヘヘ。可愛い!顔真っ赤じゃんー。」
「うっさい!!!もういいから、約束な?」
「うん。約束!」
「「好きだよ?」」
この場所で、俺たちはまた。
約束をした。
この約束は、永遠に有効です。
fin.
読んでくださり、ありがとうございましたーーーー!!!!