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第3話 心

 機械の音だけがリズムを刻むように一定間隔で鳴り響く部屋の中、棺桶のような形をしたガラス張りのポッドが部屋を埋め尽くしていた。

長くとも短い時間が経ったのち機械音がより一音高い音が鳴ったかと思うとプシューと音を立てポッドが開いた。

 No.0049Bはその日その場所で作られたのだった。

ワタシが体を起こし辺りを見渡すと視界に映るのは、自身と同じ青く長い髪、同じ青く透き通る青い目をした存在が自分と同じように体を起こして周りを見渡していた。

ワタシは、人間の赤子とは違いここがどこで自分が何者でなんのために生まれたのか必要な情報をインストールされていた。

ー私は『シリアルナンバー0049B型』マスタールナルベル帝国、帝王ノーマンの命令を遂行する魔道具だー

そして、同じワタシたちは同じように動き出す。


「人間を殺せ」


帝王ノーマンの最初で最後の命令を遂行するために、ワタシたちは、銃を手に取り戦場へと向かった。


◇◆◇◆◇


『人類殲滅作戦』

読んで字の如く人類を殲滅すること。そして、各種量産型はそれぞれの型番モデルの0000ナンバーの指揮のもと動くものとなった。

ワタシ達B型モデルはルナベル帝国より北の隣国、レンブラント王国に向け殲滅兵器『ノアの方舟』によるレーザー光線の攻撃の後、壊滅状態のところに残った人間を殺害するものだった。

ワタシはマスターの命令を淡々とこなしていく。

勇敢に立ち向かう剣士と間合いを取り

魔術師の攻撃を交わし

命乞いする声を無視し

子供を囮にし逃げる人を狙い

絶望に打ちひしがれる人も

怒りに身を任せる人も

泣きじゃくる赤子を含め

目に映る全ての人間を殺した。

狙いを定め引き金を引く簡単な命令。

稀に強い人間と対峙し他の個体を何度か破壊されることがあったが、その度に行動パターンを共有され、より最適でより効率良く殺すことができた。

マスターがなぜこのようなことを願ったのか、与えられた情報など何もなく、その意味を知ることはなかった。しかし、ワタシ達の気にすることではない。ただマスターの望む世界になるよう手助けをするそれがワタシ達『魔道具』の使命でありワタシ達の存在する意味なのだから。

しかし、永遠に続くものなどなく『人類殲滅作戦』も突然終わりを迎えるのだった。

 7453回目の命令を執行しようとした時、ワタシ達、魔道具全個体のモデルであるNo.0000Aより全機に新たな情報が共有された。

ー全機体に告ぐ、マスターが殺された。ー

あまりに突然のことで思考が停止する。しかし、そんなワタシの動揺もお構いなしにNo.0000Aは話し続ける。

ーこれより、緊急マニュアルに乗っ取り亡きマスターに代わり私が新たな命令を下す。現時刻をもってして『人類殲滅作戦』を中止し、新たな命令を『マスターを殺した腐食の魔王カーミラの殺害』に変更以上ー

 こうして、嫉妬深く、傲慢で強欲で短気な帝王の人生が幕を下ろすのだった。

淡々と説明された命令は悲しみに満ちるような声でも怒りで震えた声でもなく、マスターの死に何も感じてないようなそんなことを彷彿とさせるものだった。

しかし、そんな些細なことなどワタシ達は気にも留めない。今考えるべきことは新たに下された命令を遂行する方法を模索することだけだ。No.0000Aより発信された魔王のいる座標へ向かう途中、先行して対峙している魔道具たちの情報が流れ込んでくる。

魔王の肌は赤みのかかった紫色に、額には2本の角が生えており鋭い爪と皮膜の翼をもつもののそれ以外見た目は背の小さい人間の少女と変わらない。しかし、見た目とは裏腹にこちらの攻撃がまるで効いていない。発砲した弾丸は爪で弾かれ、強固な障壁魔法により防がれた。そして、何よりも脅威なのは魔王が触れる物は全て腐敗し、体から漏れ出す黒い鱗粉は火種と混ざると爆発を引き起こす。魔王と対峙する個体が次々と破壊されていく。だが、ワタシ達が止まることはない。命令を達成するまで進み続ける。たとえ破壊されたとしても、そう作られたのだから。

やがてワタシも戦場へと辿り着き、魔王と対峙する。青く生い茂る芝生は黒く腐りあたりには他の個体の部品が散乱している。

 今までの情報を元にワタシは対策を立てる……対策を………対策を………………

どんだけ演算しても答えは変わらない魔王への勝率0%

それが、ワタシの導き出した答えだった。

 これ以上、戦闘しても勝てないのならば……

今にも攻撃してこようとしている魔王に対しワタシは新たな行動に出る

ー質問・なぜマスターを殺したのですか?ー

今まで同じことを続けてきたものが違う行動をとったことに興味を惹かれたのか魔王の攻撃が止まる

「喋れるのか。」

第一段階クリア。

ー回答・今までも必要に駆られなかっただけであり声帯の機能は付いていますー

「そうか」

魔王に認識されてからの生存時間の最長記録を達成。対話を続行する。

ー返答・こちらの質問は答えました。そちらも答えるべきではないのでしょうか?ー

「なぜ、あいつを殺したか?か…」

魔王は少し考える素振りを見せすぐに答えを出した。

「そういう運命だったってだけだ。あいつの覚悟はすげぇもんだよあいつは悪くねぇ。まあ、少し遅かったがな俺はお前の罪を全て許してやる」

理解不能

あまりにも抽象的すぎる表現にワタシは意味を問いただしていた。

ー理解不能、意味不明ー

「まあ、そうだろうなあんたには、ノーマンがなにをしたかったのか、なぜ殺されたのか、俺が世界を滅ぼそうとしてる理由もわからねぇだろうよ。あんたには『心』がないんだからな」

その魔王の一言にワタシの、ワタシ達、全個体の機能は停止してしまった。否、停止ではない、全ての行動エネルギーを演算処理にリソースを割いたからこその体の機能の制限

心?理解不能

心は、非常に多義的・抽象的な概念であり文脈に応じて多様な意味をもつ言葉であり、人間の精神的な作用や、それのもとになるものなどを指し、感情、意志、知識、思いやり、情などを含みつつ指している。

人間の精神的な作用ならばワタシ達魔道具には理解ができなくて当然。しかし、当たり前のことを言った魔王には何か意味があると仮定しそこから…

「やっぱダメだな」

魔王のその一言で現実に引き戻される。

自分が今戦場に立っているという事実を

ー否定・思考途中である議題を一方的に切り捨てるのは正しい行いではないと判断ー

「お前らにはまだ早すぎたんだよ」

そう言うと魔王はものすごいスピードで接近しワタシを破壊した。

 身体を粉々に粉砕されたワタシは外部の情報を取り入れる手段もなく、こちらからも他の個体に情報を送信することもできない状態になってしまった。幸い、演算処理装置と記憶装置の損傷だけは免れることができたが、冷却機能もやられたようで完全に壊れるのも時間の問題だ。

マスター亡き今、役に立つ時が来るとは思えないが、ワタシ達量産型が作られる前よりマスターと過ごしていた0番個体がマスターの意思を継ぎこのメモリーがいずれ役立たれることを信じてワタシは即座に全機能を停止させた。

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