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貧乏侍・泥喰い剣

 時は正保三年、三代将軍家光が治める徳川幕府の時代。ここ江戸では先年に将軍家剣術指南役である柳生新陰流の当主・柳生宗矩が亡くなり、世に名高い剣豪・宮本武蔵もまた六十四でこの世を去った。

 既に戦国の世を感じさせるものは少なく、徳川の庇護の下、幕府は太平磐石なものと相成る。


 ここに一人の痩せ浪人がいた。色褪せ埃臭い着た切り雀の一張羅を羽織り、腰に丈の短い脇差をぶら下げ、頭はざんばら。辛うじて髷の成れの果てみたいなのが申し訳程度にちょこんと乗っている。

 目は落ち窪み、頬はこけ、無精髭は伸び放題。武士は食わねど高楊枝と言うが、これなどは食わえる楊枝すら持ち合わせぬ、何とも酷い有様である。

 この痩せ浪人、元をただせば陸奥国会津藩二代目当主・加藤明成に仕える下士であったが、藩が御家騒動で改昜されると口減らしに藩を追い出され、浪人となった。それが三年も前の話である。仕官の当てもなく、長屋で傘貼りなどしてはその日暮らしで食いつないでいたが、とうとうその長屋も蓄まりに蓄まった家賃が払えずに追い出された。それじゃあ、いっそ江戸にでも出てもう一花咲かせようかと住み慣れた会津を旅立ち、ぶらぶらとやって来たのが一月前。気の身着のまま転がり込んだ貧乏長屋。腰の刀を質に入れて作ったわずかばかりの金もとうとう先日使い果たし、今日食わねばそこらでのたれ死ぬかはたまた辻斬りでもして金を盗るかするしかないなと考えていた。


「しかし刀は質に入れたまま。錆びた脇差し一本では、どうにも心許ない」


 何か落ちてはいやしないかと地面を見つめながら、懐に入れた手でぐうぐうと鳴り止まぬ腹を抱え町中をぶらりぶらりと宛てもなく歩いていると、丁度手前の角を曲がって来た旗本の紋を付けた若侍三人。その内の一人と腰の物がぶつかった。


「おい、貴様」


「は?」


「は、ではあるまい。今し方貴様の刀の鞘が俺の刀の鞘にぶつかったのだ。無礼であろう」


「これは失礼致しました。考え事をしていたもので」


「考え事だと、浪人風情が。刀を差していなけりゃ乞食とかわらんわ」


「いや、面目ない。勘弁して下され。この通り」


「いいや、勘弁ならぬ。刀を抜け。たたっ斬ってくれるわ」


 因縁をつけてきた若侍が刀を抜いた。連れの若侍二人はこのやり取りを遠巻きににやにやとしながら眺めている。痩せ浪人は腰の物に手を当てながら、どうにかしてこの場をやり過ごそうと思案していた。



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